+(8)+ ★
「やだああああ、いやだあああもうやめてよおおおお」
二度目はすぐにやってきた。痛みで悲鳴も出なかった。
三度目のことは、よく覚えていない。
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ハッと目を覚ました時、遥香は毛布にくるまれていた。悲しげな目をした大人の女に顔を覗き込まれている。
「そう、助かったの。良かったのか、良くなかったのか、分からないわ」
「……?」
「体の傷は回復しておいたけど、心の方は魔術師でも治せないよ。これから、がんばって、生きるのよ」
暖かな手で頭を撫でられて、わなわなと体が震えた。
わっと泣き出すと、女は遥香を抱きしめてくれた。
この世界に来て、はじめて感じた温もりだった。
つまるところ。旦那様はやりすぎた。
国からの制裁によって、偉い立場を剥奪された者たちは各方面へと散り散りに消えたそうだ。
遥香は自分を助けてくれた魔術師の女の家へ居候していた。
彼女は日本でいうところのいわゆる苦学生。王に使える神官となるために魔術学校で修行しているところだという。
「――お姉さん!」
「ハルカ、できたの?」
「はい、お姉さん」
彼女の前に手製の料理を運ぶのが、遥香の仕事だ。後は、買い物、掃除、洗濯、時間があいたら本を読んでもいい。
痛いことのない全くない生活。なんて、幸せなことだろう。
こういうのを大人は『ゆうがなくらし』というのだろうか。遥香には笑顔の花が咲いていた。
「はぁ、この世界はおかしいわ」
「えっ」
「はぁ、絶対におかしい」
お姉さんの口癖はこれだ。一日勉強した後に夕暮れには決まってこの台詞をつぶやく。
もしかしたら彼女は、この腐った世界を嘆いて、革命を起こしたいのかも知れない。
遥香は勇者のような彼女と自分の姿を思い浮かべては毎夜、興奮していた。
「わたしもお手伝いがしたい。苦しい思いをする人がいないように、世界を変えたいの」
そう宣言したら、お姉さんに「変な子ねぇ」と笑われてしまった。
遥香はだいたいの時間を家事で終わらせてしまう。本を読む時間など、夢のまた夢だった。
それでも何かを掴もうと、学ぼうと、合間を縫っては必死でお姉さんのすることを盗み見て、姿を模したり、魔術の真似事をしていた。
「で、できたっ!」
半月が過ぎた頃。遥香はついに竜巻のような小さな風を、手のひらの上に呼び出せるようになった。
それは、少女の小さな心に「世界を救えるかもしれない」という希望の芽が顔を出した瞬間であった。
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遥香はメキメキと頭角を現し、お姉さんが扱える中級レベルならば、殆どの術式を発動できるようになっていった。
「ハルカは、本当に世界を救えるかもしれないね」




