喫茶での相談
「まさかみんなここを知ってるなんて……」
あらかた注文を終えた後、先輩は肩を落としてそう言った。
「まあ自分のバイト先なんで」
「そう! それよ!」
がばっと正面の先輩が距離を詰めてくる。
「なんで教えてくれなかったのよ! なんか秘密のお店紹介するみたいな感じで連れてきたあたしが恥ずかしいじゃないの!」
「いや、流石に言えませんて」
「なんでよ!」
「別の店だと思ってたんで」
「じゃあ着いてからいえば良かったじゃない!」
「……それは榛名さんに逆らえないので」
口が裂けてもからかわれている先輩を見ていたかったとは言えなかった。
「まあたしかに……」
「何が確かによ」
そんな話をしている間に榛名さんが注文したコーヒーやケーキを持って現れた。先輩はすぐに姿勢を正した。
「いや、別に榛名先輩の悪口とかじゃないですよ」
「へえ」
「信じてください! 榛名先輩の悪口いう訳ないじゃないですか!」
「まあ信じといてやろう」
「はい!」
なんだかこの二人の関係性が分かってきた気がした。
榛名さんが注文の品を置いて戻っていった頃、鈴が口を開いた。
「先輩、何があったか聞いてもいいですか?」
先輩はまるでリスのようにケーキを口に詰め込こんで食べているせいで返事できないでいる。返事をしようとすぐに飲み込もうとするが出来ずに慌てている。そして俺のほうに視線を向けてくる。お前が話せと言わんばかりだ。
「えっと、じゃあ俺から話すけどいいですか?」
先輩に目線を向けると、頬を膨らませながらコクコクと頷いた。俺は事の顛末を知っている範囲で出来るだけバイアスがかからないように話し始めた。
話し終わることには鈴はわなわなと肩を震わしていた。
「そんな感じで今に至ります」
「それはね! 海先輩悪くないよ!」
「ん。先輩騙されてた」
「やっぱりそうなのかなー」
すっかり食べ終わった先輩はそう言った。
「そうなの! 海先輩、可愛いんだからもっといい人絶対にいるから!」
「ん。別れて当然」
女子陣がとても盛り上がっている。話した俺はもはや蚊帳の外になった。先輩はというと当事者なのに呑気にストローでアイスコーヒーを飲んでいる。
「というかそんな人となんで付き合ったんですか?」
「ん? みんながお似合いだーって言ってたし、最初は優しかったから。それに男の人と付き合ったことなかったし」
先輩……。
「海先輩……」
「ん?」
「なんか、なんて言ったらいいかあれなんですけど」
「うん」
「なんか将来儲かる話があるとか、みんなやってるからで勧めてくる人がいたら誰でもいいので相談してくださいね」
「なによ。みんな、そんなあたしが騙されると思ってるの?」
「はい」
先輩はすねたようにストローで吸うが、もう中身は氷がほとんどで、ズズズという音が鳴った。そして俺の方へ視線を向けてくる。俺はその内容を肯定するように頷いた。先輩はそれを確認するとストローから口を離して俯いた。しばらく固まってから突然手を上げた。
その様子を見ていたであろう榛名さんがこっちにやって来る。
「榛名先輩、追加でザッハトルテください。それとショートケーキも」
「先輩?」
「いいの! 今日はもう食べるの!」
顔を上げた先輩は彼氏と別れたことよりも、後輩に心配されている方が心外だったのだろう、頬を膨らませて唇を尖らせていた。正直怖いとかよりも可愛いが勝つ顔だった。




