第109話
合縁
黒い瞳と髪色を持つ、見知らぬ男の人でした。
ある日、わたしが山菜採りのために森まで出かけると、入り口付近で行き倒れている男の人を目にしました。
どうやら森の中で迷って何とか這い出てきたらしく、わたしはすぐに川で水を汲んで、彼に与えました。
男の人はわたしを見るなり何やら焦っていましたが、どうにか言葉は通じるようで、会話は可能なようでした。
黒い髪と黒い瞳、更には変わった柄の服。彼は自分を「旅人なのさ」と名乗ってこそはいましたが、わたしはこんな外見の人、それまで知りませんでした。
『どうして言葉が分かるんだろ……』
『?』
『……いいや、何でもない』
『ともかく、少し歩いたところに小さな村がありますので。どうぞお越しになってください。積もる話は、その後で』
わたしが生まれ育った村は優しい人たちばかりであり、外国人の旅人さんを持てなし、迎え入れました。
それにしても彼の知識はあまりに浅学だったため、記憶喪失なのではないかと噂が立ったくらいです。
そんなこんなで、旅人さんはわたしの家に滞在し、男手として働きながら一緒に生活していました。
彼は時折り不思議な呪文を一人で唱えることがあり、それは才華の一種……? でないかと、わたしが教えてあげました。
そして、半年。彼と出会って月日が経った、ある日のこと。
わたしの村は、魔王軍の幹部に襲撃されました。
相手は極めて強い魔力を持った女悪魔であり、村人たちは警鐘響かせ、一目散に逃げました。
そんな中で、たった一人、件の旅人さんだけが、わたしたちを守るために……犠牲を買って出たのです。
『無茶です! 村に残るだなんて、何を言ってるんですか! あんなの勝てっこありません! こっちへ、一緒に逃げましょう!』
『俺は平気! 何とかなるさ! レナは村人と逃げてくれ!』
『そんな……っ!』
『あはは、心配すんな! さあ、レナ! 早く行け!』
旅人さんは森の中へと女悪魔を引きつけて、それから……彼の安否や所在は、今なお判明していません。
ただ、深い森の奥から爆発音が響いてきて、彼はそれに巻き込まれたと……村人は結論していました。
「レナ、今日も……旅人さんのことを捜しに行くのかい?」
「うん。だって、もしかしたら……生きているかもしれないでしょ?」
「でもね、あれから月日が経ったし……残念だけど、彼はもう……」
「だったら、せめて……ご遺体だけでも、誰かが見つけてあげなくちゃ」
あの日以来、わたしは森ヘと入り、彼を捜しています。
しかし、彼の痕跡さえも……未だに発見していません。
毎日毎日、捜索範囲を広げてみてはいるものの、やはり……旅人さんの姿は、どこにもありませんでした。
(今日はここらで引き返そう。明日は、もっと奥まで……)
――。
その時、わたしは浮遊感を覚え、身の毛が立っていた。
足場を踏み外したのである。わたしはそのまま、落下した。
「……っ!」
ごろごろ、ごろごろ、ばきっ!
ようやく地面に着地した。身体中に激痛が走り、手足が……全く動かない。
見上げれば、地表の一部が崖のように崩れていた。
そこから落ちてしまったようだ……わたしは強く歯軋りした。
頭からは赤い鮮血。ぐるりぐるりと目が回る。
薄れる意識。わたしの視界に最期の最期に映ったのは、深い森にひっそり佇む、小さな掘っ立て小屋だった。
レナンセラ




