↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告から始まるホンモノ ~罰ゲームで告白してきた一軍ギャルと文化祭までの偽恋人になったら、どうやらお互い本気になってしまったらしい~  作者: GARUD


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

第5話 一緒に帰るだけ


 翌日の放課後


 終礼が終わって、教室のあちこちで椅子が鳴り始めた


「陽斗、帰ろうぜ」


 猛が鞄を肩へ引っ掛けながら寄ってくる


「あー、悪い。今日先帰ってて」


「ん?」


「ちょっとある」


「何が」


「用事」


「バイト?」


「今日は違う」


「じゃ何だよ」


「いちいち聞くなって」


「気になるだろ」


 猛が俺の顔を見て、それから視線を後ろへ動かした


 更科の席


 愛海たち三人もまだ残っている


「あー」


「何だよ」


「なるほどね」


「その顔うざいな」


「俺まだ何も言ってないだろ」


「顔で言ってんだよ」


「じゃあ邪魔しない方がいいな?」


「一緒に帰るだけだって」


「やっぱそれじゃねえか!」


「声デカいって」


 後ろを見ると、案の定、愛海がこっちを見て笑っていた


 最悪


「じゃあな、陽斗」


「おう」


「明日聞くからな」


「何をだよ」


「感想」


「帰るだけで感想なんかねえよ」


「分かんないだろー?」


「早く帰れ」


「はいはい」


 笑いながら猛が出ていく


 昨日の夜、自分で決めたことだ


 一緒に帰るくらいなら簡単そうだと思った


 実際、誘うだけなら大したことじゃない


 ……たぶん


 鞄を持って後ろへ行く


 折笠が一番先に気づいた


「お」


「その『お』やめろ」


「まだ何も言ってないんだけど」


「言いそうな顔してる」


「何それ」


 更科がこっちを見る


「斎藤、どうしたの?」


「今日さ」


「うん」


「一緒に帰る?」


「……え?」


 思ったよりちゃんと驚かれた


「嫌なら別に――」


「いや、帰る!」


「まだ最後まで言ってねえって」


「だって今、嫌ならって」


「予定あるならって意味だよ」


「あ、そっち」


 更科が小さく息を吐いたところで、


「六花、よかったじゃん」


 折笠がすぐ横から入ってくる


「何が」


「彼氏からお誘い」


「一緒に帰るだけじゃん!」


「誰もデートって言ってないけど?」


「……」


「六花ちゃん自分から意識してるぅ」


「由香までやめて!」


「愛海が振ったから」


 榊原がスマホを鞄へ入れながらぼそっと言う


「凛は助けてよ」


「無理」


「即答!」


 更科がこっちを見る


「斎藤、行こ」


「お、おう」


「これ以上いたら絶対またなんか言われる」


「それは分かる」


「斎藤まで!」


「いや、今のは折笠たちの話だろ」


「あ、そっか」


「六花、もうテンパってんじゃん」


「愛海!」


 後ろで笑い声が上がる


 更科はもう聞かないことにしたらしく、鞄を持って先に教室を出た


 俺も追いかける


 昇降口を出て校門を抜ける


 そこまでは普通だった


 問題は、そのあと


「……」


「……」


 何も喋ってない


 更科と並んで歩いているのに、本当に歩いているだけだ


 昨日までほとんど二人で話したことがなかったんだから、まあこうなるか


「……斎藤」


「ん?」


「なんか喋ってよ」


「いきなり無茶言うなって」


「だって静かすぎない?」


「更科が喋ってもいいだろ」


「私も何話せばいいか分かんないし」


「俺もだよ」


「……」


「……」


「これダメじゃない?」


「早くない?」


 まだ校門から二分くらいだぞ


 更科が吹き出した


「だって恋人で一緒に帰ってんのに無言って」


「恋人ならずっと喋ってなきゃダメなの?」


「知らないけど」


「ほら」


「でもなんかあるじゃん。普通」


「その普通が分かんねえんだって」


「……確かに」


 二人とも初めてなんだから、正解を知ってるやつがいない


 少しだけ気が楽になった


 信号で止まる


 更科が俺の鞄に目を向けた


「それさ」


「何?」


「いつも読んでる本入ってんの?」


「入ってるけど」


「毎日持ってきてんの?」


「読むからな」


「休み時間ずっと読んでるよね」


「ずっとじゃねえよ」


「結構読んでるって」


「まあ、それはそう」


 信号が青になる


 二人で歩き出す


「何読んでんの?」


「ラノベ」


「それはなんとなく分かる」


「じゃあ何を聞いてんだよ」


「タイトルとか内容とか!」


「ああ」


 今読んでいる作品を簡単に説明する


 異世界ものだけど、最初から主人公が強いタイプじゃない


 旅をしながら少しずつ仲間が増えていく話


「あ、それ知ってるかも」


「マジ?」


「アニメやってたやつじゃない?」


「やってた」


「主人公が最初めっちゃ弱いやつ?」


「それ」


「あー、愛海ん家で見た!」


「折笠が見るの?」


「愛海は途中で飽きてスマホ見てた」


「見てねえじゃん」


「あははっ、確かに」


「更科は?」


「私はちょっと見たよ。三話くらい」


「微妙なとこで止まったな」


「だってそのあと由香が恋愛映画見たいって言い出して」


「ジャンル飛びすぎだろ」


「四人いたらそんなもんじゃない?」


「そういうもんか」


「そういうもん」


 さっきまで困っていたのが嘘みたいに、普通に返事が来る


 というか、こいつ結構なんでも喋るな


「斎藤って漫画も読む?」


「読むよ」


「何系?」


「何系って言われると困るな。少年漫画も読むし、ラブコメも読むし」


「ラブコメ読むんだ」


「読むけど」


「へえー」


「なんだよ」


「いや、なんか意外」


「更科に言われたくねえよ」


「私?」


「漫画読まなそうだったし」


「それ昨日も言われた気がする」


「あれ、言ったっけ」


「言った!」


「悪い」


「私のことどういう人だと思ってんの?」


「いつも喋ってる人」


「雑!」


「実際そうだろ」


「もっとあるでしょ!」


「……髪が派手」


「見れば分かるやつじゃん!」


「指輪が光ってる」


「それも!」


「じゃあ知らねえよ。今までほとんど喋ったことないんだから」


「あ」


 更科がそこで止まる


「それもそうか」


「だろ?」


「……じゃあ斎藤も同じじゃん」


「何が?」


「私、斎藤のこと本読んでる人くらいしか知らない」


「ひでえな」


「斎藤も似たようなもんだったでしょ!」


「まあな」


「じゃあお互い様じゃん」


 更科が笑った


 駅前まで来る


 いつもなら一人で歩くか、猛が横でくだらないことを喋っている道


 今日は更科がいる


 その違いくらいしかないはずなのに、気づいたらもう駅だった


「え、もう着いた」


「毎日この距離だろ」


「いや、そうなんだけど」


「何だよ」


「なんか今日早く感じたなって」


「……まあ、それはちょっと分かる」


「でしょ?」


 なんで嬉しそうなんだ


 改札を抜ける


「斎藤、何線?」


「こっち」


「え、私も」


「マジ?」


「うん。斎藤何駅?」


「俺は――」


 駅名を言う


「あ、私その手前」


「じゃ途中まで一緒じゃん」


「今まで全然気づかなかったね」


「登校時間も毎日同じじゃないしな」


「確かに」


 ホームへ上がったところで、電車が発車していった


「うわ、最悪」


「次六分後」


「微妙」


「走っても間に合ってないだろ」


「分かってるけどさぁ」


 ホームのベンチは埋まっていたので、二人で端の方に立つ


 少しして、更科が駅前の店を指した


「あそこ、放課後めっちゃ混んでない?」


「クレープ屋?」


「そう。うちの学校の子ばっかいる時ある」


「甘いの好きなの?」


「好き。普通に」


「へえ」


「またその反応!」


「今のは別に意外って意味じゃねえよ」


「じゃ何」


「いや、甘いの好きなんだなって」


「それを『へえ』って言うんじゃん」


「めんどくさいな」


「ちょっと!」


 肘で軽く小突かれる


「痛くないけど暴力反対」


「全然力入れてないし!」


「分かってるって」


「斎藤、たまにムカつくね」


「まだ付き合って三日くらいだぞ」


「もうバレたね?」


「何がだよ」


 また笑う


「斎藤は? 甘いの食べない?」


「普通に食うよ」


「何好き?」


「プリンとか」


「え」


「何その反応」


「プリンなんだ」


「悪いかよ」


「悪くないけど、なんかかわいい」


「やめろって」


「あははっ!」


「笑いすぎだろ」


「ごめん、でも斎藤がプリンって」


「食べ物にキャラとかないだろ」


「あるって!」


「ねえよ」


 そこで電車が来た


 乗り込むと、帰宅時間だからか座席はほぼ埋まっている


 ドアの横に並んで立つ


「今日の数学、最後のやつ分かった?」


 更科が急に言った


「ああ、最後の?」


「先生、途中めっちゃ飛ばさなかった?」


「飛ばした」


「だよね!」


「黒板の右端から急に答え出てきたもんな」


「そう! 私そこ見て『え?』ってなったもん」


「俺も隣のやつに聞かれた」


「斎藤分かった?」


「一応」


「マジ?」


「式一個省いただけ」


「一個じゃないって。三個くらい消えてた」


「盛るなよ」


「盛ってない!」


「明日ノート見せようか?」


 言ってから、更科がこっちを見る


「え、いいの?」


「別にいいけど」


「助かる。今日帰ってもう一回見るのダルかったんだよね」


「ちゃんと見ろよ」


「斎藤、お母さんみたい」


「誰がお母さんだよ」


「じゃお父さん?」


「そういう問題じゃねえ」


 更科が笑う


 そのまま昨日の体育の話に飛んで、折笠がバレーで本気になりすぎるとか、猛は体育になると無駄に張り切るとか


 話題なんて考えなくても勝手に次へ移っていった


 学校を出た時、何を喋ればいいんだって悩んでいたのがちょっとアホらしくなる


「斎藤さ」


「ん?」


「学校だともっと静かじゃない?」


「そう?」


「そうだって。休み時間ほぼ本読んでるじゃん」


「話す相手いなきゃ読むだろ」


「加藤は?」


「あいつは勝手に来るじゃん」


「ひど」


「事実だって」


「他の男子とは普通に喋ってるよね」


「まあな」


「女子は全然じゃん」


「用事ないからなぁ」


「……あー」


「何だよ」


「いや」


 更科が俺を見て、少し笑った


「斎藤って、別に喋れないわけじゃないんだなって」


「当たり前だろ」


「いや、なんかもっとこう……」


「コミュ障だと思ってた?」


「そこまで言ってない!」


「今の間は絶対そうだろ」


「ちょっとだけ!」


「言ったじゃん」


「ごめんって!」


「普通に失礼だからな」


「だからごめん!」


 更科が笑いながら手を合わせる


「でもほんと、学校では静かなだけなんだね」


「ずっと騒いでる方が疲れるだろ」


「それ愛海に言ったらキレるよ」


「言わねえよ」


「私には言うんだ?」


「更科が聞いたんだろ」


「あ、そっか」


 また笑う


 車内アナウンスが流れた


 更科が顔を上げる


「あ、次だ」


「ここ?」


「うん」


 電車が減速する


 さっきまで普通に喋っていたのに、降りるとなると急に会話が切れた


 更科も何となくスマホを握り直している


 ドアが開く


「じゃあ、また明日」


「おう。また明日」


 更科がホームへ降りる


 二、三歩進んだところで、こっちを振り返った


「斎藤」


「ん?」


「……今日はありがと」


「帰っただけだろ」


「分かってるし!」


「じゃあ何のありがとうだよ」


「なんとなく! いいじゃん別に!」


「はいはい」


「その返事ムカつく!」


 ドアが閉まり始める


「じゃ、また明日!」


「おう」


 更科が軽く手を振る


 俺も片手を上げた


 電車が動き出す


 一人になって、さっきまでのことを思い返す


 初めて一緒に帰った


 それだけ


 何か恋人っぽいことをしたわけじゃない


 漫画の話をして、食い物の話をして、学校の話をした


 手も繋いでないし、変に距離が近くなったわけでもない


 なのに、思っていたより気まずくなかった


 むしろ――


「……話しやすいな、更科」


 声に出してから、ちょっとだけ納得する


 教室で見ていた時は、俺とはたぶん合わないタイプだと思っていた


 実際に喋ると全然そんなこともない


 こっちが雑に返しても普通に返ってくるし、変に気を遣わなくていい


 文化祭まで


 そこは変わらない


 ただ、この感じなら二か月そこまで困らなそうだ


 今は、それくらいでいい


 ◇


 家に着いた六花は、制服のままベッドへ腰を下ろした


 鞄を床へ置いたところでスマホが震える


 愛海からだった


『で、初下校どーだった?』


「……早」


 グループの方には由香まで、


『気になるぅ』


 と続いている


 凛は何も送っていない


 六花は少し考えて、


『普通に帰っただけ』


 送信


 一秒もしないうちに愛海から返ってくる


『それだけ?』


『それだけ』


『つまんな』


『うるさい』


 スマホをベッドへ置く


 確かに、本当にそれだけだった


 学校から駅まで歩いて、途中まで電車に乗った


 漫画とかクレープとか数学とか、どうでもいい話をしただけ


 最初はどうなるかと思ったけど、途中からは別に気まずくもなかった


「……斎藤、普通に喋るじゃん」


 学校で本ばかり読んでいるから、もっと会話が続かないと思っていた


 全然違った


 言い方はたまに雑だけど、こっちが言えばちゃんと返してくる


 スマホをもう一度手に取る


 陽斗とのメッセージ画面を開いて――


「……何してんだろ、私」


 別に新しいメッセージは来ていない


 すぐ画面を閉じる


 罰ゲームだから一緒に帰っただけ


 彼女らしく見せるなら、こういうことも必要


 それだけなのに


 六花はベッドへ倒れ込み、天井を見る


「……まあ、悪くなかったかも」


 口にしてから、自分で少しだけ笑った



カクヨムで先行連載しております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。