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嘘告から始まるホンモノ ~罰ゲームで告白してきた一軍ギャルと文化祭までの偽恋人になったら、どうやらお互い本気になってしまったらしい~  作者: GARUD


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第1話 罰ゲームは告白


 二学期が始まって、まだ数日


 帰りのホームルームが終わった途端、二年二組はいつもの放課後に戻った


「今日駅前行かね?」


「俺部活」


「え、課題今日まで?」


「今日じゃねえよ。明日」


「じゃあ余裕じゃん」


「その発想で夏休み死んでたのお前だろ」


 笑い声の横で椅子が鳴り、机の間を鞄が行き交う


 俺も教科書とノートをまとめて鞄へ押し込んだ


「陽斗、帰るぞ!」


 前の方から猛が声を飛ばしてくる


「今日はバイト」


「あ、そっか。じゃあ俺こっち!」


「おう」


「また明日な!」


 返事を聞くより早く、猛は別の男子の肩へ腕を回して教室を出ていった


 あいつは朝から帰るまで大体あの音量だ


 俺も鞄を肩へ掛ける


 その時、教室の後ろでトランプの箱が机に落ちた


「一回だけやろーよ」


 折笠愛海の声


「絶対一回で終わんないじゃん」


「終わる終わる。六花が秒で負ければ」


「なんで私が負ける前提なの?」


「六花ちゃん、前も最後までババ持ってたよねぇ」


「由香、それ今関係ないから!」


「事実」


「凛まで!」


 振り返ると、いつもの四人が机を寄せ始めていた


 更科六花、折笠愛海、白鳥由香、榊原凛


 休み時間も大体あの組み合わせでいる


 俺とは半年近く同じ教室にいるけど、会話らしい会話はほとんどしたことがない


 更科からプリントを渡されて、


「はい」


「ありがと」


 その程度


 別に避けているわけでもない


 向こうも同じだろう


 俺はそのまま教室を出た


 校門を出た辺りでスマホを見る


 バイトまではまだ余裕がある


 駅まで行って、電車の中で昼休みに読んでいた続きでも――


「……あ」


 鞄の中へ手を入れる


 ない


 もう一度探す


 筆箱、ノート、イヤホン


 文庫本だけない


「マジか」


 昼休み、予鈴が鳴って机の中へ放り込んだところまでは覚えている


 そこから出した記憶がなかった


 明日でもいいか


 数歩歩く


 いや


 よりによって、かなりいいところで止まっている


 時計を見る


 戻ってもシフトには間に合う


「……取り行くか」


 結局、来た道を引き返した


 さっきまで人で埋まっていた廊下も、戻る頃にはかなり空いていた


 グラウンドからは運動部の声が聞こえるものの、二年二組のある階は静かだ


 教室へ近づくと、まだ女子の声がした


「待って、それ絶対愛海持ってるって!」


「何が?」


「ババ!」


「顔見んなって!」


「あ、六花ちゃん引いた」


「うわっ、最悪!」


「はい六花負け」


「凛!言い方!」


 まだやってたのか


 後ろのドアは少し開いている


 そのまま入って本だけ取ればいい


 そう思ったものの、四人の真横を通って机まで行くのも妙に気まずかった


 一ゲーム終わったみたいだし、今入るか


 ドアへ手を掛けようとした時、


「じゃ、罰ゲームね」


 折笠の声で止まった


「は?」


「負けたじゃん」


「そんなルール最初になかったから!」


「今できた」


「最悪」


「ジュース奢るとかでよくない?」


 榊原が言う


「凛、そういう現実的なのつまんなくない?」


「じゃあ愛海が考えれば」


「考えてるって。んー……」


 一拍


「あ」


「その『あ』絶対ろくでもないやつ」


 更科がすぐに返す


 白鳥が笑った


「六花ちゃん分かってるぅ」


「分かるよ、この顔!」


「じゃあさ」


 折笠が少し声を弾ませる


「六花、いい加減カレシ作れば?」


「……は?」


 話が急に飛んだ


「前から言ってんじゃん。告られても全部断ってるし」


「だからって罰ゲームと関係なくない?」


「あるある」


「どこが?」


「じゃあ罰ゲームで誰かに告る」


「だから飛びすぎ!」


「いいじゃん、一回くらい」


「よくないし!」


 白鳥の笑い声が重なる


「誰にするのぉ?」


「由香、乗るな!」


「同じクラスでよくない?」


「もう選び始めてるじゃん!」


 俺はドアの横で息を吐いた


 さっさと入ればよかった


 今ここで入ったら、さすがに空気を止めそうだ


 少しくらい待つか


「誰がいいかなー」


「愛海、ほんとにやめ――」


「あ、斎藤とか」


 自分の名字に反応してしまった


 でも斎藤なんて珍しくもない


 他のクラスにもいるだろう


「斎藤?」


「ほら、うちの」


 嫌な感じがした


「斎藤陽斗」


「…………」


 俺だった


「え、斎藤?」


 更科も意外そうに聞き返している


「そう」


「なんで斎藤なの?」


「なんとなく?」


「なんとなくで告らせんの?」


「だって大人しいじゃん。六花が告ったらどんな反応すんのかなって」


「愛海、それ結構失礼だよぉ」


「悪口じゃないって!」


「似たようなもんでしょ」


 榊原の声に、折笠が「えー」と笑う


 俺は動けなくなった


 ババ抜きで負けた罰ゲーム


 その相手が俺


 数秒前まで自分と何の関係もなかった話だったのに、急に逃げにくくなった


 胸の奥がほんの少しだけざらつく


 別に更科が好きなわけじゃない


 告白されたいと思っていたわけでもない


 なのに、こうやって自分の名前が笑い話の中に出てくると、何も感じないほど出来た人間でもないらしい


「私、斎藤とほとんど喋ったことないんだけど」


 更科の声が聞こえる


「だからいいじゃん」


「何がいいの」


「変に仲いい男子より罰ゲームっぽいし」


「うわ、愛海それはちょっと」


 白鳥が笑いながら引く


「え、何?」


「今のは普通にひどい」


「凛まで?」


「普通に」


 まあ


 そうだよな


 俺と更科に接点なんてない


 普段から男子に囲まれてる更科が、自分から俺に告白する理由なんて普通ならない


 そう考えれば納得はできる


 納得できてしまうのも、それはそれでちょっと情けないけど


「でも告るだけでしょ?」


 更科が言った


「まあ最初は」


「最初はって何」


「もし斎藤くんがオッケーしたら?」


 白鳥が割り込む


「え?」


「六花ちゃんが告白して、斎藤くんが『いいよ』って言ったらどうするの?」


「その時は……罰ゲームでした、で終わりじゃない?」


「……それ、結構エグくない?」


 榊原だった


 一度、会話が途切れる


「凛が言う?」


「告るまではまあ、悪ノリで済むけど」


「そこも止めなよ」


「止めるほどでもないかなって」


「凛ちゃんも結構ひどいよねぇ」


「由香には言われたくない」


「えぇ?」


 すぐに笑いが戻った


 ただ、さっきの一言だけは俺にも少し残った


 告白されて、受け入れて


 直後に「罰ゲームでした」


 確かに、知らずにそれを食らったらかなりキツいかもしれない


 俺はもう知ってしまったけど


「じゃあさ」


 折笠がまた話を進める


「オッケーされたら、そのまま付き合えば?」


「はぁ?」


 更科の声が裏返る


「あーし前から言ってんじゃん。六花も一回くらいカレカノやればって」


「だからって斎藤と?」


「嫌なの?」


「嫌っていうか……知らないし、ほぼ」


「じゃあ知ればいいじゃん」


「軽っ」


「ずっとじゃないって。文化祭までとか」


「文化祭?」


「あと二か月もないっしょ。それくらいならいいじゃん」


「六花ちゃんもデートとかしてみたいって言ってなかった?」


「それは……前にちょっと言っただけ!」


「ほらぁ」


「由香、余計なこと言わないで!」


「一緒に帰ってー、デートしてー」


「愛海うるさい」


「手とか繋いじゃう?」


「うっさいって!」


 更科の声が少し大きくなり、三人が一斉に笑った


 どうやら本気で嫌がっているわけではなさそうだ


 かといって、俺と付き合いたいわけでも当然ない


 ちょっと恋人というものを経験してみる


 その相手として、たまたま俺の名前が出た


 そんな感じか


「嫌ならやめれば?」


 榊原が言う


「罰ゲームなんだから、告るだけでもいいし」


「……んー」


 少し間が空く


 俺までなぜか返事を待っていた


「まあ……」


 更科がゆっくり口を開く


「斎藤がオッケーしたら、二か月くらいならいっか」


「おー!」


「ただし、オッケーしたらだからね!」


「するって絶対」


「なんで愛海が分かるのよ」


「六花に告られて断る男子とかいなくない?」


「知らないし」


「じゃあ文化祭までね」


「勝手に仕切んないで!」


「決まり決まり」


「愛海!」


 笑い声がまた重なった


 俺は壁にもたれたまま、しばらく動けなかった


 更科六花が俺に告白する


 嘘で、俺だけはそのことを知っている


「……罰ゲームか」


 今度は声に出さない


 まず浮かんだのは、断ることだった


 普通に考えたらそれで終わりだ


 告白された時に「そういうのいいから」と返せば済む


 全部聞いてた、と言ってもいい


 そうすれば更科は気まずいだろうけど、俺には関係ない


 ……いや


 それも面倒だな


 向こうが固まって、折笠たちにも話が行って、変な空気になる


 だからって何も知らないふりをして付き合うのも普通は変だ


 階段へ向かいながら、さっきの会話が頭に残る


 一緒に帰る


 デート


 手を繋ぐ


「彼女、か」


 もちろん俺にはいたことがない


 漫画やラノベでは腐るほど見てきたけど、実際にどういうものなのかは知らない


 まして相手は更科だ


 普通に高校生活を続けていたら、二人で出掛ける機会なんてまずないだろう


 ……だから何だ


 罰ゲームだぞ


 一度そう思って、また歩く


 でも、俺はもう知っている


 知らずに本気にして傷つくわけじゃない


 向こうも文化祭までのつもり


 俺も同じつもりでいればいい


「……それなら」


 階段の途中で足が少し止まる


 ほんの一か月半


 恋人というものを試してみる


 それくらいなら、ちょっと面白いかもしれない


 仕返ししたいとか、更科を困らせたいとか、そんな気持ちはなかった


 むしろそこまでやる方が面倒だ


 ただの好奇心


 期間限定の恋愛体験


 言い方は変だけど、リアル恋愛シミュレーションみたいなものか


「……何考えてんだ、俺」


 自分で少し笑う


 さっきまで罰ゲームの相手に選ばれたことを微妙に引っかけていたくせに、もう付き合った場合を考えている


 我ながら切り替え方がおかしい


 でも、絶対に嫌かと言われると違った


 むしろ少し気になる


 更科と付き合ったら、どうなるんだろう


「ま、告白されたら考えるか」


 まだ何も起きていない


 その時になって断りたくなったら断ればいい


 そう決めて一階まで下りたところで、開いた窓から四人の声が聞こえてきた


「で、六花いつ告んの?」


「もう明日でいいって!」


「早っ」


「先延ばしの方がダルいし!」


「じゃ明日の放課後ね」


「分かったってば!」


 足が止まった


「……明日かよ」


 思ったより早い


 しかも放課後


 こっちが聞いていたなんて、更科は当然知らない


 なら明日は、知らない顔をして残っていればいいのか


 ……いや、向こうから呼び止めるかもしれないな


 そこまで考えて、自分がすでに受ける前提みたいになっていることに気づく


「まあいいか」


 明日になれば分かる


 校門を出て、もう一度鞄へ手を入れかける


 そこで思い出した


「……本」


 結局、取りに戻った文庫本を置いてきたままだ


 教室へ戻れば今度こそ全部聞いていたとバレる


 さすがに諦めるしかない


「明日でいいか」


 今度こそ駅へ向かう


 読みかけの本は机の中


 そして明日は少しだけ、学校に残る理由ができてしまった

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