ヴァルハラ回想
剣が剣を弾く音が、練兵場に響き渡る。
二人の剣技を腕組み見守るエインヘリャルの皆々は、時に唸り声を上げつつ歎美の溜め息をついていた。
「どうした! 脇が甘いぞ! ダンデ!」
「少しは手加減してくれよ!」
二人というのは嘗ての同志の、クローバーとダンデである。
人間界の西と東の勇者であった両名は、再会の祝詞も程々にして練兵場に籠もっていた。
「ちょ、ちょ、待って……うわ!」
「わはは。どうだ。俺の勝ちだ!」
ダンデの剣を弾き飛ばし、クローバーが勝利する。
剣は金属音を立てて壁にぶつかり、転がって、わたしは剣を拾い上げてダンデの傍へと歩を進めた。
「ふう。いい汗掻いたな。ダンデ」
「久方振りだよ? そりゃないでしょ……」
「お前は殺っても死なないからな。加減要らずで便利だ」
「もう!」
大の字になり寝っ転がる。ダンデは腐ってしまっていた。
対して、片やクローバーは息を切らしてさえもいない。彼の底の見えない実力は、未だに未知数のままである。
「ダンデ、剣を。貴方の剣です」
「え……? ああ、ありがとう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「傷跡、見せてください」
「あっ!」
ダンデの薄衣をぺらりと捲って胸部周りを確認する。
彼は何やら恥ずかしそうに、斜め上を向いていた。
「……あのねえ。何度も言ってるけど、傷跡なんてないから」
「……」
「君は僕に手をかけたとか、考えちゃってるみたいだけど……あれは僕が望んだことで、君に頼んだことだからね」
「君が気に病むことはない」と、ダンデは笑みを向けてくれる。
勇者たちは、みんな優しい。
きっと、北南の勇者たちも。
「こいつはこういうやつなんだよ。慣れろ」
「そうは言ってもねえ……」
わたしの頭をぽんぽん叩き、クローバーが隣りに立つ。
ダンデは上体を起こしながら、苦笑いを漏らしていた。
「だけど、やっぱり僕の剣技じゃクローバーには敵わないね……」
「やっぱり……?」
「僕の剣は全て彼に習ったものなんだ。南の勇者の提案でね、魔法だって北の勇者に教えてもらったものだし」
「え……?」
「意外だろう」とクローバーがわたしの胸裏を代弁した。
ダンデに手を貸し、それによって彼はすっくと立ち上がり――。
「そろそろ話しておくべきだな」と、クローバーは付言した。
「俺たち四人の勇者の関係、魔王討伐の旅の経緯……エインヘリャルの他のみんなも気にかかっていることだろう」
「あ、それは知らなかった。何にも伝えてなかったんだ?」
「時期をな、長らく思慮していた。お前も傘下に入ったことだし、打ち明けるなら今しかない」
気付けば、わたしのエインヘリャルが集まり、周りを囲っていた。
みんながみんな、興味津々といった様子の目をしていて、それを感じ取ったダンデは頭を抱えて、口を開けた。
「……とりあえず、水浴びさせてくれない? 僕もクローバーも、汗臭いし」
ダンデの言葉に、恥ずかしそうに笑って、みんなは退散した。
続きは、大食卓の席で。
わたしも夜会の支度をしよう。




