第7話:【神回】魔王と激辛ラーメン食ってみた!天界からの凸待ちも物理で解決www
「……はい、皆さんこんにちはー! 異世界一のバズりを目指す男、ツヨシです! 今日はマジで歴史的な放送になりますよ。画面の前の君も、スマホ(魔導板)を持つ手を震わせて待機してください。なんと、昨日の『魔王城・不法侵入寝顔晒し配信』でトレンドを独占したあの御方が、早くも初コラボに降臨です! 拍手ーー!!」
ツヨシがハイテンションにカメラ(魔導ライブ・カメラ)を振ると、そこには豪華な装飾が施された王都の人気店『煉獄堂』の特等席が映し出された。
しかし、そこに座っていたのは、全人類が畏怖するはずの「魔王」……ではなかった。
「……ツ、ツヨシ。この服は、一体何の呪いがかかっているのだ? なぜ我が、このような薄汚れた、しかも『I ♡ 配信』などという屈辱的な文字が刻まれた布切れを纏わねばならん」
漆黒のフルプレートアーマーを脱ぎ捨てさせられ、ツヨシの私物である「ダサいメッセージTシャツ」を着せられた魔王が、魂の抜けたような顔で座っている。その頭上には、昨夜の配信のせいで今や彼のトレードマークとなってしまった「うさ耳パジャマ」の面影を想起させる、うさぎの耳を模したヘアバンドまで装着されていた。
《王都の騎士:魔王様が……あの魔界の主が、完全にツヨシの着せ替え人形に!》
《聖女:魔王様、意外と肩幅があるのでTシャツが似合っています……。尊いかも……》
《ドワーフの親方:おい見ろよ! 同接が開始5分で100万を軽く超えやがったぞ!》
「魔王様、硬いこと言わない! これが今の時代の『正装』なんです。それより見てください、本日のメインディッシュ。この店が誇る禁断のメニュー、『終焉の業火ラーメン・極』です!」
ドォォォォォォォン!!
運ばれてきたのは、もはやスープが液体というより「ドロドロのマグマ」に近い、真っ赤な物体。龍の吐息を濃縮還元したという香辛料の刺激臭だけで、周囲の一般客たちが涙を流して避難を始めるレベルだ。
「さあ、魔王様! 世界の半分を統べる男の意地、見せてやってください! 150万人のリスナーが、あなたの『悶絶顔』を……あ、間違えた、『雄姿』を待っています!」
「ぐぬぬ……。よいか、我が一口でも啜れば、この店など一瞬で消し飛ぶぞ? よかろう、魔王の格の違いを教えてくれるわ!」
魔王は震える手で割り箸を割り、覚悟を決めて麺を口に運んだ。
「………………ッッッ!?!?!?!?(絶叫が音にならない)」
刹那、魔王の顔面がトマトのように赤熱し、鼻からは蒸気が噴き出した。
「ごふっ、げほっ! ぐわああああああ! 喉が! 喉が焼ける! これは何だ、古の禁呪『インフェルノ』を直接胃袋に叩き込まれたような……! 貴様あああ! 我を暗殺する気かぁぁぁ!!」
「魔王様、コンプラ! コンプラですよ! 『殺す』とか『滅ぼす』はNGワードです! はい、ここで皆さん、応援の青スパ(聖水代)お願いします! 魔王様を救うための聖水を注文します!」
《大富豪:魔王の顔芸、最高すぎるwww 50万G投げたぞ! 聖水を飲ませてやれ!》
「あざーす! 50万G! はい、店員さん、一番高い『特製・女神の涙(聖水100%)』をジョッキで!」
魔王が必死に聖水を煽り、半泣きでラーメンと格闘しているその時だった。
突如として店の天井が割れんばかりに輝き、天上から荘厳な賛美歌が鳴り響いた。
「――愚かなる人間よ。そして、あろうことか人間に阿る堕落した魔王よ。調子に乗るのも大概にせよ」
眩い光の中から舞い降りたのは、背中に六枚の純白の翼を持ち、黄金の鎧に身を包んだ絶世の美青年。天界の執行官、大天使ミカエルその人であった。
店内は一瞬にして神聖なプレッシャーに包まれ、一般客は平伏し、騎士たちは恐怖で剣を落とす。
「我が神は、地上の秩序が崩れることを危惧されている。配信などという卑俗な術で、魔王という抑止力を無力化し、世界のパワーバランスを破壊したツヨシ……貴様を、天界の法に基づき『削除』する」
ミカエルが黄金の剣をツヨシの喉元に突きつける。だが、ツヨシの目は死んでいなかった。どころか、彼の【配信者魂】が燃え上がっていた。
「……え、待って。皆さん、これ見えます!? 本物の天使ですよ! 特殊メイクじゃないですよね? ちょっと触っていいですか?」
「不敬であるぞ、虫ケラめ! 神罰を――」
「はい、皆さん! 激アツの凸が来ました! 天界のミカエルさんです! 降臨ありがとうございます! ちょうど今、投げ銭の目標設定をしてたんですよ。リスナーの皆さん! 投げ銭が合計300万Gを超えたら、この大天使様の『黄金の羽』、1枚むしって視聴者プレゼントにしましょうか!?」
《魔法学園の女子:羽! 欲しい! 30万G投入!》
《辺境の商人:天使の羽は高値で売れるぞ! 100万Gだ、やっちまえツヨシ!》
《通知:同時接続数が300万人を突破しました!!》
「なっ……我が羽をプレゼントだと!? 貴様、正気か!? 神の怒りに触れて五体を粉砕されたいのか――」
「うるさーーい! 撮影中ですよ! 営業妨害で訴えますよ!? はい、赤スパ累計300万達成! っしゃあ! いくぜ皆さん、本日のスペシャルイベント……必殺『通報・天界物理削除』!!」
ドォォォォォォォン!!
ツヨシが振り下ろしたのは、魔導杖でも魔法でもない。
日々の「投げ銭強化」によって、もはや生物学的限界を超えた密度を誇る「鋼の自撮り棒」によるフルスイングだった。
「がはっ……!? 嘘だ……。神の加護(物理無効)が……紙のように……引き裂かれる、だと……?」
「魔法が効かないなら、もっと強い物理で叩けばいい。これ、配信者の常識っすよ!」
数分後。
そこには、片方の翼をツヨシに(視聴者プレゼント用に)むしり取られ、ボロボロになった大天使が、魔王の隣で「終焉の業火ラーメン」の残り汁を泣きながら啜る地獄のような光景が広がっていた。
「……ううっ、辛い。辛すぎる……。神の世界には……こんな暴力的な味は……存在しなかった……」
「ミカエルさん、いい食べっぷり! 天使の涙は美肌効果があるってコメント来てますよ! ほら、カメラに向かって、鼻水拭いて笑顔でピース!」
《聖女:あの大天使様が、魔王と一緒にラーメンを……。この世界、もう終わるのかしら?》
《隠居した賢者:いや、新しい時代の始まりだ。ツヨシという男が、世界の理を『エンターテインメント』に書き換えてしまったのだ……》
ツヨシは満足げにカメラを自分に向け、視聴者に最高の笑顔を見せた。
「はい! というわけで今日のコラボ配信、大成功でした! 魔王軍と天界、両方のトップと和解(物理)できたので、これで世界は平和ですね! 次回は……天界の総本山に乗り込んで『神様の宝箱、勝手に全部開けてみた』をお届けします! チャンネル登録と高評価、よろしくな!」
「「……頼むから、もう来ないでくれ……(切実)」」
魔王と大天使、世界最強の二人の悲痛な願いは、24時間止まらないチャット欄の濁流に飲み込まれて消えていった。
異世界転生しちゃったので、ネット配信者になってみた。
――ツヨシの自撮り棒は、今や神仏さえも震え上がらせる「支配の杖」へと進化を遂げていた。




