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嘘告から始まるホンモノ ~罰ゲームで告白してきた一軍ギャルと文化祭までの偽恋人になったら、どうやらお互い本気になってしまったらしい~  作者: GARUD


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2/10

第2話 私とつきあってくれない?


 翌朝


 教室に入ると、更科はもう来ていた


 いつもの席で折笠たちと話している


 昨日、あの四人が放課後の教室で話していたことを思い出す


『もう明日でいいって!』


 明日というのは、つまり今日


 告白するとは聞いた


 ただ、いつどうやって呼ばれるのかまでは知らない


「陽斗、おはよ!」


「おう」


 先に来ていた猛へ返し、自分の席へ鞄を置く


「今日一限なんだっけ?」


「英語」


「うわ、単語テストあるじゃん」


「昨日言ってただろ」


「聞いてねえ!」


「知らねえよ」


「陽斗、見せて!」


「何を」


「単語!」


「教科書見ろって」


「親友だろ!?」


「単語テストで友情使うなよ」


 朝からうるさい


 猛を適当にあしらい、机から文庫本を出そうとしたところで、


「……斎藤」


 後ろから声がした


 手が止まる


 来たか


 そう思ったものの、もちろん顔には出さない


「ん?」


 振り返る


 更科が机の横に立っていた


 普段ならこの時間は後ろで折笠たちと喋っている


 それが朝から俺のところへ来ているせいで、猛まで露骨に俺たちを見比べていた


「何?」


「あー……」


 更科が一度、猛を見る


「加藤、ちょっといい?」


「俺?」


「いや、斎藤に話あるから」


「あ、俺が邪魔ってことね」


「そこまで言ってないけど」


「分かった。俺は空気の読める男だからな」


「さっきまで単語見せろって騒いでたやつが?」


「それとこれとは別だ!」


 猛は何を察したのか分からない顔のまま、自分の席へ戻っていった


 全然空気を読めていない気もする


「で、どうした?」


「今日さ」


「おう」


「放課後って……時間ある?」


 昨日の話を聞いていなければ、たぶんここで少し驚いていた


 知っている俺ですら、本人から直接言われると妙な感じがする


「今日はバイトないから、あるけど」


「あ、そうなんだ」


「うん」


「じゃあ……終礼終わっても、ちょっと教室残っててくんない?」


「教室?」


「うん」


 更科が頷く


 それから一瞬だけ言葉を探して、


「話したいことあるから」


「分かった」


「……忘れないでよ?」


「忘れねえって」


「ほんと?」


「そんな何回も確認する?」


「だって……まあ、いいけど」


「じゃ、放課後な」


「うん」


 それだけ答えると、更科は少しだけ肩の力を抜いた


「じゃあ、また後で」


「おう」


 自分の席へ戻っていく


 俺も文庫本を開こうとしたところで、後ろから声が聞こえた


「言えた?」


「愛海、声」


「あ、ごめん」


「絶対聞こえてるし……」


「まあ、言えたならいいじゃん」


「もう!」


 白鳥が横で吹き出している


「六花ちゃん朝から緊張してたもんねぇ」


「由香まで言わなくていいから!」


「してたのは事実」


 榊原がぼそっと挟む


「凛まで!」


 当然、こっちまで普通に聞こえている


 ただ、ここで振り向いたら更科がさらに気まずくなるだけだ


 知らないふりをして本へ目を落とす


 何を言われるのかは知っている


 返事も、ほとんど決めている


 なのにさっきから、いつもより文字が頭に入ってこない


「……」


 分かっててこれかよ


 自分でもちょっと情けない


 放課後


 終礼が終わると同時に、教室の空気が一気に崩れた


「今日部活休みー?」


「いや、あるって!」


「駅前行くやつ待って!」


 鞄を閉じながら、朝の約束を思い出す


 というか、忘れるわけがない


「陽斗、帰るぞ!」


 猛が当然のようにやってくる


「悪い。今日は残る」


「え、バイト?」


「いや」


「じゃ何?」


「朝、更科に放課後残っててって言われた」


「……は?」


 猛の動きが止まった


「更科?」


「うん」


「更科六花?」


「このクラスに他に更科いないだろ」


「いや、そうだけど!」


 声がでかい


「お前、何で!?」


「知らねえよ」


「何の話!?」


「それ聞くために残るんだろ」


「陽斗、お前……」


 猛が急に俺の肩を掴んでくる


「何だよ」


「ついに何かやらかしたのか?」


「なんで呼び出された俺がやらかした前提なんだよ」


「じゃあ更科が?」


「もっとねえだろ」


「じゃあ何なんだよ!」


「だから知らねえって!」


 本当は知っている


 けど、猛にはそう言うしかない


 廊下から別の男子が顔を出した


「加藤ー、帰んぞ!」


「あ、待て!」


 猛が振り返り、もう一度俺を見る


「明日絶対聞くからな!」


「しつこいな。何もなかったら何もねえぞ」


「その呼び出しで何もないわけねえだろ!」


「知らねえよ」


「じゃあな!」


「おう」


 ようやく行った


 教室の後ろを見る


 更科はまだ三人と一緒にいた


「じゃ、あーしたち先帰るわ」


「え、もう?」


「何。残ってほしいの?」


「そういう意味じゃない!」


「六花ちゃん頑張ってねぇ」


「だから何を!」


「告――」


「由香!」


 白鳥が慌てて口を押さえる


「何でもなぁい」


「それで誤魔化せてないから!」


 榊原は鞄を肩へ掛ける


「じゃ、明日」


「凛、薄くない!?」


「何て言えばいいの」


「いや……知らないけど」


「じゃあいいじゃん」


「そうだけど!」


 折笠が笑いながら更科の肩を軽く叩いた


「ま、頑張れって」


「愛海まで普通に言うのやめてよ」


「じゃあ失敗してこい?」


「それはもっと嫌!」


「はいはい。じゃ、また明日」


 三人が教室を出ていく


 更科はその背中を見送ってから、小さく息を吐いた


「……あいつらほんと」


「仲いいな」


「今ので?」


「仲悪かったらあんな絡まないだろ」


「まあ……そうだけど」


 その間にも残っていたクラスメイトが一人、また一人と帰っていく


「じゃーな」


「おう」


 最後に窓際で喋っていた男子二人も教室を出た


 残ったのは俺と更科だけ


 さっきまで近くで聞こえていた話し声がなくなり、今度は廊下を走る足音や、別の教室の笑い声が入ってくる


 更科は自分の席の横に立ったまま、なかなかこっちへ来ない


「……」


「……」


 俺から聞くか?


 いや、朝から話があるって言ってたのは向こうだしな


 急かすのも違う


 鞄の中を適当に整理しながら待つ


 しばらくして、


「斎藤」


「おう」


 更科がこっちへ歩いてきた


 俺の机の前で止まる


「待たせてごめん」


「別に。朝から残ってろって言われてたし」


「そうだけど」


「で、話って?」


「あー……」


 止まった


「何だよ」


「ちょっと待って」


「はいはい」


「そうやって普通に待たれるとやりづらいんだけど!」


「じゃあどうしろってんだよ」


「知らないけど!」


「呼び出したの更科だろ」


「分かってるって!」


 更科が困ったように笑う


 緊張している


 昨日の教室では、もっと軽い感じでやるものだと思っていた


 罰ゲームなんだし、


『斎藤、付き合わない?』


 くらいで済ませるのかと


 実際は全然違う


 さっきから指輪を触ったり離したりしているし、俺と目が合うとすぐ横へ逸らす


「……こういうの、初めてだから」


「何が?」


「その……自分から言うの」


 なるほど


 嘘でも告白は告白か


 男子から告白されたことはあっても、自分からするのは初めてらしい


 そりゃ緊張くらいするか


「じゃあ……言うから」


「おう」


「ちゃんと聞いてね」


「聞いてるって」


「まだ言ってないじゃん!」


「じゃあ言えよ」


「もう!」


 更科が一度こっちを睨む


 でも、そのせいで少し緊張が抜けたらしい


「斎藤ってさ」


「ん?」


「今、彼女いないよね?」


「そんなん居たことないけど?」


「あ、そう……なんだ」


「……うん」


「……」


 また止まった


「続きは?」


「今考えてる!」


「考えてから呼べよ」


「うっさい!」


 思わず笑う


「何笑ってんの!」


「いや、めっちゃ緊張してんじゃん」


「してない!」


「してるだろ」


「……ちょっとだけ」


「認めるんだ」


「うるさいなぁ!」


 これ、本当に罰ゲームなんだよな


 一瞬だけ、昨日聞いた話を勘違いしたんじゃないかと思いそうになる


 でも、それはない


 罰ゲームで、付き合う期間は文化祭まで


 全部聞いた


「……斎藤」


「おう」


 今度は、更科が目を逸らさなかった


「私さ」


 一度だけ息を入れる


「斎藤のこと……好きなんだけど」


「……」


 分かっていた


 次に何を言われるかまで分かっていたのに、胸が一回だけ変な動きをした


 女子から真正面で「好き」と言われたのは初めてだ


 嘘だと知っていても、実際に言われるのは想像していたのと少し違う


「だから」


 更科が続ける


「私と……付き合ってみない?」


 来た


 昨日から分かっていた告白


 なのに、目の前の更科は思っていたよりずっと真面目な顔をしている


 知らなかったら普通に信じていたかもしれない


 いや


 俺は知っている


 そこだけは間違えるな


「……」


 少しだけ黙る


 すぐ答えたら、それはそれで変だろう


 昨日は、ちょっと面白そうだと思った


 今もそこは変わっていない


 騙された仕返しをしたいわけじゃないし、更科を困らせたいわけでもない


 文化祭まで


 こいつと恋人として過ごしてみる


 実際どうなるのかは、やっぱり少し気になった


「……斎藤?」


 更科の声がさっきより小さくなる


 見ると、表情まで固くなっていた


 あ


 引っ張りすぎたか


「いいよ」


「……え?」


「付き合おう」


「…………え?」


「何だよ」


「え、マジ?」


「マジ」


「いいの?」


「お前が付き合ってって言ったんだろ」


「いや、そうなんだけど!」


 更科が思わず声を上げて、すぐに口を押さえる


「……そんなあっさり?」


「どんくらい悩めばよかったんだよ」


「知らないけど!」


「じゃあいいだろ」


「そうなんだけどさぁ……」


 明らかに戸惑っている


 昨日は折笠が「六花ならいける」みたいなノリだったけど、本人はそこまで自信がなかったらしい


「ていうか」


「何?」


「私たち、ほとんど喋ったことないじゃん」


「そうだな」


「なのにいいの?」


「それ言ったら告白した更科の方が変じゃね?」


「……っ」


 一瞬、更科が詰まる


 危ないな


「でもまあ、これから話せばいいだろ」


「……まあ」


「付き合ったら嫌でも話すだろうし」


「嫌でもって何!」


「言い方の問題だって」


「雑すぎ!」


「俺も彼女いたことないんだから分かんねえよ」


「あ」


「今忘れてたろ」


「……ちょっと」


「ひどいな、お前」


「ごめんって!」


 更科が笑う


 さっきまでの緊張が少しだけ抜けた


「まあ、更科と付き合ったら普通に楽しそうだし」


「……え」


「何?」


「いや……」


「なんだよ」


「何でもない!」


 顔を逸らされた


 さっきまで自分から告白していたくせに、今度はそっちが照れるのかよ


「じゃあ……」


 更科が髪を耳へ掛けながら、ちらっとこっちを見る


「今日から、私たち付き合ってるってことでいいんだよね?」


「そうなるだろ」


「そっか」


「うん」


「……そっかぁ」


「なんで二回言った?」


「いいじゃん別に!」


「まあいいけど」


 更科が少し笑う


 俺もつられて笑った


 本当に付き合ったらしい


 彼女ができた


 しかも更科六花


 数日前までなら、そんなことを言われてもまず信じなかっただろう


 経緯を知っている今でも、まだちょっと変な感じがする


「あ、そうだ」


「まだあんの?」


「その言い方やめて!」


「いや、もう帰るのかと思っただけだって」


「帰るけど、その前に」


 更科が少し声を落とす


「付き合ってることさ、学校では別に隠さなくていいよね?」


「俺はいいけど」


「だよね」


「更科は?」


「私も。変に隠してる方が怪しいし」


 折笠たちにはすぐ報告するだろうし、文化祭まで付き合うなら学校で一切話さないわけにもいかない


「じゃあ普通にしようぜ」


「普通って?」


「知らねえよ」


「そこ考えてよ!」


「彼氏初日だぞ、俺」


「私だって彼女初日だし!」


「じゃあ二人とも分かんねえじゃん」


「……確かに」


 少しだけ間が空く


「とりあえず」


 更科が言った


「明日から学校でも普通に話しかけるから」


「おう」


「斎藤も話しかけてよ?」


「それはいいけどさ」


「けど?」


「折笠たち三人いるとこ入ってくの、普通にキツくない?」


「あー……」


 更科が後ろの席を見る


「確かに」


「だろ?」


「でも愛海とか、斎藤のこと別に嫌ってないよ」


「まあ、それは見てりゃ分かる」


「そっか」


「だから、その辺は適当でいいだろ」


「適当なんだ」


「最初からちゃんとした彼氏とか無理だって」


「……それもそっか」


「更科はできんの? ちゃんとした彼女」


「できるし」


「即答かよ」


「……たぶん」


「もう弱くなってんじゃん」


「うるさい!」


 更科が笑う


 告白前にあれだけ固くなっていたのが嘘みたいだった


「じゃ、帰るね」


「おう」


 床に置いていた鞄を持つ


「また明日」


「また明日」


 更科が教室の後ろのドアまで行く


 そのまま出るかと思ったら、一度振り返った


「斎藤」


「何?」


「……やっぱ何でもない」


「なんだよ、それ」


「いいの!」


「変なやつ」


「聞こえてるから!」


「聞こえるように言った」


「最悪!」


 そう言いながら、更科は笑って教室を出ていった


 足音が廊下の向こうへ消える


 俺は一人になった教室で鞄を持つ


「……彼女、か」


 口にすると、やっぱり変だ


 昨日までほとんど話したことのなかった更科が、今日から俺の彼女


 向こうは、俺が何も知らないと思っている


 俺は最初から知っている


 同じ「付き合う」でも、考えていることはたぶん全然違う


 文化祭まで


 それでも明日の朝からは、学校でも普通に話すらしい


「普通って何すんだよ……」


 さっきは適当に返したけど、本当に分からない


 まあ、明日になれば嫌でも始まるか


 鞄を肩へ掛け、教室を出る


 明日の朝


 更科がいつもの三人へ何を話すのか


 猛がどれだけ騒ぐのか


 そこだけは、だいたい想像がついた


「……絶対うるせえな」


 たぶん朝から面倒なことになる

カクヨムで先行連載しております

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