相談会の解散
先輩はザッハトルテを食い終わった後、ショートケーキを食べようとするフォークが手が止まった。
「これ、残りあげる」
そして俺の方にショートケーキを差し出してくる。
「お腹いっぱいなんですか?」
「違うわよ。全然頼んでないからあげるの」
「そうですか」
「なによ。不服なの?」
「そんなことはないですよ。ありがたくいただきます」
「そうよねっ。ここのショートケーキ美味しいんだから」
先輩は得意げに胸を張っている。
「ねーお二人さん。私たちがいること忘れてない?」
鈴が腕を組みながらこっちを見つめてくる。
「そんなこと……、ないわ」
それに先輩が泳ぎ目で答える。彗は俺のワイシャツの袖をクイっと引っ張ってくる。俺は彗の方を見るけれど、彗は俺の方を向いていなかった。
「すい?」
そう声をかけても返事は返ってこなかった。けれど、その掴んでいる手は俺の袖を離す様子もなかった。俺は諦めてショートケーキを食べ始めた。
「ねえ」
先輩は肘をついて俺の方をじっと見やるとそう口を開いた。
「なんですか?」
「いや、なんでもないわ」
ふいっと先輩は顔を逸らした。
「それで先輩はどうするんですか?」
「なにが?」
「信夫先輩のことですよ」
「そんなこと? 別に何もしないわよ。もう終わったこと。まだ今日の夕飯の方が興味があるわ」
ついた肘を離して先輩は椅子に背をもたれた。
「確かにそうですね」
「ねえねえ、そんなことよりここのショートケーキ美味しいでしょ?」
「はい。とても」
「そうでしょ。お気に入りなの」
先輩は自慢げに笑った。
「先輩、ごちそうさまでした」
「いいのよ。気にしないで」
「そういってもですよ」
「じゃあつぎ何かあったらその時に奢ってもうらうわ」
「はい」
あれから少しだべった後、会計を済ました俺たちは帰路についた。といっても駅付近なのですぐに別れることになってしまうのだが。
「でも海先輩ってほんっとうに可愛いですね!」
「それって褒めてるの?」
「それはもちろんですよ」
「そう? それならいいんだけど……」
鈴はすっかり先輩の事が好きになったのか先輩のすぐ横を陣取って歩いている。
「あさひもそう思う?」
隣にいる彗がそう訊いてくる。
「まあかわいい人だとは思うよ」
「そう」
舗装された道を歩く。前には先輩と鈴の二人が楽しそうに歩いている。隣の彗はさっきの言葉の他に何を言うでもなく歩いている。
「わたしよりも?」
しばらく歩いてもうすぐ解散するところに着くという時、聞こえるか聞こえないか微妙な声量でそう言った。
「突然どうしたんだ?」
「いや。いい。気にしないで」
「気にするだろ。別に先輩の事が好きとかそういうんじゃないから」
「しってる」
そういうことではないのだろうか。まったく分からない。
「今日はありがとうございました! 私たちはこっちなので!」
鈴が前で先輩に頭をペコッと下げている。彗も鈴の方に歩いて行ってペコリと頭を下げた。
「自分はこっちなんで」
「じゃあ解散だね。こっちこそありがとう。またね」
「はい! また!」
俺は彗の後ろ姿を見ながらさっきの言葉の意味を考えたが、やっぱり答えはすぐには出ず、考えることを止めるために家を目指して目を逸らした。




