03 仮面の向こう側
ようやくルーカス様と分かり合えた。
前世の記憶と、印が引き寄せる魂によって、私は真実を知ることができた。
でも、表向きの私たちは依然として冷え切った婚約者同士のままだ。
「エレノア、油断するな。父上はまだ、お前の『血』を諦めてはいない」
執務室で書類を整理するルーカス様が、私を一度も見ずに告げる。彼の声はまだ冷たい。
でも、その左手首の印が、私の右手にそっと触れている。その熱さだけが、今の私の唯一の支えだった。
父王ガレウスは、私を「王太子の心を操る魔女」と見なし、ルーカス様から引き離す機会を虎視眈々と狙っている。その手駒として動いているのが、宰相ヴァルガスだ。
---◇◇◇---
「エレノア、最近の殿下はますます君に冷淡だ。……もし君が望むなら、僕が君をこの王宮から連れ出すよ」
庭園でセドリックが真剣な眼差しで私を見る。彼の言葉には嘘がない。純粋な善意。それだけに、今の私にはそれが残酷に聞こえる。
「セドリック、ありがとう。でも……私はこの場所に、残らなくてはならないの」
私がそう答えた瞬間、背後に視線を感じた。ルーカス様だ。彼はセドリックを見下ろし、睨み付けた。
「騎士風情が、王太子の婚約者に手を出そうとはな。……エレノア、部屋に戻れ。今日の夜食は毒見が必要だ」
『(嘘)』
――彼の頭上の文字を見て、私は察する。
今日の晩餐会で、父王が私を儀式のテーブルに誘い出そうとしているのだと。
ーーー◇◇◇ーーー
煌びやかな晩餐会。父王ガレウスは上機嫌にワイングラスを傾けていた。
「ルーカス、エレノア。二人の絆が深まっていると聞いたぞ。ぜひ、我が研究室で特別なお祝いをしようではないか」
その言葉の裏側には、底知れぬ狂気があった。ヴァルガスが背後で不敵に笑う。
私の手首の印が、かつてないほど激しく痛みだす。ルーカス様も、苦痛に眉を寄せていた。二人の印が、敵の殺意を察知して共鳴しているのだ。
(ここで拒絶すれば、父様は力ずくで私を連れ去る……)
その時、ルーカス様が私の手を取った。彼の冷たい指先が、私の震える手を強く握り締める。
「父上、お祝いなど不要です。エレノアの血が、父上の求めているものだと……知らぬとでも?」
会場が静まり返る。ルーカス様は私の前に立ち、父王を真っ向から睨みつけた。
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