お礼の電話とモヤモヤ
『いいよ』
飯が終わった後、彗に親がお礼の電話をしたいらしいとメッセージを送るとすぐに返信が来た。
『あさひのおかあさんに話すのたのしみ』
『あんま変なこと言わないでな』
『変なことって?』
『それは、変なことは変なことだよ』
『大丈夫。失礼なことはいわない』
『たのむぞ』
「母さん、良いって」
俺はスマホの画面をそのままに母さんを呼んだ。
「分かったー。ちょっと待ってね」
母さんは洗い物を終えて手を拭きながら言う。
「よし。大丈夫。おねがい」
「了解」
スマホの通話ボタンを押して彗を呼び出す。
『……もしもし』
「もしもし」
『なんだあさひか』
あたかも緊張して損をしたみたいに文句を垂らしてきた。
「文句言うなって」
『あさひがわるい』
「なんでだよ」
『なんでも』
「じゃあ変わるけどいいか?」
『……ん』
通話中のスマホを母さんに渡す。
「もしもしー。朝日の母の小夜です」
そう言って母さんは話し出した。なんだか自分の母親と友達が話しているを聞くのはソワソワする。
「終わったら俺の部屋に返しにきて」
俺は耐え切れずにそれだけ残して自分の部屋に行った。
スマホがない中で時間を潰すのは案外難しく、中学一年の頃に一度読んだ漫画を読み返すことにした。
久しぶりに読む漫画は面白く、一週目では気づかなかった伏線に驚いたり、クライマックスの熱さが再燃したりして、ページをめくる手が止まらなかった。結末が分かっているのにより面白くなるなんて改めて漫画ってすごい。俺は本棚にある次の巻に手を伸ばした。
思ったよりのめりこんでしまい、気づいたらあれから一時間も経っていた。もう電話は終わっているだろう。終わったら返しに来てと言ったのを忘れているのだろうか。
俺はスマホを返してもらいにリビングへ行く。けれどすぐにリビングからは明らかにひかりとではない喋り声が聞こえてくる。それが意味をするのは、母さんがまだ彗と電話をしているということだった。
いや、どんだけ喋ってるんだよ。初対面かつ息子の友達(恋人)とそんなに話すことあるのか? というかそろそろひかりの寝る時間だろ。俺はリビングのドアを開ける。
「あ、帰ってきた」
母さんは俺の姿を見ると、そのことを報告するように呟いた。
「いつまで電話してるの?」
「え? そんな長電話してないわよ」
そう言って母さんは部屋の時計を見る。すると経過した時間に驚いたのか一瞬固まった。
「あらやだ。もうこんな時間。ごめんなさいね。彗ちゃん。うん。うん。いつでも良いわよ。うん。それじゃあ朝日をよろしくお願いします。うん。おやすみなさい」
母さんは通話を切ってスマホを渡してくる。
「ありがとうね」
「いや、それはいいんだけど、こんな長時間何喋ってたの?」
「それは女の子の秘密ってやつよ」
「女の子って」
「やかましいわ」
母さんは船を漕いでいるひかりを軽く持ち上げた。
「あさひ、明日って何か用事あったりする?」
「いやないけど」
「そっか。じゃあ家でひかりをよろしくね」
「分かってるよ」
「ならいいの」
最後に「じゃあひかり寝かしてくるから」と言って母さんはリビングを後にした。
『こんなに長い時間何を話してたんだ?』
俺がそう送ると、
『おんなのこの秘密』
『おまえもか』
『事実だからしかたない』
すぐに返事がきた。どうやら彗も教えてくれないらしい。
俺は疎外感にも似たよく分からないモヤモヤを抱えながら自分の部屋に戻った。




