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お姉さんがつぶやいた言葉が、ただ、嬉しかった。
遥香は誉められたことよりも、ちっぽけだった自分の可能性を感じて喜んでいた。
しかし、喜びの日々は、そう長くは続かないらしい。
ある日。
家の扉が乱暴に叩かれる音がして、遥香は顔を覗かせた。そこには鎧を着た兵士の男たちが立っている。
「これは王命だ。たとえ子供であっても順ずるように」
紙を差し出されたが、遥香には些か難しい内容だった。クエスチョンマークを浮かべていた遥香を押しのけて、お姉さんが紙を強引に奪う。
「……うそ、でしょ」
「なんですか、お姉さん」
「ハルカ、広場へ。早く行きましょう」
「わ、分かりました」
町の中央部に広場がある。
そこに町中の女たちが集まっていた。
「これは王の勅命だ。いいか、今から、場内で働ける女を斡旋する」
「ハルカ」
「はい、お姉さん」
「これはチャンスよ」
「?」
「いいこと、こっちが合図をしたら魔術を発動するの。一際大きい奴を空へ打ち上げてちょうだい」
「はい、分かりました!」
お姉さんの合図を受けて、目映い白光物を空へと打ち上げた。驚いた兵士らとひとりの神官が駆け寄ってくる。
「今の魔術を放った者は前へ」
その命令を受けても、お姉さんは動かなかった。
遥香が命令に従うか悩んだタイミングで、お姉さんが歩み出た。神官の前で膝を折る。
「わたくしは、魔術師です。祖国のため、血の滲むような努力をしてきました。いずれは神官として、人々に貢献したいと思っております」
「なるほど。では、先ほどの上位魔法は君が?」
遥香は期待を込めてお姉さんを見上げる。彼女の顔は今まで見たこともないような晴れやかな表情で光り輝いていた。
「――もちろん、私です!」
「よし、魔術師。王宮に配属する。すぐに来られるか」
「畏まりました!」
「娘、そちらの子供は知り合いか?」
「わたっ……」と遥香が言葉を続ける前に、お姉さんが叫んだ。
「いいえ、存じ上げません! 一体、どこの子でしょう」
「……おねえさん?」
兵士は「ふむ」と一声うなって、踵を返す。お姉さんはその後に続きながら、言葉を続けた。
「あの子はどうやら奴隷のようです。さっき背中に刻印が見えました」
その瞬間、兵士が振り返った。冷酷なほど怖い顔。遥香は瞬時に危機を感じた。
まるで脳内で誰かが、「逃げろ!」と強く訴えかけているような感覚だった。
遥香が駆け出すと、背から「そこの子供を捕まえろ!」という男の怒号が響く。




