まさかの行先
そこから先輩に連れていかれたのはとても見覚えのある場所だった。なにしろ俺のバイト先だったのだから。
「いらっしゃいませー」
「榛名先輩! お久しぶりです!」
「おー! 海じゃん。おひさ」
「今日は後輩連れてきました!」
「へえ、あ」
そして榛名さんと目が合う。俺は軽く会釈する。この二人知り合いだったのか。だったらこの中で知り合いじゃない人はいないじゃないか。世間は狭いとはよく言うがそれは事実だった。
「えっとですねー、こっちの子がー」
「鈴ちゃんでしょ?」
「え! なんで知ってるんですか?」
「それでそっちが彗ちゃん」
「彗ちゃんまで!」
榛名さんは得意げにみんなの名前を当てていく。それに先輩は驚くという、知っている人間からしたら先輩がただからかわれている様にしか見えない。事実そうなんだろうけど。
「それで、そっちの男の子が……」
そして榛名さんは俺に向かって指をさす。
「誰だっけ」
「流石の榛名先輩でも知りませんか。この子はですね東 朝日っていうんですよ」
「へえ、そうなんだ」
なんか先輩が可哀想になってきた。
「海はその東くんとなにで知り合ったの?」
「えっとですね、ちょうど私が朝、彼氏ともめちゃってて、落ち込んでるところで話を色々聞いてもらったんです」
「ふーん。東くんなかなかやり手だね。なんか大学生みたい」
「だいがくせい?」
「うん。よくいるのよ、どうしたん話きこかって」
「大学生ってみんな優しいんですね!」
先輩……。そのまま育ってほしいと思っていたけど、このままだとこの人は信夫先輩より悪い男に引っかかるのではないか。ほら、榛名さんもからかっていたにやにや顔がちょっと固くなっちゃってるじゃないか。
「榛名さん、そこまでですよ。先輩が可哀想です」
「えー、残念」
「え、どういうこと?」
先輩は俺と榛名さんを交互に見やる。
「ここ、自分のバイト先なんす」
「じゃあ榛名さんは」
「うん。朝日のことは同僚だから知ってるよ」
「えー!」
「海、今回は朝日だから良かったけど、人を疑うことを覚えようね」
「で、でも」
榛名さんは先輩に近づいて頭を撫でる。
「海がいい子なのは知ってるからさ、だから何かあったらあたしでもこいつでもいいから相談してな」
「はい!」
先輩はその手を払うことはなく、むしろ嬉しそうに受け入れている。
「ほら、こっち座って!」
店員らしく榛名さんが四人席に案内してくれる。
「榛名さん」
「ん?」
「先輩って榛名さんのあの時代の後輩なんすか?」
「おい」
榛名さんは俺の首根っこを持って自分の近くに寄せる。
「私が高三のことには足を洗ってる。だから海とかには絶対に言うなよ」
「わ、分かりましたから離してください」
「本当か?」
「はい。ぜったい話しませんから」
「ならよし」
痛かった。この人は時々元ヤンが出るから怖い。今のは俺が悪かったけど。
俺は首をさすりながら席に座った。




