さぼりと縮まる距離
「どうしましたか?」
突然の行動に目を丸くした月がそう訊いてくる。俺は慌てて手を離した。
「すまん」
「……戻りましょうか」
「待ってくれ」
「授業始まっちゃいますよ」
そう言う顔もなんだか儚げだ。まるで何か大切なものを失ってしまったような、そんな顔。
「…………さぼらないか?」
俺はそれが嫌で気づいたらそんな無責任な言葉を口走っていた。何故だろう。今まで避けてきたじゃないか。何をいまさら。
「さぼりですか?」
きょとんと首を傾げている。
「すまん。忘れてくれ」
「わすれません! ぜひさぼりましょう!」
「……はは」
なんだかさっきの様子とは裏腹の目の輝きに、つい笑ってしまった。
「なんで笑ってるんですか」
「いや、なんかさっきの深刻な感じからいきなり変わったからなんだかおかしくて」
「だって、それは朝日さんが……」
「あははっ」
「あ! また笑いました!」
そんなこと言っている間に授業の開始を告げるチャイムが鳴った。これでもうさぼり以外の選択肢がなくなった。
「さぼっちゃいましたね」
「だね」
「なんでさぼろうなんてこと提案してくれたんですか?」
「なんでだろうね」
「分からないんですか?」
「うん。でも、なんか色々思い出しちゃったからかもしれない」
「色々ですか?」
「そう、色々」
「そうなんですね」
月は俺の横に再び座った。そこから追及するわけでもなく、ただ座っている。意外だった。
「聞かないのか?」
「話したいなら聞きます。でもはなしたくないなら聞きません」
「そっか」
「はい」
普段しないさぼりという行為に少しドキドキする。小学校の頃にしたずる休み以来のドキドキだ。
「なんか悪いことしている気分ですね」
「実際悪いことしてるしな」
「ですねっ」
彼女は自身の膝にもたれるように上半身を傾けてこっちに笑いかけてくる。最初の人に無関心そうな彼女はもうここにはいなかった。
「あのさ」
「はい」
あー、緊張する。わざわざいう必要なんてないんじゃないか。そのための今の交友関係じゃないか。浅く広く。けれどあんな顔をさせてしまったのだ。決意はしたけれど、何も話せない。
月は俺の二の句をじっと待っていてくれている。なんだか悪いことをしてしまった時に、母さんに自分のしたことを自首するのような感覚だ。
「あー、なにから話したらいいだろ」
ついそんな言葉で間を繋いだ。
「別に離さなくてもいいんですよ。私はただ朝日さんと仲良くなりたいだけなんです」
「いや、話すよ。今を逃すと永遠に離せなくなりそうだし」
「そうなんですか?」
「うん。なにより月にあんな顔させてしまったから」
「あんな顔?」
「気にしないでくれ」
「すこし気になりますけど、はい。分かりました」




