表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
157/164

第108話

誤解




『なるほど。以前、付き合っていた彼女さんがいたと』

『はい……』

『それで、別れた元カノさんと()りを戻したいと』

『はい……』


 あの日は職場の女上司と二人で街を歩いていた。


 とある新規の小料理屋さんで、僕は相談(はなし)を持ちかけた。


『だけど、僕は振られてしまって別れることになったんです。なのに、やり直そうだなんて……身勝手すぎると思って……』

『……』

『きっとあの子は僕なんかのこと、すっかり忘れてしまっています。結婚したとか、そういう話は耳には入っていませんけど……別の彼氏はいるかもしれない。だから、尻込みしちゃって……』

『……』


 溜め息一つ、珈琲一口。僕は呆れられていた。


 女上司は家柄もよく、所謂「大人の女性」であり、部下の一人の僕にとってはとても頼れる人だった。

 別れた女性と復縁したいと事情を説明してみると、彼女は至って真面目な口調で、僕へと返事をしてくれた。


『……あのね、貴方と元カノさんが交際してたの、何年前?』

『えっ、あっ、三年以上……学生時代の頃です』


 ……ずずー。


『恐らくだけど、別れた後さ、一度も会ってないでしょ?』

『はい……』

『だったら、とっとと会ってきなさい。きっと復縁できるわ』

『へ……?』


 断言しきった女上司に、僕は呆けてしまっていた。


 彼女は厳しい人ではあったが、嘘などつかない人だった。


『わたしは貴方の三年前の姿なんて知らないけど、何となくね、想像できる。所謂、駄目駄目男』

『うっ……』

『だけど、貴方は努力を重ねて当社うちの企業に入社した。わたしの会社、自慢じゃないけど、世評はそこそこなのよ?』

『……』

『確かに貴方は入社当時は冴えない若者だったけど、今は、ほら! とってもお洒落で素敵な大人になったじゃない。収入たっぷり、優良物件、女は放っておかないわよ。元カノさんが今の貴方を見たら、絶対見直すから』


「まあ、貴方を育て上げたの、わたしだったりするけどね」――「ふふん」と胸を張ってみせる。


 僕は思わず笑っていた。


『貴方はきちんと成長したから、自信と自覚を持ちなさい。昔の貴方と違うってとこ、その子に見せつけなさいな』

『……はいっ!』


 女上司の優しい笑みに、僕は心底、ほっとした。


 今度、あの子に連絡しよう。

 自信を持って、そう思えた。


『だけど、まさか恋愛相談だとは……ちょっぴり驚いたわ』

『ごめんなさい。藪から棒に……』

『うふふ、別にいいけどね』


「今日はわたしが奢ってあげる」と献立表を渡される。

 何から何まで、言葉もなかった。


 頬杖をつき、にやりとする。


『それでそれで、元カノさんってどんな子? 詳しく教えなさい』

『ええ……?』

『相談料ってことで。名前は?』

『えーっと、名前は……』


 ――ッ!


 その時、外から人の悲鳴が店の中まで響いてきた。

 喧騒音はどんどん大きくなって、周囲を騒つかせた。

 

『何事……?』

『さあ、分かりません。事件か何かでしょうか……?』


 ばんっ!


 すると、外から慌てた様子で一人の男が入ってきて、

 

『塔から女が落ちたらしいぜ!』


 僕は頗る動揺した。


『……行かなきゃ。僕、行ってきます!』

『えっ、ちょっと……プラム君!』


 思い返せば、その瞬間から嫌な予感を抱いていた。


 一心不乱に走り抜けた。


 そこには、元カノ、あの子が――。


「……」


 僕の街には大きな大きな時計塔が聳えている。


 綺麗な、綺麗な景色だった。


 優しい風が吹いていた。


「彼女は決して貴方の自死など希望したりはしませんよ」

「それでもいい。思いが伝わらなくても。あの子と再会したい」


『元カノさん、残念だったわ……まさかあんなことが……』

『……』

『もう一度、訊いてもいい? お名前……』


 ……。


『スイートピー』




プラム

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ