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嘘告から始まるホンモノ ~罰ゲームで告白してきた一軍ギャルと文化祭までの偽恋人になったら、どうやらお互い本気になってしまったらしい~  作者: GARUD


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9/10

第9話 初デートはボウリング


 翌日の昼休み


「斎藤、今週の日曜って空いてる?」


「日曜?」


 唐揚げを口に入れかけたところで、更科に聞かれた


「午前は空いてる。夕方からバイトだけど」


「じゃ、お昼過ぎくらいまでなら平気?」


「まあ」


「そっか」


 更科が卵焼きを一口食べる


 そのまま終わった


「……何?」


「何が?」


「予定聞いただけ?」


「今から言おうと思ってたし!」


「じゃあ言えよ」


「斎藤って待てないよね」


「日曜空いてるか聞かれたら、その続きあると思うだろ」


「あるけどさ」


「ほら」


「もう……」


 更科が箸を置く


「あのさ、日曜」


「おう」


「どっか行かない?」


「どっか?」


「そう」


「二人で?」


「いや、なんでそこで確認すんの」


「一応」


「二人に決まってんじゃん」


「まあ、そうか」


「付き合ってんだし」


 そこまで言ってから、更科の声が少しだけ小さくなった


「……恋人なら休日デートくらいするっしょ」


「デート」


「復唱しないで!」


「いや、初めて言われたから」


「私だって初めて言ったし!」


「じゃお互い様だろ」


「なんのお互い様よ」


 更科が笑う


「俺はいいけど、どこ行くの?」


「それはこれから決める」


「決めてなかったの?」


「誘ってから決めようかなって」


「ノープランじゃん」


「二人で決めた方がよくない?」


「ものは言いようだな」


「うっさい」


 デートと言われても、俺にも正解は分からない


 映画、水族館、買い物


 頭に浮かんだのはその辺だった


「映画とか?」


「今なんか見たいのある?」


「特に」


「私も」


「終わったじゃん」


「あははっ」


「更科は?」


「買い物とか?」


「何買うの」


「別に何も」


「目的ないの?」


「見るだけでもいいじゃん」


「俺、たぶん途中で座るぞ」


「おじいちゃん?」


「何時間も服見るのキツいって」


「まだ行ってもないのに」


「そこは自信ある」


「自信持つとこじゃないし」


 また少し考える


「斎藤って休みの日何してんの?」


「本読むか漫画読むか」


「家じゃん」


「あとはバイト」


「それも遊びじゃないし」


「外なら……ボウリングとか」


「え」


「何だよ」


「ボウリングすんの?」


「するよ」


「意外」


「またそれかよ」


「だって斎藤からボウリング出てくると思わないじゃん」


「俺のイメージどうなってんだよ」


「休みの日も家で本読んでそう」


「ひどくなってない?」


「あとはバイト」


「そこは合ってるけど」


「ボウリング好きなんだ?」


「まあな。猛とも行くし、一人でもたまに」


「一人!?」


「そこ驚く?」


「一人ボウリングって、そこそこガチじゃない?」


「そうか?」


「そうでしょ」


「別に投げて帰るだけだぞ」


「その感覚がもうちょっとガチっぽい」


「うるさいな」


 更科が笑いながら少し考えて、


「じゃ、ボウリング行こ」


「いいの?」


「斎藤好きなんでしょ?」


「まあ」


「私も久しぶりにやりたいし」


「じゃ決まりでいいか」


「うん」


 更科がスマホを取り出す


「日曜十一時くらい?」


「それなら平気」


「駅の改札前ね」


「おう」


「遅刻しないでよ?」


「それ俺が言うやつじゃね?」


「私しないし」


「俺もしねえよ」


「ほんと?」


「なんでこんな信用ないんだって」


 その時、少し離れたところから柔らかい声が飛んできた


「デート決まったぁ?」


 白鳥だ


 小柄なせいで座っていると机に半分隠れているけど、茶色い髪の横からこっちを覗いて笑っている


「由香!」


「聞こえちゃったぁ」


「絶対聞いてたでしょ!」


「どこ行くの?」


 折笠まで入ってくる


「言わない」


「なんで!」


「絶対あとでいじるじゃん」


「今もういじってんじゃん」


「自覚あんの!?」


「六花、声」


 榊原が黒い髪を肩から払いつつ、一言だけ挟んだ


「全部愛海のせいだからね!」


「あーし何もしてないし」


「今した!」


 俺は弁当を食べながらそれを眺める


 最近、この三人に絡まれてる更科を見るのにもだいぶ慣れてきた気がする


 日曜日


 待ち合わせ場所には十分前に着いた


 改札を出て柱の横でスマホを見ていると、


「斎藤」


 聞き慣れ始めた声がした


「お」


 顔を上げる


 一瞬だけ視線が止まった


 更科なのは分かる


 ただ、制服じゃないのを見るのは初めてだった


 白っぽいトップスに黒いスカート


 学校で毎日見ているピンクゴールドの髪も、制服じゃないだけで少し違って見える


「……何?」


「いや」


「めっちゃ見てない?」


「私服初めてだし、そりゃ見るだろ」


「あ、そっち」


「そっちって何だよ」


「別に」


 更科が口元だけ少し尖らせる


「斎藤はあんま変わんないね」


「何が」


「黒い」


「楽なんだよ」


「斎藤っぽい」


「どういう意味だよ」


「そのまま」


「分かんねえよ」


「あははっ」


 並んで歩き出す


 制服じゃない


 学校でもない


 周りに知ってるやつもいない


 それだけなのに、昨日までの下校とは少し感じが違った


「斎藤」


「ん?」


「今日、一応初デートだからね?」


「分かってるって」


「ほんとに?」


「何回確認すんだよ」


「なんか普通にボウリングしに来た顔してるから」


「どんな顔だよ」


「そういう顔」


「雑だな」


「斎藤に言われたくない」


 初デート


 改めて言われると、その言葉だけ妙に引っかかる


 まあ、やることはボウリングなんだけど


 受付で二ゲーム分を申し込み、シューズを借りる


 レーンへ向かう途中、更科がこっちを見る


「斎藤、マイボールとか持ってないよね?」


「持ってねえよ」


「よかった」


「何が」


「そこまでガチだったらちょっと引く」


「失礼だな」


「一人でも来るんでしょ?」


「たまにな」


「スコアどんくらい?」


「調子いいと百七十くらい」


「……」


「何だよ」


「普通に上手くない?」


「だから好きだって言っただろ」


「もっと百二十くらい想像してた」


「なんで勝手に下手だと思ってんだよ」


「ごめんって」


 更科が笑いながらハウスボールを選び始める


 一つ持ち上げて、


「これでいっかな」


「重くない?」


「大丈夫でしょ」


「指ちゃんと入る?」


「入るよ」


「親指も引っ掛からない?」


「……大丈夫そう」


「ならいいんじゃね」


「急に詳しくなるじゃん」


「好きだって何回言わせんだよ」


「はいはい」


「その返事やめろ」


「斎藤がいつもやってるやつじゃん」


「俺はいいんだよ」


「理不尽!」


 そんな調子で一ゲーム目が始まった


 五フレーム終了


「……三十二」


 更科がスコア画面を睨んでいる


「まあ、久しぶりならそんなもんじゃね?」


「斎藤」


「ん?」


「今ちょっと優しく言った?」


「普通に言っただけだろ」


「絶対『下手だな』って思ってる」


「思ってねえよ」


「ほんと?」


「ただ――」


「ただ?」


「毎回投げ方違うなとは思ってる」


「結局ダメじゃん!」


「いや、だってマジで違うって」


 一投目は左


 二投目は思いきり右


 真ん中へ出たと思ったら、今度は途中から右へ流れる


 本人だけは全部真っすぐ投げているつもりらしい


「もう一回」


 更科がボールへ手を伸ばす


「待った」


「何?」


「そのままやってもまた右行くぞ」


「じゃどうすんの?」


「まず、投げようとしすぎ」


「投げるゲームじゃん」


「そうじゃねえって。腕でぶん投げようとしてる」


「だって重いし」


「だから力で振らなくていいんだよ」


「……どういうこと?」


「あー、もう。見せる」


「え」


 説明するより早い


 ボールを持たずにアプローチへ立つ


「右投げなら、とりあえず四歩で覚えればいい」


「四歩?」


「そう。助走はゆっくりでもいいから、足と腕合わせんの」


 俺は一歩目を出す


「一」


 右足と一緒に、ボールを持っているつもりで両手を前へ出す


「最初に腕を前」


「うん」


「二」


 左足を出しながら右腕を下へ


「ここで前から下ろす」


「うんうん」


「三」


 右足を出して膝を使いながら、腕を後ろへ振る


「ここで引く。ただ自分で持ち上げんなよ。振り子みたいに勝手に後ろへ行かせる」


「振り子ね」


「で、四」


 左足を滑らせるように前へ出し、右腕を真っすぐ振り抜く


「最後に前」


「……」


「分かった?」


「一と二までは」


「半分じゃねえか」


「一気にやるから!」


「四つしかねえよ!」


「斎藤は慣れてるから言えんの!」


「それもそうだけど」


「ほら!」


「じゃ一緒にやるぞ」


「ここで?」


「ボールなしなら転ばねえだろ」


「そういう心配じゃなくて、ちょっと恥ずい」


「誰も見てねえって」


「斎藤が見てるじゃん」


「教えるんだから見るだろ」


「……まあ、そうだけど」


「ほら、一」


 更科も右足を出す


「二」


「はい」


「三」


「あ、待って」


「なんで止まるんだよ!」


「分かんなくなった!」


「まだ三だぞ!」


「斎藤が早いって!」


「普通に歩いてるだけだろ!」


「ボウリング難しくない!?」


「お前が難しくしてんだよ!」


 笑いながらスタート位置まで戻る


「もう一回」


「斎藤、なんか楽しそうじゃない?」


「そりゃボウリングだし」


「めっちゃ喋るじゃん」


「うるさいな。ほら一!」


「あ、誤魔化した」


「二!」


「はいはい!」


「三!」


 今度は止まらない


「四!」


 更科の右腕が前へ出て――少し外へ流れた


「そこ」


「え?」


「腕が横行ってる」


「真っすぐやったし」


「やってねえって」


「やった!」


「じゃボール持って投げてみ」


「また右行ったら笑うでしょ」


「笑わねえって」


「ほんと?」


「たぶん」


「今たぶんって言った!」


「いいから投げろよ」


「もう」


 更科がボールを構える


 さっき教えたことを思い出しているのか、口が小さく動いていた


 一、二、三、四


 投げる


 今度はさっきより真っすぐ進んだものの、途中から右へずれて端の二本だけ倒す


「あー!」


「でも今のさっきより全然いいぞ」


「最後また右行った!」


「今度は離し方だな」


「まだあんの!?」


「そりゃあるだろ」


「ボウリングって玉転がすゲームじゃないの?」


「今のは聞かなかったことにする」


「あははっ」


「ほら、手出して」


「手?」


「ボール持ってる形」


 更科が右手を丸める


「こう?」


「そう。腕は最後まで真っすぐな」


「うん」


「で、無理にこねんなよ。親指が先に抜けて、指があと」


「親指が先」


「そう。最後は――」


 俺も右手を出す


「目標と握手する感じで振り抜く」


「握手?」


「こう」


 更科の前へ手を伸ばす


 つられたのか、更科も手を出した


 指先が軽く触れる


「……」


「……」


「いや、本当に握手しなくていいから」


「斎藤が手出したんじゃん!」


「形見せただけだって!」


「紛らわしいし!」


「とにかく、最後に手を横へ倒すな。前」


「分かった……と思う」


「怪しいな」


「今度はいける!」


 更科がボールを持って戻る


 六フレーム、七フレームと進む


 ガターは減った


 ただ、今度は足と腕のタイミングが合わない


「違う違う!」


「ええ!?」


「三でもう腕前に来てんじゃん!」


「足気にすると腕分かんなくなるの!」


「一で前、二で下、三で後ろ、四で前! これだけ!」


「口で言うの簡単なんだって!」


「じゃもう一回!」


「斎藤、急に熱くない!?」


「そこまで来たら直したくなるだろ!」


「知らないし!」


 更科が笑いながらボールを置く


 ボールなしでもう一度


「一」


 右足


 腕を前へ


「二」


 左足


「違う、二でまだ前!」


「え?」


「だから、こうだよこう!」


 気づけば体が先に動いていた


 更科の横へ回る


「一でここ」


 右手首の近くを軽く持って、前へ


「二で下ろす」


 そのまま腕を下へ


「三で――」


 肘の少し上へ手を添え、腕を後ろへ振らせる


「ここ。膝使って、腕は勝手に後ろへ行かせる感じ」


「……う、うん」


「で、四」


 最後の一歩に合わせて右腕を前へ動かす


「ここで真っすぐ振り抜く。最後はさっきの握手」


「……斎藤」


「ん?」


「近い」


「え」


 そこでようやく気づいた


 近い


 近いっていうか、ほとんど横にくっついてる


 更科の腕を動かすのに夢中で、俺の方から普通に距離を潰していた


 ピンクゴールドの髪が俺の腕にかかっている


 ふわっと甘い匂いまでした


「あ」


 慌てて手を離す


「悪い」


「……別に」


 更科が一歩離れた


 そのまま横を向く


 耳が赤い


 いつもの小さなピアスの周りまで分かるくらい


「……」


「何」


「いや」


「見んなって」


「見てねえよ」


「今見てた!」


「悪かったって」


「もう投げる!」


 ボールを抱えて逃げるみたいにアプローチへ行く


 俺も座る


「……何やってんだ、俺」


 熱くなりすぎた


 教えるにしても、もうちょいやりようあっただろ


 いやでも、口だけじゃ伝わってなかったし――


「斎藤!」


「ん?」


「見てて!」


「おう!」


 更科が構える


 今度はゆっくり


 一


 右足と一緒にボールが前へ


 二


 腕が下がる


 三


 膝を使いながら腕が後ろへ


 四


 左足を前へ出し、真っすぐ振り抜く


「そう、それ!」


 声が出た


 ボールは今までで一番素直に進んだ


 ポケットまでは行かないけど、真ん中より少し右へ当たる


 八本


「えっ!」


 更科が振り返る


「八本!」


「見れば分かるって!」


「でも八本!」


「今のよかった!」


「マジ!?」


「マジ。腕ちゃんと真っすぐだった」


「やった!」


 本気で嬉しそうに笑う


 なんだろう


 こっちまでちょっと嬉しい


「次、残り二本な」


「どうやって?」


「今と同じで、立つ位置少し――」


「待って」


「何だよ」


「まだ教える?」


「スペア取りたいだろ?」


「取りたいけど……」


「じゃ来いって」


「今度はちょっと離れて教えて」


「分かったよ!」


「あははっ」


「何笑ってんだよ」


「斎藤、ほんとボウリング好きなんだなって」


「悪いかよ」


「悪いなんて言ってないじゃん」


 今度はちゃんと少し離れて、狙う板だけ教えた


 一ゲーム目が終わる


 俺、百七十八


 更科、七十六


「……百点以上違う」


「惜しかったな」


「どこが!」


「でも後半よかったじゃん」


「ほんと?」


「五フレーム終わって三十二だったろ。そこからはガターもなかったし」


「あ、確かに」


「最初より全然マシ」


「褒め方!」


「ちゃんと褒めてんだろ」


「もうちょい言い方あるじゃん」


「じゃあ、よく頑張りました」


「先生っぽくてムカつく」


「めんどくさいな」


「あははっ」


 二ゲーム目は最初から少し違った


 まだ助走はぎこちない


 たまに二歩目と三歩目が怪しい


 それでも、一ゲーム目みたいに腕が大きく外へ逃げなくなった


「一、二……」


「声出てるぞ」


「今集中してるから黙って!」


「はいはい」


「三……四!」


 投げる


 七本


「よし!」


「いいじゃん」


「今のどう?」


「四でちょっと急いだ」


「厳しくない!?」


「聞いたのお前だろ」


「まず褒めてよ!」


「七本倒れた、えらい」


「子供扱いすんな!」


 途中、初めてスペアも取った


「斎藤!」


「見てた見てた」


「今スペア!」


「分かってるって」


「もっとなんかないの!?」


「ナイススペア」


「棒読み!」


「注文多いな!」


 それでも更科はさっきよりずっと楽しそうだった


 ミスすると本気で悔しがるし、八本倒せばすぐこっちを見る


 九フレームで一本しか倒れなかった時は、


「今のなし」


「スコアには残るぞ」


「消して」


「無理だって」


「店員さんに頼んだら?」


「インチキすんな」


 そんなことまで言い出した


 十フレームを投げ終わる


 画面に出た数字は、


『104』


「……」


「百超えたじゃん」


「やった!」


 更科が小さく跳ねる


「一ゲームで二十八点上がった!」


「上出来じゃね?」


「これ結構すごい?」


「二ゲーム目なら普通にいいと思う」


「よしっ」


 本気でガッツポーズしている


 俺は自分のスコアを見る


 百八十二


 いつもならもう少しスコアの中身を気にするのに、今日は更科の百四点の方を先に見ていた


「斎藤」


「ん?」


「今日来てよかった」


「まだジュース奢ってもらってないけど」


「今いいこと言ったのに!」


「勝負は勝負だろ」


「はいはい、買いますよ!」


「俺コーラな」


「安っ」


「ジュースで何頼めってんだよ」


「もっと高いの選ぶかと思った」


「嫌がらせじゃねえか」


 笑いながら二人で自販機へ向かった


 シューズを返して外へ出る


 更科が右腕をぶらぶら振る


「ちょっと痛い」


「最初力入りすぎてたからな」


「明日筋肉痛になったら斎藤のせいだから」


「なんで俺のせいなんだよ」


「めっちゃ熱血指導されたし」


「頼んだのお前だろ」


「途中から私より斎藤の方が本気だったじゃん」


「……まあ」


「認めるんだ」


「変な投げ方してたら直したくなるだろ」


「普通はならないと思う」


「好きなんだよ、ボウリング」


 更科が一瞬こっちを見る


「斎藤があんな熱くなるの、初めて見た」


「学校でボウリングする機会ねえだろ」


「それはそうだけど」


「普段からあんなだったら疲れるわ」


「あははっ、それもそう」


 少し歩いてから、更科がぽつっと続けた


「でも、なんかよかった」


「何が?」


「知らなかった斎藤見れた感じ」


「大げさだろ」


「別にいいじゃん」


 更科が先に数歩歩く


 背中でピンクゴールドの髪が揺れた


 さっき、その髪が俺の腕に触れていたのを思い出す


 ついでに、真っ赤になった耳も


 ……いや


 教えるのに夢中になってただけだ


 近づいたのもそのせい


 それ以上でも何でもない


「斎藤?」


「ん?」


「何ぼーっとしてんの?」


「してねえよ」


「してたって」


「ちょっと疲れただけ」


「二ゲームで?」


「更科に教えるので」


「は?」


「冗談だって」


「ムカつく!」


 肩を軽く叩かれる


 今度はいつもの更科だった


 その方が、こっちも変に意識しなくて済む


 駅まで戻る途中、更科が買ったオレンジジュースを飲みながら言った


「でも次やったら、もうちょいいけそう」


「次もやるの?」


「え、ダメ?」


「いや、別に」


「じゃ今度また行こ」


「おう」


 普通に返してから、少し遅れて引っかかった


 今度


 まあ、文化祭までなら別におかしくない


 それだけの話だ


「何?」


「いや、何でもない」


「変なの」


「更科に言われたくねえよ」


「今日それ何回目?」


「知らね」


「あははっ」


 改札前まで来る


 更科が立ち止まった


「じゃ、また明日」


「おう。また明日」


「あ」


「何?」


「今日はありがと」


「ジュース奢ってもらったの俺だけど」


「そういう意味じゃないし」


「じゃ何」


「……普通に楽しかったから」


「お」


「何その反応!」


「いや」


 ほんとにそのまま出たんだろうなと思った


 だからこっちも、変に考えずに返す


「俺も楽しかったよ」


「……そっか」


 更科が少し笑う


「じゃ、またね」


「おう」


 人の流れに混じっていく


 途中で一度振り返って、軽く手を振った


 俺も片手を上げる


 初デート


 始まる前は、デートって言葉ばかり気になっていた


 終わってみれば、ボウリングして、くだらないことで言い合って、笑っただけ


 普通に楽しかった


 ただ――


『近い』


 あの時の更科だけは、まだちょっと頭に残っている


 いつもみたいに大声で突っ込むんじゃなくて、本気で困ったみたいに目を逸らして


 耳まで赤くなっていた


 ああいうのを目の前でやられると、こっちも困る


 ほんの一瞬だけ


 胸の辺りが変な感じになった


 ゲームとか漫画なら、照れたんだなで終わるのに


 生で見ると、思ったより効くらしい


「……帰ろ」


 これ以上考えるのもなんか恥ずい


 俺は改札へ向き直った

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