修羅場にはならなかった
タヌキうどんを持って席に戻ると、そこには先輩だけじゃなく、信夫先輩もいた。またか。
「なあ、そろそろ謝ったらどうだ? 今ならまだ復縁させてやるからさ」
「うーん……」
「なんだよ、いつもならすぐに言うだろ?」
「まあそうなんだけど」
「じゃあなんでだよ」
周りを気にして声は小さいが、いかにもイライラとしている雰囲気がある。これ今俺が行っても大丈夫なやつか?
「あ」
俺がタヌキうどんを持ちながら立ち尽くしていると先輩がこちらに気づいて目を合わせてくる。その動きに合わせて信夫先輩も俺の顔を見てくる。そしてすぐに怪訝な顔になる。
「……こいつは?」
「どうも」
俺は会釈してから、先輩の横の席に座る。
「んで、本当にこいつ誰?」
「東です。信夫先輩」
「なんで俺の名前知ってんだ?」
態度を変えずに言う。
「朝、もめてるのを聞いたんですよ」
「それでこいつにへんなことを吹き込んだのか」
なんでこの人はこんな喧嘩腰なんだ。俺はまだ何もしていないのに。しいて言うならタヌキうどんを頼んだぐらいだ。それで怒るなんて……。
「なんか変なこと考えてるでしょ」
先輩がそんな俺を察してかジト目で見てくる。
「麵伸びるんで食べていいですか?」
信夫先輩は何か言いたげだけれど、何も喋ってこないので俺は食べ始める。確かにこの揚げカス美味しいな。味がついてる。
「んで、こいつに何か吹き込んだのか?」
少しおいて信夫先輩が訊いてくる。
「とくには」
「流石にそれはないだろ」
「ええ!?」
なんで先輩まで驚いているんだ。
「やっぱりお前じゃないか」
「そんな変な事言ってないですよ。ただ、なんかDV彼氏に騙されてる彼女みたいだなとは思いましたが」
「そんなこと思ってたの!?」
「まあ、はい。なんかダメ男に捕まりそうな感じだなぁって」
「えっぐ、なんでそんなこと言うのさ!」
「だって事実でしょ?」
「それは……分かんないけど……」
やっぱりこの人は面白い。
「なあ、お前らいい加減にしてくれないか? 俺がそいつと付き合ってるんだけど」
せっかく先輩と盛り上がってたのにDV彼氏の方が話に割り込んできた。
「別れたんじゃないんすか?」
「それもお前のせいだろ」
「いや、それはまだ俺が先輩と会う前なんで関係ないっすね」
「ちっ、冷めたわ。もういいわ」
そう悪態ついて信夫さんはどっか行った。いったい何だったんだ。
「えっと、なんだったの?」
「さあ?」
「とりあえず冷めるから食いなさいよ。せっかくのカリカリ触感が勿体ないわ」
「そうっすね」
「でも一応言っとくわ」
先輩が箸をおいて僕の方を向き直した。僕はそれに箸を止める。
「ありがとね」
「俺は何もしていませんよ」
「そこは素直に受け取っとくもんよ」
「そうですか」
「何それっ」
先輩は笑った。




