Act.4 新しい日常と旧支配者の呼び声
私はいつものようにリファに起こされてベッドから起きる。昨日の衝撃が嘘かのように、いつになく平和な朝である。自分の部屋にまとめたスーツケースを見て思う。本当にここを出るんだと。
朝食を食べるためにリビングに行くと、弟の坂井 束姫が先に起きていた。私の弟は肩につく程度の髪をしていて、顔立ちもとても中性的で、長年一緒に暮らしている私ですらたまに妹と見間違えるほど、かわいらしい外見をしている。年齢は14歳で中学2年生である。
「束姫、その格好やめてって言ったでしょ…」
今の束姫は無防備すぎる格好をしている。シャツに短パンという格好。別に男子なら普通なのかもしれないが、束姫の場合は違う。肌も白い上に身長も男子なのに私よりも低い。男とわかる唯一の点は喉仏のみ。
「だって、これが1番楽なんだもん」
やっぱり、そんな喉仏ちゃんとあるのに、そんな女の子みたいな声で話されても困る。この子に成長期というものはないのか…。
「毎回思うけどその声どこから出してるの?」
「え?これが地声だけど」
「あんたたぶんソプラノいけるよ…」
「お姉ちゃん…」
「何?」
「恥ずかしいからやめて」
相変わらずこの弟は本当に男かを疑うぐらいには、反応が初心すぎる。一生愛でていたいが、私は今日、居候をすることとなっているため、朝食をパパッと食べて自室に戻って最終確認をした。
部屋のドアの隙間から弟が覗いているのが、立て鏡から見えた。
「そこにいるんでしょ?」
「お姉ちゃん、僕…怖いよ…お姉ちゃんがどこか行っちゃうの…」
私はぎゅーっと束姫を抱きしめた。弟の温かい温もり。お父さんは仕事でいないけど、でも、家族のぬくもりを感じる。
「心配しないでいいんだよ」
「お姉ちゃん…生きて帰ってきてね…。約束だよ」
「全く、そんな死亡フラグみたいなこと言わないの」
弟から一度離れてスーツケースを持って玄関まで行く。ついに、旅立ちの時である。
「隣街なんだし、会おうと思えばいつでも会えるから心配しなーい!」
「今まで…ありがとう」
束姫は涙を流した。やっぱり怖いか。急に、今までずっといてくれた姉がどこかに行っちゃうのは。
「これ、あげる」
「これって、お姉ちゃんのお気に入りのリボン?」
「うん。もしものことがあったらそれを持って私を呼んで。それじゃあ…頼んだよ」
「うん、わかった。またね…お姉ちゃん」
「またね」
私は束姫に向かって手を振ってスーツケースを引っ張り出して外へ出た。これから先、どんな過酷なことが待っていようとも、挫けたくはない。
電車に揺られ、横丁を通り抜けて怪異調査事務所に再びやって来た。今日からここが私のマイホームとなるのだ。そして、事務所に入る。
「失礼します。所長、いますか?私です。三琴です」
しかし、ソファに座っていたのは所長ではない。うぐいす色の髪を伸ばした着物を着た幼なげな少女であった。本に夢中でこちらに気づいていないようだ。
「あの、所長さん知らない?」
「ひゃっ!!」
少女は体をビクンと震わせて猫のような素早い動きでソファの裏に隠れた。一瞬見えたが、彼女は二つに分かれた尻尾と、ちょこんと猫耳が生えていた。
「あ、安心して私は悪い人じゃないよ!」
すると少女はようやく警戒を解き前に出てきた。私の弟に負けじと劣らずかわいらしい。
「えっと、すみません。私、喋るのが苦手で。あの、私、あなたのこと知ってます。猫又さんが見たことあるって、その、私、白苗と言います」
「あっ、そうだったんだ。さっきは驚かせちゃってごめんね。私の名前は三琴。よろしく」
そして握手をしようとしたが、その瞬間少女の様子が急変して私の手をパチンと弾き飛ばした。
「すまないな、俺の宿主が」
「え?」
明らかに先ほどのか弱い少女とは思えない力で手が弾き飛ばされて、しかも一人称が俺?急に雰囲気も変わったしもしかして二重人格?
「俺の方も驚かせちまって悪かったな。俺は猫又だ。宿主のために訳あってたまにこの姿になってるが気にすんなよ!」
「あはは、よろしくね」
「…っ!すみません!私の猫又が勝手に!」
「いいんだよ。私もみんなのことを知れて嬉しいし、これからも仲良くしよ?」
「あっ、ありがとうございます!」
白苗は明るい笑顔を見せてくれた。そして、先ほど弾き飛ばされて手を持って握手をした。それから白苗は話しを戻した。
「そういえばさっき所長がなんとかって言ってましたよね?」
「あ、うん。そうだよ」
「所長なら今、ここから少し離れた場所でボートレースの賭けをやってます。たぶんもうじき戻ってくる頃だと…」
いや、あの所長私が来るのをわかっててボートレースに見に行ってるのか!?だとしたら自由すぎないかあの人…。
「あ、ありがとう」
「所長さんはとても自由奔放な人ですからね…」
___1時間後
遅い。所長といってもさすがに限度というものがある。すると、やっとドアノブが回った。そして出てきたのは大勝ちして嬉しそうな所長だった。
「いやー大量大量!今日は調子が良くてめちゃめちゃ勝って来たよ!…あれ、三琴さん?」
「所長…遅いです…」
「あぁ…えっと…ごめんごめん♪」
「そんな謝罪で許されると思わないでください!」
その後、所長に部屋を紹介してもらった。事務所の奥の扉を開けると、古臭い物置きになっていた。さてはこの所長、掃除すらも放置していたのか?常識が無さすぎる。
「えーっとぉ…今日からここが君の新しい生活場所だよ!頑張って掃除してね!」
勝手に去ろうとする所長の襟を私は音を置き去りにして掴みかかった。
「所長、掃除やりますしょうね♪」
「君、下手したら八尺様より怖いんじゃないか?」
そして、私と所長、白苗と一緒に部屋の掃除を始めた。古い資料だったり、LIAIや八尺様の昔の写真だったり、さらには今ではなかなかお目にかかることのできない貴重品までもが掃除の過程で発見された。私は掃除をしていると、不思議な道具を見つけた。すると白苗はそれを見るなり言った。
「それは明治時代に私が書いた絵巻物です。こう見えても明治時代の絵師としてやらせていましたので」
「かわいい見た目に反してこんな迫力ある絵巻物描いてたんだね。すごいよ、白苗ちゃん」
「そんな大層なものじゃないですよ。えへへ…」
「その絵巻物は僕が買い取った代物でね、今じゃ100万以上はザラに超えるかな」
「100万!?」
そんな高級作品がこんな桐の箱の中に入っていて、なおかつ乱雑に保管されてるなんて。やっぱりこの所長、常識が皆無である。見た目的にいい歳しているはずなのだが、イケメンな反面むしろそれが際立つ。
そんなこともあったが、なんとか今日中には掃除が終わった。長いようであっという間だった。途中から八尺様も手伝ってくれて、より部屋の中が綺麗になった。
また、倉庫から家具をLIAIが運んでくれた。正直、ベッドを片手運んでいたのを見た時は鳥肌どころか鮫肌がたった。
このような努力の甲斐もあってか、まだまだ簡易的だけど、安心して生活できるぐらいには部屋が整えられた。
「みんなありがとう」
「どういたしまして〜♪」
今日の八尺様はご機嫌が良いみたいで、私はひどく安心した。(ただし所長はもちろん叱られた)夜ご飯ももらうことができた。
どうやら、この事務所では白苗さんと八尺様がご飯を主に作っているみたいである。ご飯代はかからないらしくとても良心的で優しい仕様である。
夜ご飯もみんなであっという間に食べ終わって、お風呂にも入って、あっという間に就寝時刻となった。白苗さんは猫又の姿になってキャットタワーで寝てるし、所長はソファで寝てるし、LIAIと八尺様は近所で家を持っているみたいで、そこで寝ているらしい。
「これから事務所での生活が始まるんだな…」
私はゆっくりと瞼を閉じた。昔のあの時の記憶、解明するために、私は明日から前に進んでいくのだろう。また、それと再会するために…。
どこかの高級タワマンの最上階。ここに住めるのは世界トップクラスの大富豪のみとされている。そこには、金髪のスーツを着た男の人と、紫のサラサラな髪と美しい美貌を兼ね備えた、黒のドレスを着た高貴な女性がいた。男の人が口を開いた。
「怪異を他の街に放流させるとはどのようなおつもりなのですか?」
「簡単なことよ。他の街は怪異の存在を知る者なんてこの街ほど多くはないでしょう。だから、いつかパニックの一つや二つぐらい起きるでしょ」
男の人は指先で銃を回しながら話した。彼はやはり女の人の言うことに今のところ賛同はできない様子だった。
「だからなんなのですか?私たちの影響はないでしょう」
「あなたは何も分かっていないのね。他の街で怪異が広まれば、怪異が元から多く住まうこの街の知名度は世間的に広がる。そして怪異は恐ろしい存在である。これだけで人々の恐怖を駆り立てるのは十分でしょう」
彼女の目的は人々の恐怖を集めるということをようやく、男の人は分かった。男の人はその情報からやがて一つの結論を出した。彼は冷静な顔にそぐわない、震えた声で喋った。
「…あなたは正気なのですか?旧支配者の復活を本当にやるつもりなのですね」
「正気じゃなかったらことやっていないわよ。かつて、人の世に現れ、真なる歴史から抹消された存在。その名も…」
___旧支配者クトゥルフ。
最近文字数のインフレが激しい…
怪異はかなり幅広く捉える予定




