夏休み中のバイトにて
「いらっしゃいませー。こちらへどうぞ」
夏休みも中盤に差し掛かるなか、俺はまたバイトに入っていた。
「朝日は夏祭り行ったー?」
「ああ、行きましたよ」
「えー! いいなー。私飲み会があって行けなくてさー」
春奈さんがカウンターにもたれながらそう言う。大学生は自由だとよく聞くが、知らないだけで実は大変なのだろうか。俺にはまだ分からない。
「それで、誰と行ったの? まさか彼女?」
「……友達五人で行ったんですよ」
「いいねえ、青春だねぇ。羨ましい限りだ」
持っている会計伝票を挟むバインダーでパタパタと仰ぎながらそう言った。
「春奈さんなら一緒に行きたい相手なら腐るほどいるでしょう」
「お? 口説いているのか少年?」
「客観的な意見ですよ」
「そう? ありがとう。でもそれが残念なことにいないのよ」
「理想が高すぎるのでは?」
「あ?」
「すみません」
からかいすぎてこの人が元ヤンだったことを忘れてた。俺は蛇に睨まれた蛙のようにその場で口を噤んだ。
「誘われてはいたんだけどねー、あまりに下心丸出しでさ。だから別で誘われてた飲み会に行ったんだ。一人で行くのもあれだし」
「そうなんすね」
「なんで聞いた本人が興味なさげなのよ」
実際ないですし、とは言えなかった。
「飲み会は部活関係とかですか?」
「んにゃ、学科の友達」
「へー、仲いいんすね」
「まあねー。私、社交性は高いから」
「たしかに社交性は高そうですね」
「は?」
「いや自分で言ったんじゃないですか」
「冗談じょうだん」
そう言って仰いでいたバインダーで俺の肩をべしべしと叩いてくる。俺はなされるがままに叩かれる。
「あー、彼氏ほしーな。あさひ、良い人紹介してくんない?」
「大学生が高校生に手を出したらダメでしょ」
「だよねー。あっ! お客さんだ。いらっしゃいませー」
そう言ってパタパタと玄関の方へ行った。俺はもたれるのを止めて背筋を伸ばした。ぼうっと春奈さんの接客を見ていると、ガバッと勢いよくこちらを振り向いた。そしてこっちに来いとジェスチャーをしてくる。すっげえ笑顔だな。嫌な予感しかしない。けれど呼ばれている俺には選択権などないので、おずおずと春奈さんのところへ向かった。
「朝日やるじゃん。彼女なんだって?」
そう言って春奈さんが差し出してきたのは彗だった。そう差し出してきたのだ。彗の肩をグイッと持って。
「ども」
彗がなんてことないように手を上げた。
「ども。んで、なんでここにいるんだ」
「これ」
そう言って何やら袋を掲げる。なんだそれは。心当たりはない。
「ん」
ずっとその袋を掲げている。受け取れということだろう。俺はその意思を受け取り、その袋に手を伸ばした。
中には絵本が数冊入っていた。
「これは?」
「ひかりちゃんにと思って」
「わざわざ?」
「きょう片付けてたら出てきた。捨てるのはもったいない」
「なるほどね。ありがとう。助かるよ」
「ん。それだけ」
そう言って彗は出口の方へ振り返った。え、本当にそれだけだったのか。
「え、本当にそれだけ?」
春奈さんが俺の心の中を代弁するかのように言った。
「はい」
「いやいや、ゆっくりしていってよ。どうせ人もいないし」
「でも……」
「ほら! お客様一人ご案内でーす」
彗はぐいぐいと押す春奈さんに戸惑いながらも最終的には俺たちがだべっていた所に一番近い席にちょこんと座った。




