部室棟奥での出来事
そこから数日たったある日。
俺が登校して校庭の横を通り過ぎようとした時のこと。部室棟の奥の方から騒々しい声が聞こえてきた。何やらもめているらしい。
「ねえ止めなって。大丈夫だよ。すぐに戻れるって」
「うるせぇな。お前に何が分かんだよ! ただ見てるだけのくせに」
「わたしはできるだけ信夫の力になろうって……」
「何が力になるだよ! どうせお前もレギュラーから落とされた俺を笑ってんだろ?」
「そんなことない! 信夫なら絶対また戻れるって」
「俺の事なんも知らないくせに知ったようなこというなよ! もういいわ、おまえ。マジでだるい」
「そんなこと……」
「今後俺に関わってくんな」
男子(信夫と呼ばれていた)はそう言ってどっか行ってしまった。残された女子はその場でしゃがみ込んでしまった。俺が足を止めてみていたのは、男子がサッカーのスパイクらしきものを履いていたからだ。もしかしたら健吾が前に行っていたレギュラー落ちしてしまった先輩なのかもしれない。そうだったのなら、今しゃがみ込んでるのがマネージャーなのだろう。健吾の言いっぷりから少し厄介見たいな雰囲気を感じたが、見る限りはそうでもなさそう。
「その、大丈夫ですか?」
俺はこのまま放っておくのもなんだか罪悪感があり、声をかけた。
「あなたは?」
「えっと、自分は一年の東 朝日って言います。なんかもめてる声聞いて」
「ああ、ごめんね。何でもないから放っておいて」
顔を隠すように彼女は膝を抱える。
「大丈夫ですか? 話だけなら聞きますけど」
「いいって」
体勢そのままに片方の手でシッシッと振ってくる。
んー。まあそうだよな。できれば健吾とあの先輩の様子を聞きたかったんだけど。仕方ない。
「分かりました。じゃあ失礼します」
「え?」
俺が振り向いて教室に行こうとしたところ、そんな声が聞こえた。
「どうしました?」
「いや、うん。別にいいんだけどさ。けどさ、普通はもうちょっと粘らない?」
顔を上げて言う。そんなこと言われても。
「粘らないですね」
「えー……」
なんだか呆れました、みたいな顔を向けられる。そっちが拒否したのに、なぜこっちが引いたら俺が悪いみたいにくるんだ。
「君は女の子が落ち込んでて、その傷心につけ込んで落とそうって魂胆じゃないの?」
「ないですね」
「じゃあなんで声をかけたのさ!」
立ち上がって文句を言ってくる。めんどくさいな。
「ほっとくと罪悪感があると思ったんで。あとは一身上の都合です」
「何よ、一身上の都合って」
「一身上の都合は一身上の都合です。じゃあ失礼しますね」
また俺は教室に行こうと足を滑らせる。
「いや、待ちなさいよ」
けれど手を掴まれて阻まれてしまう。
「いいわ。話を聞かせてあげる」
「なんで上から目線なんですか」
「あんた一年でしょ? 私が二年だからよ」
声をかけないのが正解だったのかもしれない。とても、とても面倒くさそうだ。




