第2話:【放送事故】エルフの聖地でWi-Fi探してたら、世界樹をアンテナにしちゃった件www
「……ちょ、待って待って! 映像カクついてない? ビットレート死んでるんだけど! はいどうも皆さん、ツヨシです。現在、エルフの隠れ里『アールヴヘイム』の入り口に立ってるんですが……見てくださいこのアンテナバー。圏外だよ! 異世界まできて圏外ってマジかよ!」
ツヨシは激怒していた。前回のスライム爆破配信で登録者数が一気に1万人を突破し、まさに「これから」というタイミング。意気揚々とエルフの里へ『突撃! 隣の晩ごはん(エルフ編)』の撮影にやってきたのだが、この森は魔力が濃すぎて、ツヨシの配信システムである「魔導念波」が激しく干渉されていたのだ。視界の端に流れるコメントログも、ノイズ混じりで読み取れない。
《……騎士……A:画……質が……ゴミ……》
《……聖女:ツヨ……様が……モザイク……》
「あああもう! 聖女様にモザイクかかるとか放送事故だろ! 視聴者の皆さん、ちょっと待ってて。今からこの森の『電波状況』、爆速に改善してくるから!」
ツヨシは【自撮り棒型魔導杖】を力強く握りしめ、結界を無視して森の最深部へと突き進んだ。彼の【魔導ライブ・カメラ】は、主人の怒りに呼応して必死にピントを合わせようと空中で火花を散らしている。
森の奥へ進むほど、空気は重く、神聖な輝きを増していく。そして目の前に現れたのは、天を突くほど巨大な黄金の巨木――エルフたちが数千年にわたって守り続けてきた御神体「世界樹」だった。
「おっ、デカいな。これ、ロケーション的には最高のアングルじゃん。……ん? 待てよ、この木の先端、めちゃくちゃ魔力の放出効率が良さそうだな。よし、ここに『中継局』を作ろう」
ツヨシは迷わず、世界樹の根元に手をかけた。その瞬間、周囲の空間が震え、背後から無数の矢が飛来した。
「止まれ、不遜なる人間よ! そこは我らエルフの魂、世界樹の聖域なり!」
現れたのは、エメラルド色の髪をなびかせたエルフの長老と、精鋭の弓使い。長老の顔は怒りで真っ赤……というより、ツヨシの「場違いな格好」に困惑を隠しきれない様子だった。
「何をしているのだ、その奇妙な杖(自撮り棒)を持って! 神聖なる木を汚すことは許さん!」
「長老さん、話がわかる人で助かるわ! あのね、この木、魔力の出力はいいんだけど『指向性』がバラバラなんだよね。だから映像がカクついちゃって、リスナーのみんなが困ってるわけ。今からちょっと、先端に『魔力収束コイル(ただの針金)』巻いて、アンテナ代わりに改造させてもらうね!」
「改造!? 世界樹を!? 狂ったか、この人間は!」
長老が杖を振りかざし、大魔法の詠唱を始めようとしたその時、ツヨシの視界に一通の「赤スパ(高額投げ銭)」が飛び込んできた。
《王都の大富豪が【黄金のマナ(スパチャ50,000G)】を投げました!》
《大富豪:画質を上げろ! ギル(投げ銭)ならいくらでも出す! エルフの里の4K映像が見たいんだ!》
「キタアアアア! 5万G!! 広告収益よりうめぇ! よっしゃ、視聴者の期待には120%で応えるのがプロだ! スパチャ・ブースト……出力全開!!」
投げ込まれた膨大なマナがツヨシの全身を駆け巡る。彼の瞳が七色に発光し、身体能力が物理法則を無視して跳ね上がった。ツヨシは垂直な世界樹の幹を、重力を無視して駆け上がった。
「なっ、世界樹を走るだと!? 何という不敬……いや、何という神速!」
長老たちが呆然と見上げる中、ツヨシは一気に樹頂へと到達した。そこは雲の上、全大陸を見渡せる絶景。
「よし、ここが『特等席』だ! 行くぜ、魔導回路・強制リンク……『爆速5G・コネクション』!!」
ツヨシは自撮り棒を世界樹の芯に突き立て、リスナーからの投げ銭マナを逆流させた。世界樹の全枝葉が、ツヨシの魔力を通じて巨大なパラボラアンテナへと変貌していく。
ピキィィィィィィィン!!
世界樹が、太陽よりも眩しい白銀の光を放った。その光は同心円状に広がり、大陸全土の空を覆った。
「……お、立った! アンテナ3本! どころか、バリ5じゃん! 視聴者の皆さん、聞こえますかー!? 異世界初の4K・120fps配信、スタートです!」
画面上のログが、今までにない速度で爆発的に流れ出した。
《魔法学園の女子生徒:きゃあああ! ツヨシ様の毛穴まで見える! 綺麗すぎる!》
《辺境のドワーフ:おい、わしの家の水晶が発光してやがる! 街中に映像が流れてるぞ!》
《視聴者数が5万人を突破しました!》
「見てください長老さん、この同接数! 世界樹さんも、ただ突っ立ってるよりこうやって役に立ったほうが嬉しいって言ってますよ(適当)」
ツヨシが空から飛び降り、華麗に着地(実際にはスパチャの魔力で浮遊)すると、エルフたちは一斉にその場にひれ伏していた。
「……おお、おおお……。世界樹様が、数千年ぶりにこれほどの輝きを放たれるとは……」
長老が涙を流しながらツヨシの足元に跪いた。
「我らは大きな間違いを犯していた。世界樹様はただ守るべきものではなく、こうして全大陸に『光(映像)』を届けるための存在だったのだ。……貴殿こそ、古の記録にある『聖なる波動を操り、世界を繋ぐ救世主』……波動の勇者・ツヨシ様に相違ない!」
「えっ、いや、ただアンテナにしただけなんだけど……。まあ、喜んでるならいいか」
ツヨシは内心でガッツポーズをした。これで配信環境は完璧だ。次の企画は、この高画質を活かして『エルフの秘湯、混浴(?)潜入生中継』で決まりだ。
「さあ皆さん! 救世主(笑)ツヨシの次回の配信は、エルフの里のディープなスポットを攻めていきたいと思います! 高評価とチャンネル登録、今のうちにポチッとしておいてねー!」
ツヨシの自撮り棒が、夕日に向かって高々と掲げられた。
異世界転生しちゃったので、ネット配信者になってみた。
世界樹をアンテナに変えた男の「バズり」は、もはや誰にも止められない。




