朝日と月のあの日の話
「……」
「……」
えっと、いつになったら始まるのだろうか。カフェに入り二人のコーヒーが届いてからしばらく、この沈黙が続いている。どうしようか。俺は間を誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。
「えっと、すみません。私から誘ったのに……」
「いいよ。ゆっくりで」
俺は再びコーヒを啜る。目の前の月夜野さんは俯いている。こんな言い淀むなんてどんな話なのだろう。
「東さん!」
「は、はい」
顔をがばっと上げて俺の目を見てくる。その気迫につい敬語になってしまった。
「あの、その……。ありがとうございました!」
「え、何が?」
「あ、そっか……。そうだよね……」
また俯いて何やら小さい声で呟いている。一体どうしたんだ。
「東さんは忘れているかもしれないですが、実は入学式の日に東さんと会っていたんです」
俺はコーヒーカップを置いて、彼女の話に耳を傾ける。
「その時、私緊張しすぎて先生の話とか聞いてなくて、場所が分からなくなってしまったんです。迷ってると冷や汗も出てきて、高校でも駄目だったんだともう直ぐにでも涙が溢れてきそうでした。実際こぼれていないだけで溜まってはいたと思います。そんな中、東さんが話しかけてくれたんです。もう本当に嬉しくて、その場で泣き出しそうでした。けれど今泣いてしまったら東さんにご迷惑をおかけすると思って、出てる分は拭って必死に我慢しました。東さんのおかげで入学式には無事に参加することができました。けれど家に帰ってから、涙を抑えるのに必死でお礼の一言も言っていなかったことに気づいたんです。その後は鈴ちゃんにも協力して貰いながらどうにか機会を伺ってお礼をしようと思っていたんですけど、私の勇気が出ずにこんな時間が経ってからになってしまいました。すみませんでした」
月夜野さんはそう言って深々と頭を下げた。
「改めまして、本当にあの時はありがとうございました」
「……月夜野さん。俺さ、正直に言うと月夜野さんが少し苦手だったんだ」
「……」
「その時の出来事でさ、別に期待してたわけじゃないんだけどあまりにも塩対応されてさ、こんなに義が人なのかと思ってて。だから好きじゃなかった」
「そう、なんですね……」
「うん。けど関わっていくにつれてそんなことする子なのかっていう疑問は少なからず生まれて、今日それが分かった」
「え?」
「どういたしまして、月夜野さん。これから改めて友達になろう」
「……いいんですか?」
「うん。というか良いとか悪いとかないよ。対等なんだから。よろしくね?」
「はいっ!」
俺は机の上で手を差し伸べて、その手を月夜野さんは握った。
「じゃあこれから朝日さんって呼んでもいいですか?」
「うん。いいよ」
「私のことはぜひ月と呼んでください」
「分かった。よろしくね月」
「はい! よろしくお願いします。朝日さん!」




