第6話:【禁断】魔王の寝室に不法侵入!ガチの寝顔とパジャマ姿を晒してみたwww
「……シーッ! 皆さん、音量下げてくださいね。今、俺は魔王城の地下通路に潜入しています。見てください、この禍々しい装飾。趣味悪いですよねー。でも、Wi-Fi……じゃなくて世界樹アンテナの感度はバリ5! 最高の画質でお届けします!」
ツヨシは暗視モードに切り替えた【魔導ライブ・カメラ】に向かって、悪戯っぽく微笑んだ。これまでの配信で積み上げた「投げ銭」による身体強化は、もはやステルスという概念すら書き換えていた。彼の足音は一切響かず、体温すらも完全に遮断されている。
視界の端では、深夜にもかかわらず同接数が過去最高の50万人を突破し、コメント欄が狂喜乱舞していた。
《王都の門番A:マジで行きやがった! 歴史上、魔王城に一人で潜入した奴なんていねぇぞ!》
《聖女:ツヨシ様、不法侵入は犯罪です! ……でも、魔王のパジャマはちょっと気になります!》
《隠居した賢者:あの鉄壁の結界をどう抜けるつもりだ? 伝説の魔法使いでも一ヶ月はかかるぞ》
「賢者さん、いい指摘ですねー! でも、現代の配信者は『力技』が基本なんですよ。ほら、あそこ。魔王のプライベートエリアに続く『絶対不可侵の結界』が見えてきました」
ツヨシの目の前には、触れるもの全てを塵に変えるという漆黒の魔力障壁がそびえ立っていた。普通なら絶望する場面だが、ツヨシはおもむろに【自撮り棒型魔導杖】を短く持ち直し、視聴者に向けて親指を立てた。
「はい、ここで皆さん、応援のスパチャお願いします! 結界を『物理』で叩き割るためのエネルギー、ください!」
《王都の大富豪が【破壊のマナ(赤スパ300,000G)】を投げました!》
《大富豪:歴史が動く瞬間を見せてくれ! ぶち壊せ!》
「キタアアアア! 30万G!! 腕の筋肉が……爆発しそう! いくぜ、必殺……『通報・物理削除(レポート・物理)』!!」
ドォォォォォォォォン!!
ツヨシがスパチャの魔力を乗せて自撮り棒を叩きつけると、物理法則を無視した衝撃波が走り、数千年の間、一度も破られたことのない魔王の結界が、安物のガラス細工のように粉々に砕け散った。
「な、何事だ!? 侵入者か!?」
騒ぎを聞きつけた魔王軍の精鋭騎士たちが廊下に溢れ出してきたが、ツヨシはカメラを自分に向けたまま、一切足を止めない。
「あ、すみませーん、今生配信中なんで。映りたくない人は顔隠してねー! 邪魔する奴は……こうだッ!」
ツヨシはカメラを支える【三脚型予備機材】をヌンチャクのように振り回し、襲いかかる重装騎士たちを次々と廊下の端までなぎ倒していった。魔力を一切使わない、純粋な「暴力的なまでの物理」に、魔族たちはパニックに陥る。
「魔法を使っていない……!? 剣すら抜かずに、ただの鉄の棒(三脚)で我ら暗黒騎士団をゴミのように……! 死神だ、本物の死神が現れたぞ!!」
「死神じゃないって、ストリーマーだってば! ほら、皆さん見て。この扉の豪華さ。ここが魔王の寝室ですね。……よし、不法侵入……じゃなくて、突撃取材スタート!」
ツヨシは鍵のかかった巨大な扉を、肩をぶつけるだけで強引にこじ開けた。
静まり返った豪華な寝室。そこには、天蓋付きのベッドで、すやすやと眠る一人の男……魔王がいた。その姿は、世間が恐れる怪物とは程遠く、なんと「うさぎの耳」が付いたモコモコのピンクのパジャマを着て、抱き枕を抱えていたのだ。
「……ちょ、皆さん。見ました? 魔王、うさ耳パジャマですよ! ギャップ萌えってレベルじゃねーぞこれ! はい、ズームしますねー」
ツヨシは無慈悲にも魔王の鼻先にカメラを近づけ、4K画質でその寝顔を全世界に晒し始めた。
《魔法学園の女子生徒:きゃあああ! 可愛い……じゃなくて、ショック!》
《辺境のドワーフ:魔王の威厳、一瞬で完全消滅www》
《視聴者数が100万人を突破しました!!》
「ん……むにゃ……。ノック……くらい……しろと……言っただろ……バラン……」
魔王がゆっくりと目を開ける。目の前には、眩しいほどの撮影用ライトと、自撮り棒を持って満面の笑みを浮かべるツヨシがいた。
「おはようございます、魔王様! 今、全世界に生中継中なんですけど、寝起きの感想一言いただけますか?」
「……は? ……なっ!? お、お前……誰だ!? というか、何故ここに……というかその棒は何だ! 結界はどうした! 私の騎士団はどうしたぁぁぁぁ!!」
魔王は顔を真っ赤にして跳ね起き、必死に布団で自分のパジャマを隠そうとしたが、既に遅かった。全世界の住人が、魔王の「うさ耳」を鮮明に網膜に焼き付けていた。
「ツヨシです! 今日の同接、100万いきました! 魔王様、あなたのパジャマ、今から王都でトレンド入り間違いなしですよ!」
魔王は愕然とした。自分の最強の結界を粉砕し、精鋭騎士団を物理で蹂躙し、あまつさえ自分の寝室まで「一切の魔力感知に触れず」に到達したこの男。魔王の脳内では、ツヨシが「魔力を隠す技術すら極めた、底知れない化け物」として急速に変換されていた。
「……待て。殺さないでくれ。話せばわかる」
魔王は震える手でスマホ(型の魔導板)を取り出し、ツヨシの配信画面を開いた。
「た、頼む。このアーカイブは消してくれ! 代わりに……代わりにこれだ! 『友達申請』を送る! 今後、我が軍は人間界に手を出さない! 不可侵条約だ! だからその……『低評価』だけはやめてくれぇぇ!!」
「おっ、魔王からフレンドリクエストきたー!! 皆さん、やりました! 魔王軍、実質的な降伏宣言です! これも全部、応援してくれたリスナーのみんなのおかげだよ!」
翌朝。魔王城の最深部まで「物理のみ」で到達し、魔王を恐怖で震え上がらせて平和をもたらしたツヨシの伝説は、吟遊詩人によって大陸中に広まった。
王都の神殿には、「寝巻き姿の魔王を指先一つで従えた聖なる配信者」として、ツヨシの新しい像が建立されることになった。
「……え、いや、ただの寝顔スクープ企画なんだけど。あと魔王、次回の企画『魔王と行く、激辛ラーメン食べ歩きツアー』、コラボ出演OKだよね?」
「……う、うむ。フォロワーが増えるなら、喜んでお供しよう……」
ツヨシの自撮り棒は、今や魔王さえもマネジメントする「神の杖」へと昇華していた。
異世界転生しちゃったので、ネット配信者になってみた。
ツヨシのチャンネルは、ついに世界の理そのものを支配し始めていた。




