第24話
奢侈
「突然だけど、別れてほしいの」
「え……?」
「本当にごめんなさい」
わたしたちが付き合い始めて、明日で一周年である。
彼は街でも名前が通った良家の好青年であり、わたしは身分の違いを踏まえて彼との交際を続けていた。
言い寄ったのはわたしの方で、告白したのもわたしの方。なので不意の別れ話に彼は唖然としていたが、正味なところ、わたし自身も不明瞭な気持ちでいた。
「どうして? 明日は記念日だから、いろいろ……準備をしていたのに」
「だからこそよ。記念日なんて迎えたくはなかったの」
わたしは別に彼に対して不満は感じていなかったが、だったら幸福なのかというと、それはそれで違っていた。
わたしたちの交際自体に問題、課題は一切なく、彼の思想や性格などはとても善良なものだった。仮にこのまま添い遂げれば、無難で確かで明るい未来を迎えられると思うのだが、しかしわたしは言いようのない倦怠感を抱いていた。
「まさか、他に好きな男が?」
「いいえ。そういうわけじゃないわ」
「だったら、理由は? 悪いところがあるなら、きちんと直すよ」
「……」
例えるなら、幼少時代の遊び道具と同じである。子供の頃に親に強請って買ってもらった玩具のような、そういう過去の一齣として、わたしは彼を捉えていた。
手にする前はあんなにあんなに、本当に欲しかったはずなのに……自分のものになってしまうと、途端に冷めきり、飽きてしまう。大人になった今となってはどこにあるかも定かでなく、しかしそれを探すために時間を費やす気も起きない。
要は、わたしは「ないもの強請り」で彼へと近付いたのである。
そして彼が自分の私物になって、当然となった時、わたしの彼に対する気持ちはただただ薄れてしまったのだ。
「そうじゃないわ。そうじゃないの。貴方は悪くないの」
「……」
「わたしが悪いの。だから、もう……これで終わりにしましょう?」
「……っ!」
「分からない!」と叫んだ彼が、そのままわたしを押し倒す。
普段は庶民も寄りつきはしない、街の外れの廃教会。
別れ話を伝える舞台を告白場所と被せたのは、少し……浅慮が過ぎたようだ。
自分に酔ってしまっていた。
「納得できない! 説明しろ!」
「ぐ……っ」
「早く言えよ!」
「あ……っ」
彼はわたしの首を絞めつけ、悪魔の形相を浮かべていた。
こんな顔は初めて見る。
わたしは彼の内面全てを理解している気でいたが、傲りだった。
彼にだって、負の側面があったのだ。
「カスタナ! カスタナ! カスタナ……?」
「……」
「ああ、カスタナ! 悪かったよ! どうか返事をしてくれ!」
「……」
もはや抵抗もできず、わたしはそのまま窒息。絶命した。
霊体化したわたしの傍には女神様の姿があり、彼女は朽ちた廃教会のフレイヤ像を見つめていた。
「幼い頃の宝物が、曇ってしまい……光を失す。貴女は、貴女と彼の気持ちの違いが、分かりますか」
「……」
女神様は視線を変えず、わたしに一言、問うてきた。
わたしは何も言い返せず、ただ……子供のように喚く彼を、無言で見つめていた。
カスタナ




