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「じゃあ、その水晶玉で両親の様子を見てちょうだいよ」


 気怠い視線をそれに向けると、老婆は慌てた様子で水晶玉に向き直った。


 目を閉じ、ムムムと唸り、大げさな様でパッと開眼する。


「――大丈夫! 元気だよ」


 その声を受けたノルンは、表現しがたい衝撃を受けた。


「……そう」


 自分でも分からぬ内にほろりと涙を落とす。


 老婆の言ったことは明らかな虚偽だったというのに、彼女の放った言葉はは今までかけられたどんなものよりも心に染みた。



「ありがとう。おばあさん、おいくらかしら?」


 手で涙を拭いながら、できるだけの金額を出そうとノルンは思っていた。


「そうさね。大型銀貨で三枚ってところさねぇ」


「(――ぼったくりじゃねぇかっ!!)」



 内容に見合わない請求に、思わずノルンの本性が出てしまった。だが、そのお陰で緩んだ思考がピンと閃く。


「おばあさん、あなたに金貨を授けましょう」


「なにっ、騙しているんじゃなかろうね?」


 懐から小袋を取り出す。小型金貨を、見せつけるように一枚ずつ、一枚ずつ、テーブルへと並べた。



 合計で五枚の金貨を目の当たりにした老婆が「ひえええ」と恐れおののく。


「ねぇ、おばあさん。その占いグッズと身ぐるみ全部、売ってちょうだいよ。私、占い師になりたいの」


 ノルンが微笑む間もなく、老婆はすでに全裸である。


 少女の冷ややかな眼差しを受けても老婆は気にしなかったらしい。

 五枚の金貨を手にした彼女は、凄まじいスピードで闇夜に姿を消してしまったのだ。




 ノルンは新たに占い師としての道を歩み始めた。


 占いの代金は相手とお悩みによるが、大体が銅貨一から三枚の間である。


 生活費が足りないので路地裏で体を売りながら、迷える子羊たちに『星占い』と称した悩み相談を請け負っていた。



 顔や体が隠れている分、長く町に滞在できた。


 たとえ似非の占い師であっても、悩みを親身になって聞いていれば、お客は晴れやかな顔をして去っていく。


 ノルンは今までないほどの充実感を覚えていた。


 占いは人の心を救う手立てになる。聞き上手だって、立派な素質なのだ。


 そんなことを考えていたノルンの元へ、男のような幼声がかかった。


「おい、星占いをしてくれ」


 目の前に立っていたのは、フードからブーツの先まで全身、黒ずくめの装いをした小柄な人物である。


 マントの中からやせ細ったそろそろと手が伸びてきて、一枚の大型銀貨が落とされた。



「当たっていたら、この銀貨を倍に増やしてやろう」


 わざと目を見開いて、「へぇ、二枚も」と驚いたような表情をする。

 相手は、凄むように顔を近づけてきた。


「……だが、外れたら」



 その瞬間、相手はテーブルに乗り上げて、ノルンの首元へダガーナイフをあてがった。


「おまえの、命を貰う」


 ノルンにとっては、相手の小さな殺意など微塵も怖くなかった。

 ただ、「面倒な客」であることは間違いない。



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