第67話
退任
「全ての兄姉が命を落とし、わたし一人が生き延びた。父に反したわたしだけが命を繫いでしまった」
「……」
「牧師よ。わたしはこの帝国を豊かな国にしたいと思う。それにはお前の力が不可欠。その手を貸してくれるな?」
「……はっ!」
王族、貴族の失踪事件。あれから暫しの月日が経つ。
あの日、帝都の王族、貴族は前祝会を開催し、その場に居合わす人間全てが消失、姿を消し去った。
王城内の酒会の一間が丸ごと抉り取られており、北の勇者の謀反であろうと推定。
帝都は震撼した。
そんな我らを取り纏めたのが王族、末子の王子である。
王子は兼ね兼ね帝国の政治に単身異議を唱えており、実子ながらも前王により幽閉されてしまっていた。結果、此度の事件によって王家で一人の世継ぎとなり、王位の継承権を有する無二の御仁となったのだ。
わたしは王子の教育係を兼任していた牧師である。
しかし、実は……裏の顔は消えた為政者と同じであり、暴挙によって私腹を肥やした下劣な大悪党だった。
「王子よ。そろそろお休みをば、御身を壊してしまいます」
「何を言う。わたしは平気だ。次の調書を、手元に……」
「……」
清廉すぎる王子に触れて、わたしの心は変わっていた。
帝国側の降伏により終戦、戦は終わりを遂げ、王子は全ての責を背負って対応、対処に追われている。
前王たちが世界に残した爪痕、遺恨の根は深く、何年経ってもこの傷痕が塞がることはないだろう。
しかし、王子の甲斐甲斐しさと至誠な態度が実を結び、先日、四方の代表たちが集まり、会議が行われた。
三大陸の北への評価は極めて厳しいものだったが、王子の戴冠式については議場に拍手が沸いていた。
「牧師よ。わたしは今日という日を決して忘れはしないだろう」――会議のあの日の彼の背中は、確かに王たる器だった。
「……」
まだまだ帝国領に残る課題は山積みだ。
国への賠償、死者への弔い、難民たちにも救いの手を。
しかし、わたしは……罪悪感を払拭できないままでいた。
前祝会での難を逃れ、おめおめ卑しく生き延びた。わたしは自分が赦せなかった。
「王よ。実は、わたしは……」
――。
信頼に足る後任たちに王の支えを托した後、わたしは自身を摘発した。
処刑は免れないだろう。
「牧師よ、なぜだ! わたしを見守り、補佐する……約束しただろう!」
「……」
「わたしの退位の姿を、見たいと……っ! 語っていたのに……っ!」
「……」
いいえ。王よ。帝国領は、これから、ここから始まるのです。
わたしが処されて、帝都はようやく……新たに生まれ変わるのです。
「現王からの計らいです。墓石に貴殿の辞世をと」
「王に、民に、祖国の未来に、この上のない祝福を」
帝国領は、善い国となる。
賢王のもと、栄光あれ。
ススキ




