第111話
善意
僕が働く介護施設は竜王国の外れにある。
人は重荷を投棄するかの様子でここへとやってきて、それらを僕らに押しつけた後、直ちに踵を返していく。
入居者数は二十八人。内半分は寝たきりで、意思の疎通が可能な人だと更に数は半減する。
身体が動かず、声も出せない老爺老婆が大半で、彼らの介護の肩代わりこそ僕らの職務となっていた。
『〇〇さん、朝食ですよー。今日の気分はどうですかー?』
『あー、あー』
『それは僕の服です。ご飯じゃないですよー』
南の大陸、その国々では政治や治安のよさもあり、他大陸のそれと比べて人の寿命が少し長い。
そのため、増加の一途を辿った老人たちが堰を切り、今では社会に蔓延している大きな負債となっていた。
『新人、明日で辞めるんだって。長くは続かないね……』
『……』
『今年に入って何人目だよ。負担は増してくばかりだ……』
『……』
入居者たちは瞬きもせず、いつも口を開いていた。
「生きている」と言えるだろうか。僕は疑問に思っていた。
「とても苦しい」「早く死にたい」――そんな言葉を聞きつつも、可能な限り長生きするよう延命処置を継続する。
一体、僕らは何のためにこんなことをしているのか。これは正しいことなのだろうか。
僕は自問を繰り返した。
『ですから、その、親御さんは危篤で、危ない状態で……せめて最期の一時だけでも、看取ってあげたらいかがかと……』
『悪いんですけど、時間がなくて。忙しいんです。ごめんなさい』
『ねえ、早く帰りましょうよ。何だか気味が悪いわ』
『……』
入居者たちは自分の子供や孫から見捨てられたのだ。そうしてここへとやってきたのだ。
とても不憫な人たちだ。
彼らは生きてはいるが、けれども、何の役にも立ちはしない。
死ぬまで他人に負担を強いる、足手纏いの存在だ。
虚ろな瞳の奥で、彼らは何を思っているのだろう。四六時中、横たわったままで、どんな気分だろう。惨めだったり、虚しかったり、寂しかったり……するのだろう。
「生きていたい」と思っているのだろうか……?
答案は、否である。
『ケマン君、何をしてるの! 思い直して! お願いよ!』
『ケマン、落ち着け! 刃物をこっちに、今すぐ――』
『退いてください』
……。
「以上を以って、被告人の死刑をここに求刑します」
「……」
「不服の申し立ては?」
「……」
「それでは、判決をば」
僕は僕の正義に則り、悪意を持たずに行動した。
二十八人、人を殺した。
それは全員のためだった。
「……戦女神、教えてほしい。僕は正しくなかったのか」
「それは貴方が自分自身で、これから答案を見つけなさい」
「きっと時間はかかりませんよ。わたしの家族に触れれば」と、戦女神は優しく厳しい視線で、こちらを捉えていた。
死んでいった入居者たちは、何を思っているのだろう。
彼らに感謝をされているのか、それとも……。
僕は閉眼した。
ムラサキケマン




