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月が太陽を絆すまで  作者: ウパ戌


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53/55

膝枕の時間と感じる壁

 彗の読み聞かせは、自分で読んでいた時とは別の物語の見え方がした。話し手だけでこんなに変わるものなのか。


「にいによりおもしろかった!」


 読み終えた後、ひかりは彗の方に振り向いてそう言った。妹よ、あんなに読ませておいてそれは酷くないか。


「ふふ。そうだろ」


 彗が自慢げに答える。


「つぎこっち!」

「ふふ。いいよ」


 彗はひかりからまた別の絵本を受け取る。ひかりは再び俺たちの間に座り直して、ワクワクとした目をしている。心なしか体が揺れている気もする。

 そしてまた優しい声で絵本を読み始めた。本の内容からか、さっきよりもゆったりとした声で、それが心地よくて俺の意識はだんだん遠のいていった。

 

 俺が目を覚ますとそこは彗の膝の上だった。


「あ、おはよ」

「わるい、寝ちゃってたか」

「ん。あさひの無防備なところ初めて見た」


 遅れて恥ずかしさがきた。どうにか忘れてくれないだろうか。俺は顔をそむける。


「ひかりは?」

「ん。あっちで絵本読んでる」


 指の指す先にはマットの上で絵本を広げているひかりの姿があった。ひかりは俺のこんな格好なんて気にもしないで絵本に夢中になっている。どれだけ読むんだこの子は。


「起きるよ」

「ん。まだゆっくりしてていい」


 彗はそう言って起き上がろうとする俺の頭を押さえつける。


「でもさすがにさ」

「きにしない」

「いや」

「きにしない」


 俺は諦めた。改めて視界の中にひかりが映る。楽しそうに体を揺らしながらページをめくっている。


「改めてありがとな」

「ん」

「どんなお礼がほしい?」

「もう貰ってる」

「え?」


 寝返りをうつように彗の顔を見る。するとすぐにペチッと目元に手が伸びてきて覆われてしまった。


「すい?」

「今回きたのはさよさんに、お礼何がいいって聞かれて、あさひと仲良くなりたいっていったから。だからもう貰ってる」

「そう……なんだ」

「それに元々わたしのわがままに付き合ってもらってる」

「そんなことはないと思うけど」

「いいの」


 彗は相変わらずおれの目元から手を離してくれない。何も見えない。


「ひかりちゃんと仲良くなりたいのもわたしのわがまま。だからお礼なんて考えなくていい」


 半ばむりやり納得させるように言い切った。


「さからあさひは受け入れてくれるだけでいいの」


 彗は手を離した。


「だからいつか心を開いてね」

「それって」

「ひかりちゃん。にいに起きたよ」

「ほんとだ! おはよ!」

「……おはよ」


 彗の発言には心あたりがあった。気づかれているとも思ってた。けれどそんな簡単にできたらこんな苦悩してなどいないし、俺の過去はなかったことになってしまう。だからきっと今後も他人との壁を取っ払うことなんて俺にはできないのだろう。


「にいにおねぼうさん!」

「そうだね」

「じゃあひかりがおねぼうさんしてもゆるして!」

「それはできないかな」

「えー」

「にいには許してあげたいんだけど、ままが怒っちゃうからさ」

「あさひ自分の好感度あげようとしてる」

「うるさい」


 けれど取り合えず今はこのぬるま湯を楽しもう。どうせいつかなくなってしまう関係なのだから。

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