燻る種火
それからはなんてことないことを話した。まるで数年来の幼馴染に会ったような、そんな気分だった。
しかし、その逢瀬も長くは続かなかった。授業終了のチャイムが鳴ったからだ。今までのどんな授業よりも早い五十分だった。
「鳴っちゃいましたね」
「だな」
「次の授業もさぼりますか?」
「そしたらもう放課後だよ」
「だったら今から帰っちゃいます? 放課後デートですね。浮気はダメですよ」
冗談めかしく訊いてくる。
「それは魅力的だけど、鞄が教室だよ」
「……残念です」
「ほら、戻ろうか」
「えー」
距離が縮まったからか、月が子供っぽくなった。俺が少し困っていると、
「冗談ですよ」
と言って、ちろっと舌を出した。
「行きましょ!」
月は勢いよく立ち上がると、俺の方に手を差し出した。俺はその手を取って立ち上がった。
「二人ともどこ行ってたの!」
教室に戻ると、鈴が腰に手を当てて怒ってきた。本当に申し訳ないと思っている。
「少しさぼってた」
「もー! 彗も遅刻してくるし、誤魔化すの大変だったんだから。何があったのさ」
「ちょっとね」
「月ちゃん?」
俺から何も聞けないと思ったのか標的が月に替わった。
「はい」
「何してたの?」
「朝日さんの言う通り、ちょっと話をしてただけですよ」
「もー、月ちゃんもそんなこと言うの!」
「ふふ。すみません」
「なんでそんなに楽しそうなのさ!」
二人でわちゃわちゃ話している間に俺は自分の席に座った。
すぐに彗が俺の横に来た。
「あさひ」
「すまんな。見つけたのに連絡しなくて、おかげで遅刻させちゃったみたいだし」
「それはだいじょーぶ」
「じゃあどうした」
彗は何か話したそうに口を小さく開いたが、直ぐに閉じてしまった。それでも何かあるのか隣に留まっている。
「えっと、彗? 何かあるなら何でも言ってくれ」
「ん。分かってる」
けれど不満はあることを表すように彗は一歩俺に近づいてきた。もう当たってしまいそうだ。
「彗さん」
「なに」
「当たりそうなんだけど」
「ん。知ってる」
「……そっか」
「ん」
さらに一歩近づいてきた。もう俺の肩に彗の腕が当たっている。
「あさひ」
その声に俺は彗の方に向き直った。
「きょうほうかごひま?」
「うん。暇だけど」
「いっしょ帰ろ?」
「いいけど、どこか行くか?」
「ん。その時までないしょ」
彗はすっかりいつも通りになっていて、それだけ言って自分の席に戻っていった。何か言われると思ったら、放課後の誘いだった。終始不満げだったから少し叩かれるぐらいのことは覚悟しておこう。




