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叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
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第25話

餌食




 夜に賑わう歓楽街の、一つ外れた道を歩く。

 わたしは街の平和を願う、自警団の一人である。


 ここのところ、この街内では行方不明者が増えている。該当するのは全員女性で夜間に消息を絶っており、通り魔、誘拐犯の仕業と見做して、調査を進めている。


 自警団には女性も含まれ、わたしはその中の一人であり、自ら名乗りを上げることで囮捜査に志願した。

 今、わたしはとても綺麗なお召しものを着こなしつつ、夜の歓楽街の端で犯人(くだん)の出現を待っている。


 人の気配の薄い裏道。しんと静まり返った夜。自警団の仲間たちが見張ってくれてはいるのだが、しかしそれでも緊張感と不安が胸を鳴らしていた。


 夜街周囲をぐるりと一周、少し足が疲れてきて――。

 今夜は出没しないであろうと半分諦めかけた頃、闇の中から浮き出るように、一人の男性が現れた。


「こんばんは。お嬢さん、今夜はとってもいい夜だね」 


 ゆったりとした静かな歩調で、男性がこちらに接近する。

 頭巾付きの黒い外套を纏い、深く被っていて、素顔は確認できないまでも……傍目は不審者のそれだった。


「止まりなさい! こちらに来ないで!」

「……?」

「動かないで!」

「……」


 自警団の仲間たちが男性の周りを取り囲む。

 忍ばせていた警棒を相手に向けて、わたしは警告した。

 

「わたしたちはこの街に住む自警団の一派です。質問に答えてもらいます。抵抗しないでください」

「……」

「まずは貴方の立場を明かして、身分を証明してください。名前と年齢、住所を答えて、今夜の外出理由を――」

「あはは」


 謎の男はどこからともなく二本の剣を取り出して、両手に携え、有無も言わさず自警団(わたしたち)を強襲した。

 

 仲間たちが応戦するも、次から次へと倒れていく。予想外の状況となり、わたしの頭は混乱した。

 手先が震え、足が竦み、そのまま棒立ちしてしまい……気付いた時には、残すところはわたし一人となっていた。


「どうだい。まあまあの剣技だろう? これでも元は騎士の家系で、腕には自信があるからね。単なる街の自警団では僕には敵わないよ」

「ひ……っ!」


「あはは。そんなに怖がらないで」と優しい口調で、迫ってくる。


 わたしは腰が抜けてしまい、その場にへたり込んでいた。


「僕の実家は没落してからとても貧しい家柄でね。女に不自由してしまうほど凋落しきってしまった」

「……」

「そこで、僕は夜の街の女攫いになったんだよ。姦魔はいいよ。娼館みたいに金の工面は不要だし、自分で好きな女を選んで自由に弄べるからね。何より殺して隠してしまえば証拠なんかも残らない。君はとても美しいから、今夜は付き合ってもらうよ」

「……っ!」


 恐怖のあまり、動くことも、悲鳴さえも上げられず――。

 

 わたしは腹部を踏みつけられて、視界が真っ白になった。


「あ……っ」

「ごめんね。さよなら。没する命に、尊き命に、哀憫を」


 哀憫会の信者たちが祈りの後に唱える語句。


 それが、わたしの耳に届いた最後の言葉と相成った。

 わたしは気絶し、倒れ込んで……そのまま意識を失った。


「……」

「……」

「……」

「……」

「あれ……? わたしは、一体……」

「……」


 目覚めた時、わたしは既に自分の肉体を失くしていた。

 霊体となったわたしの前には女神様が立っていて、ぺたんと座り込んだわたしの頭を優しく撫でていた。


「あの、わたしは、どうして……」

「……」

「わたしはどうなったんです?」

「……」


 何があったか、一部始終を女神様に訊いてみたが、彼女は固く口を閉ざし、答えようとはしなかった。




アセビ

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