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嘘と真実の境界線 ~冷徹王太子の「婚約破棄」は、全部嘘でした~  作者: 揚げすぎたげんぱく


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04 崩壊の序曲

「お前……自分の一族の利益も分からんのか!」


父王が怒号を上げると同時に、ヴァルガスが隠していた魔道具を発動させる。王宮全体が重力から解き放たれたように揺れ、空間が歪む。儀式の時間が早められたのだ。


「エレノア、印を解放しろ! 二人の力を合わせれば、この空間を固定できる!」


ルーカス様の叫びに、私は迷わず彼の手首を握りしめた。


印から溢れる膨大な光が、父王の作り上げた「時戻しの呪術」を根底から食い破る。


「やめろぉ! 時を……王妃を……!」


ガレウス王の絶叫が響く。魔力が逆流し、ガレウス王は王座の前で膝を突き、視界が真っ白に染まりつつあった。

その瞬間晩餐会の部屋のドアがバン!と大きな音を立てて開かれた。


そこには立っていたのは、いつもの穏やかな笑みを浮かべたセドリックだった。


「せ、セドリック!助けに来たか!」


ガレウス王の表情に、一瞬だけ希望の光が見える。彼は歪んだ顔のまま、声を弾ませて命じた。


「そうだ…そうだセドリック!貴様は私の忠実な犬だ!その無能な息子と魔女を捕えろ!儀式を完成させるのだ!」


ガレウス王は、愛息ルーカスを「無能」と(さげす)み、目の前の救世主に大きな信頼を寄せていた。しかし、セドリックの表情を見て、ガレウス王の心臓は凍りつくことになる。


扉の向こうに居たのは、私の知る優しい幼馴染ではなかった。セドリックは、ガレウス王の命令など聞こえていないかのように、ただ歪んだ笑みを口元に浮かべ、会場内に異様な高揚感を満たして行った。


彼の瞳は、暗い歓喜と情熱で濁りきっていた。

その表情はあたりに歪で、人間離れした狂気に満ちている。


「セドリック……?」


私の声は恐怖で震えた。いつも穏やかに私の髪をといてくれていたあの手は、今は指先まで得体の知れない魔力で黒く染まっている。


私はルーカス様の背中に隠れながら、自分の目を疑った。目の前の男が、私とルーカス様を嘲笑(あざわら)うかのように、会場の空気を完全に満たしていた。


「セドリック、なぜあなたがここに?」


私は普段みるセドリックの真反対の姿に驚きを隠せなかった。


私の問いかけに、彼はそれまで見せたことのない、ゾッとするほど情熱的で、それでいて底冷えするような笑みを浮かべた。


「そうだねー、どこから説明しよっかー」


セドリックはまるで愛しい恋人を品定めするように、私の顔をじっと見つめた。その瞳の奥には、彼がずっと隠し続けていた、ドロドロとした情念が渦巻いている。


「僕はね、ずっと君を見てたんだ。ルーカス殿下に心を寄せ、傷つき、泣きそうになるその顔を。…あまりに愛おしくて、誰にも渡したくなかった」


彼の言葉に、ルーカス様が鋭く短剣を構える。

しかし、セドリックは視線すら向けない。


「僕は護衛騎士なんかじゃなくて、研究者として雇われてた、それで君が『セザリオ族の血』を持っていると突き止めたその日から、決めたんだ。このまま殿下のものになるくらいなら、いっそ君を世界に縛り付けてしまおうってね。君の血を、僕だけのものとして永遠に封じ込めるために」




セドリックは、震える私の顎を無理やり持ち上げた。その手は冷たく、かつて私を励ましてくれた温もりなど微塵も感じられない。


「君は『誰にも利用されたくない』と言っていたね?だから僕が、君を誰も触れられない『神』にしてあげる。…僕の手の中で、永遠にね」


それは研究者の狂気ではなく、歪み切った愛の告白だった。


ルーカス様を守るための私の覚悟と、私を縛りつけようとするセドリックの狂気が、この晩餐会の冷たい空気の中で激しくぶつかり合う。


ガレウス王は、「何を言ってるんだ、セドリックゥ!!貴様、裏切るのか!」と悲鳴のような怒号を上げたが、セドリックはそれを聞こえてないかのように無視した。


「ふざけるなッ…!エレノアは、お前の所有物ではない!」


ルーカス様の怒声が響く。私を背にかばうその背中は、かつて私が見た、あの日の少年の面影を宿していた。


セドリックは悲しげに、そして恍惚(こうこつ)として笑った。


「あはは、やっと怒ってくれたね、殿下。君が必死になればなるほど、エレノアは僕の計算どおり、『悲劇のヒロイン』として完成するんだから!」


私は言葉を失った。あの優しかったはずのセドリックの瞳の奥に、かつて私たちを結んだ絆など存在など最初からいなかったのだと悟った。


それと同時に、私の頭の中では、記憶の糸が一本ずつ繋がっていく。


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