Act.1 開幕
私立電脳区第一高等学校。電脳区を代表する、名門の共学の私立高校。偏差値もわりかし高く、充実した設備に、個性豊かな生徒。私としては普通に良い高校なんじゃないかと思っているこの頃。
午前の授業が終わり昼休みを迎えた私は、教室の席に着いて窓の景色を見ていた。窓の景色に映るのは立ち並ぶ高層ビルと、緑豊かな自然保護箇所、それからかつてのテロ事件で崩落した帝国議事堂。今はこの景色と平和すら愛おしいほどだ。
しかし、この高校では生徒を中心にある噂が流れていた。路地裏には見てはいけない、話してはいけない存在がいるらしいだとか、人を喰らうウサギがいるらしいとか、海底には何本もの触手を持った邪神が眠っているらしいとか、私にとってはどうでもいい噂ばっかりである。そもそも、そんなものなど最初から信じていない。
そのような考え事をしていたら、黄色のショートヘアを揺らす友達の鳩先 有が話しかけてきた。
「まーた景色見て考え事~?どうせまた何の根拠も無い噂のことについて考えてるんでしょ!」
相変わらず、元気がいい。私もその活発さを見習いたいものだ。見習えるものではないけど。
「やっぱりギルは人の考え事を当てるのが得意なんだね」
ギルとは昔からの幼なじみで、人の考え事を当てるのが得意だった。一体何度、私の秘密を暴いたり、先生に迷惑をかけたか。
「もちろんだよ!私、なんかわかっちゃうんだよね、人の考えてることが」
「でもなんでそんなテレパシーみたいなことできるの?」
純粋な疑問だった。普通に考えて人の考えてることなんて読めるはずがない。嘘発見器や高性能アシスタントAIじゃあるまいし。彼女は元気よく答えた。
「なんか上から降りてくるんだよね。その人の考えてることが。でも、なんでかは私も考えたことなかったかも。
上から降りてくるのはよく分からないけど、とりあえずギルでもその能力らしきものがなぜ扱えるのか理解していなかった。
「もしかして私、実は超能力者だったり!?」
「超能力者なんて存在しないよ…」
「三琴ちゃんも超能力者に会ったこと無いくせにいないなんて言わないでよ~!私は絶対いるって信じてるから!」
超能力者とか超常現象とかは存在しない。私は生まれつきそういうものは信じてこなかった。信じないことが、正しいような気がしていたからだ。でも、これだとギルが可哀想なので何か言葉を返しておくことにした。
「でもこれまで前例とかがいなかったからこそ存在しない扱いになっているだけじゃない?だったらギルがなってみればいいでしょ、その超能力者ってやつ」
彼女はパァァと笑顔を見せた。
「三琴ちゃん天才だよ!よーし、私はこれから超能力者だ!」
「まったく、単純ね」
すると昼休み終了のチャイムが鳴り、ギルは元の席に戻っていった。途中で机に脚をぶつけていたが、ギルは頑丈なので大丈夫だろう。元気が良すぎると、周りがほんとによく見えなくなるということの、一例みたいな存在だし。
私はふと自分の机を見た。すると驚愕の事実に気づく。
「あっ…」
そう、次の授業の準備をし忘れていたのである。私としたことが、この万年優等生であるこの私がこんな単純な失態を犯すなんて。落ち着け、三琴。まだ、授業開始まで1分もある。ロッカーの鍵を開けて教材を取り出すだけだ。そして、私はロッカーに走り出した。鍵を開ける、鍵を…開ける…。ない、ロッカーの鍵が無い。いつもポケットに入れているはずなのに。その瞬間私の脳内に電撃のように記憶が流れる。そうだ、トイレに置いてきたんだった。
まずいまずいまずい。このままでは授業に間に合わない。ロッカーの前であたふたしていると後ろから声が聞こえた。
「三琴ちゃん、トイレに鍵忘れてったでしょ?ほら、すぐ取ってきたから」
「…ありがとう」
やっぱり、人の考えていることを読める能力って便利なんだなぁと痛感した。私は急いで教材を取り出して全力疾走で自分の席に座った。チャイムと同時に座ることができた。3秒ルールもあるのでセーフだろう。これで、私の優等生の威厳が守られた。
無事に午後の授業を全て終えて、お楽しみの放課後の時間がやってきた。なんたって今日は昨日買ったコンビニの限定特濃ストロベリーパフェを食べる日。寄り道せずに早く帰らなければ。私は物理部に入っているが、ギルはバレーボール部に入っているため、私は先に帰ることにした。
夕焼けが高層ビルを包む。歩いていると、広告車両や、ビルの壁に張り巡らされたホログラムが視界に映る。2040年の日本帝政革命前にはこんなにも発展はしていなかったらしい。今私がいるのは元々東京という首都だった場所だが、今は電脳区と呼ばれている。人口の8割ほどがここで暮らしているみたいだ。今の時代農作業などはAIを活用する時代である。もはや、一家に1台、アシスタントAIかサポートAIがいる時代であった。
私は都市を歩き、いつもは通らないけどこういう急いでいる時に通る近道を使うことにした。歳の喧騒からは少し離れた路地裏、あまり人気が無いが5分も短縮が可能である。ところが、今日は妙に寒気を感じる。歩いていると靴の裏が変な感覚がした。ぐちょ…ぐちょ…と気味の悪い感覚が足裏を伝う。足元を見ると、黒いドロのようなものがあった。
「なにこれ…」
いくら歩いてもそのドロはついてくる。まるで意志を持っているかのように。そして苛立ちの限界がきて声を張り上げる。
「さっきからなんなの!」
すると、そのドロは私の足元を離れ1メートル先に行った。そしてドロドロのスライムのようになった。それには白と黒の目玉と、歯ぞろいの汚い口が現れる。その姿を見た時、ある噂を思い出す。
「電脳区のある路地裏にはドロドロとした何かがいて、それを怒らせると食べられちゃうんだって。怖いよね~」
そうだ、これだ。もし、その噂が本当だったら私は食べられてしまう。恐怖で足が動かない。そして、その化け物は口をこれでもかと大きく開けて私を丸呑みにしようとした。グッバイ現世、ありがとうと覚悟を決めたその刹那、銃声が鳴り、化け物が貫かれていた。そしてその化け物は倒れ込み、塵となった。
銃声のなった方向を見てみる。そこには春なのに季節外れの紫のダウンジャケットを着ていて、右目には白の眼帯をつけた、金髪の長い髪をポニーテールに結んだ少女がそこにはいた。片手には銃を持っていた。そして彼女は口を開いた
「Are you all right? (大丈夫か?)」
「お、おーけい?」
この時の私は、この出会いが全ての運命を狂わせたことなど、知る由もなかった。
始まってしまいました。多少のガバは許して




