緊張の誘い
『彗、いまいいか』
俺はその日の夜、彗にメッセージを送る。
『ん。大丈夫。なに』
『突然であれだけど、明日の放課後に時間が欲しい。少し話したいことがある』
既読はすぐについたが返事は返ってこない。何か変なことを送ってしまったか? それとも急すぎたか? 俺はメッセージを削除したい気持ちを抑えながら彗の返事を待つ。
『わかった』
既読がついてから五分経った後、そんな簡素な返事が送られてきた。これで明日、彗と話すことが出来る。けど、俺は上手く話せるだろうか。月はああ言ってくれたけれど、正直上手くできる自信はない。俺は気を紛らすようにベッドに倒れこんだ。
『ありがとう』
返事としてそれだけ送って俺はスマホを充電器についないで、ベッドの横に置いた。
とりあえず明日どう話すか少し考えておかないと。俺は目を閉じてどうしようかとグルグルと思考を巡らせた。
次の日の朝は俺の考えがまとまるよりも先に訪れた。どんなに考えても答えなんてでないような気がしてならない。けれど時間は待ってはくれず、すぐに学校へ行く時間になってしまった。少しはこっちの事情も考えてほしいものだ。
「おはようございます」
「おはよ」
教室へ行くと月が俺が席に座る前にやって来る。
「今日話すんですか?」
そして席に座るなりそんなことを言ってきた。
「なんで分かったんだ?」
「すごい緊張してそうな面持ちでしたので」
「そんな分かりやすかったか」
「はい」
これは気を引き締めなくてはいけない。
「ふふ」
「なんだよ」
「いや、とても分かりやすくて可愛いなと」
「それは男に言う言葉じゃないだろ」
「そうですか?」
「そうだよ」
そんな話をしていると教室のドアが開いて彗が入ってきた。月と共にその方向を見た。
「なんか彗さんも緊張してそうですね」
「……そうか?」
「はい。そう見えます」
確かによく見るといつもより歩く動きが固い気がしなくもない。正直言われないと分からないぐらいだ。彗が緊張しているのなら何に緊張しているのだろうか。
「じゃあ、私は行きますね」
教室の時計を見ると、もうチャイムが鳴る時間だった。俺は手持無沙汰で窓を通して外を見る。
実際に彗の姿を見るとより緊張して少し固まってしまった。こんな調子で放課後は大丈夫だろうか。俺は再び考えをまとめるために頭の中でセリフを考え始めた。
相対性理論とでも言うのだろうか、いつもの怠い授業とは裏腹にすごい速さで一日が終わり、放課後になった。なってしまった。上手い言葉は何も考えついていない。
ちらほらと教室から同級生が出ていく。その喧騒の中で、彗が座るところだけが俺には一際静かに、特別に見えた。行かなくては。
「……彗、一昨日の公園でもいいか?」
「ん」
俺は覚悟を決めて彗にそう言った。




