第64話:地下迷宮の極限奥義!? 凍てつく絶対零度がダンジョンを粉砕する
勘違い過保護ラブコメ、第64話をお届けします!
前回の「市場での迷子スパイ騒動(大号泣事件)」の反省を活かし、ライルが次に選んだのは、人目につかない「地下ダンジョン」の探索だった! 「これなら外に迷惑もかからないし、分厚い壁が盾になるはず!」というライルの甘い予測は、最強騎士団長シルヴィアの手にかかれば一瞬で木端微塵に砕け散る。
地下深くで炸裂する新たな極限奥義と、それに伴う命がけのダンジョン崩壊パニックの幕が今、上がります――!
それでは、第64話のスタートです!
辺境の街郊外、古代遺跡の地下迷宮。
「……よし。ここなら絶対に大丈夫だ」
ライル・フォン・ヴェルナーは、薄暗くひんやりとした石造りの通路に立ち、胸をなで下ろすように深く息を吐き出した。
前回の市場でのクエストでは、迷子の幼児を「肉体を幼児化させた魔導暗殺者」と盛大に誤解された挙句、大号泣させて周囲の人々に変質者扱いされるという精神的ダメージを負った。その騒動に懲りたライルは、血の涙を流しながら誓ったのである。
――「次こそは、人のいない地下ダンジョンにする! ここならどんなに騒ごうとも、四方を分厚い岩盤と硬い壁に囲まれているから、余計なトラブルも起きないし被害も最小限で済むはずだ!」と。
「ふっ、地下迷宮の構造を舐めてもらっては困る。どれほど過激な攻撃であれ、この分厚い石の壁が盾となる以上、外の世界に影響が出るわけがない。完璧なまでのリスク管理だな」
ライルが一人で頷き、満足げに先へ進もうとしたその時だった。
背後から、いつもの神銀製フルプレートアーマーを纏ったシルヴィアと、白銀のマントを優雅に翻した天才勇者・レオポルトが、まるで貴賓の晩餐会にでも向かうかのような優雅な足取りで追いついてきた。
「お言葉ですが、我が君」
シルヴィアは凛とした瞳を輝かせながら、愛おしげにライルの背中を見つめた。
「たとえどれほど分厚い岩盤に守られた地下迷宮であろうと、我が君の御前を阻む不浄の存在が巣食うのであれば、その構造物ごと根本から浄化するほかに道はありませんわ!」
「いや、だからここはダンジョンなんだから壁を大事にしてくれ! 頼むから崩すような真似はしないでくれよ!?」
ライルが必死の形相で念押しすると、シルヴィアは「ふふ、我が君の深いお考え、しかと心得ております」と優雅に微笑んだ。が、その紫紺の瞳の奥には、いつでも全力を叩き込む気満々の殺意(愛)がギラギラと燃え盛っている。
(――嫌な予感がする……! だが、相手は地下だ。せいぜいちょっと大きな音がするくらいで収まるはずだ……!)
自らにそうと言い聞かせながら、ライルを先頭に一行はダンジョンの最深部へと足を踏み入れた。
* * *
ダンジョン最深部。広大な地下空洞。
そこに待ち受けていたのは、通常の冒険者であれば絶望して即座に逃げ出すであろう、圧倒的な威圧感を放つ巨大なモンスターの群れだった。
中央に陣取るのは、通常の数倍はあろうかという巨体を誇り、全身が魔力を含んだ黒曜石の装甲で覆われた最上位種『ハイ・ゴーレム』。そしてその周囲を固めるように、数体の『ミニゴーレム』たちがガシャガシャと不気味な足音を立てながら徘徊している。
「……っ! ゴーレムか。しかも、あの巨体と硬さは一筋縄ではいかないな」
ライルが身構え、剣の柄に手をかけた――その瞬間だった。
「――排除します」
冷徹かつ、どこか甘ったるいシルヴィアの声が地下空洞に響き渡った。
彼女は一歩前に踏み出すと、神銀の大剣をふわりと宙に掲げ、全身の魔力を限界の極限まで急沸騰させた。空間そのものが、彼女の放つ圧倒的なプレッシャーでミシミシと悲鳴を上げる。
「ま、待てシルヴィア! 相手は硬いゴーレムだ、そんな至近距離で――」
「我が君、ご安心くださいませ。硬い装甲を持つ者に対しては、形骸ごと凍てつかせて内側から粉々に砕くのが一番の礼儀ですわ!」
シルヴィアは夜空の星よりも眩い輝きを纏い、澄んだ声でその禁断の詠唱を放った。
――『聖騎士極限奥義・天罰の絶対零度アブソリュート・ジャッジメント』!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
放たれたのは、光ですらない。すべてを凍てつかせる「極限の絶対零度の冷気」であった。
その冷気が解き放たれた瞬間、地下空洞の温度は一瞬にして絶対零度近くまで急降下し、空気中の水分が瞬時に氷の結晶へと変わり、空間そのものが文字通り凍りついた。
中央に君臨していた巨大なハイ・ゴーレム、そして周囲のミニゴーレムたちは、一瞬にして青白く美しい氷の彫像へと変貌した。しかし、それだけでは終わらない。極限の冷気によって分子の結合を完全に失ったそれらの巨体は、次の瞬間、音もなくパラパラと砂のように崩れ落ち、綺麗に消滅してしまったのだ。
「おぉ……!」
ライルも思わずその圧倒的な美しさと不可逆の破壊力に息を呑んだ。
「すげぇ……これなら壁も傷つかず、綺麗に敵だけを消し去ることに成功したんじゃないか……?」
ライルが安堵の息を漏らし、「よし、これなら完璧だ!」と胸を撫で下ろした――そのコンマ数秒後のことである。
メキメキメキ……ッ!! バキバキバキッ!!!
「……ん?」
ライルが怪訝な顔で頭上を見上げた。
先ほどまで絶対零度の冷気にさらされ、極限まで冷却された地下迷宮の分厚い天井の岩盤――そして支柱となっていた巨大な石柱たちが、急激な温度変化(熱収縮と極限の負荷)に耐えきれなくなり、一斉に亀裂を走らせていたのだ。
「あっ……」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
頭上の巨大な岩盤が凄まじい轟音とともに崩落し、何百トンもの巨石の雨が、ライルたちの頭上に容赦なく降り注いできたのである。
「――っ! 天井が落ちてきたぁぁぁぁぁっ!!?」
ライルは恐怖で心臓が口から飛び出るほどの絶叫を上げると、反射的にありったけの脚力で前方へ飛び込み、決死のダイブをかました。
頭のすぐかすめる位置で、巨大な岩石がドゴォォンと凄まじい地響きを立てて地面に叩きつけられる。一歩でも遅れていれば、間違いなく生き埋めのパンケーキになっていたところだ。
砂煙と舞い散る氷の粉の中、ライルは這うようにしてどうにか安全な通路の隅へと逃れ、冷や汗まみれになりながらブルブルと震えた。
「な、なんだこれ……! 敵は倒したけど、ダンジョンそのものが崩壊してるじゃねぇか!! 俺たちは地下墓地で自らのお墓を作っちまったのか……っ!?」
絶望的な崩落パニックの最中、崩れゆく岩石を優雅に避けながら、シルヴィアはふっと上品に息を整え、パッと顔を輝かせてライルのもとへと歩み寄ってきた。
「いかがでしたでしょうか、我が君! 絶対零度の冷気をもってして、不浄を美しく凍結粉砕する『天罰の絶対零度アブソリュート・ジャッジメント』をお見まいいたしました! これでこの迷宮の生態系も完璧に冷却保存されたはずですわ!」
ドヤ顔で胸を張るシルヴィア。
その隣で、レオポルトは感動のあまり両手を合わせ、瞳に大粒の涙を浮かべて震えていた。
「なっ……! なんという神業だ……!」
レオポルトは声を震わせながら熱っぽく語り出した。
「ただの地下空洞を、我が師の圧倒的な魔力によって、永久凍土の神聖なる『氷の宮殿』へと完全に再構築して見せるとは……! ああ、この頭上から降り注ぐ無数の巨石すら、新たな神殿を築くための礎石に見えてくる……! なんという壮大なスケールだ……ッ!!」
(――礎石じゃねぇよ崩落してるんだよ!! 死にかけるわこんなもん!!!)
ライルは崩れ落ちそうな膝を必死に支えながら、喉から血が出るほどの絶叫を再び地下迷宮の闇へと響かせた。
「壁が盾になるなんて思った俺がバカだった……!! 地下だろうが地上だろうが、この兄妹が暴れたらそこはもう地獄の戦場だぁぁぁぁっ!! 誰か助けてくれぇぇぇーーっ!!」
崩れゆくダンジョンの轟音と、ライル絶叫のツッコミが木霊する中、命からがら出口へとダッシュで逃走する一行の姿は、もはや冒険者というよりは災害避難そのものであった。
こうして、地下迷宮での魔獣討伐クエスト(※生き埋め未遂事件)は、またしてもライルの胃に致命的なダメージを刻み込みながら、ドタバタの末になんとか幕を閉じたのだった。
もちろん、ライルの平穏なスローライフ(?)への道は、今日も明日も、限りなく遠く険しいままである――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第64話、「地下迷宮の極限奥義!? 凍てつく絶対零度がダンジョンを粉砕する」いかがでしたでしょうか!
前回の市場での迷子騒動の教訓を活かして「地下ダンジョンなら人目もつかないし壁があるから安全!」と踏んだライルでしたが、シルヴィアの新・極限奥義『聖騎士極限奥義・天罰の絶対零度アブソリュート・ジャッジメント』の圧倒的な冷気の前には、分厚い岩盤も意味をなさず、盛大にダンジョンが崩落するという密室パニック回をお届けしました!
ゴーレムを一瞬で凍結粉砕するカッコよさと、その直後に降り注ぐ巨石から必死に逃げ回るライルの不憫すぎる絶叫のギャップを楽しんでいただけたなら幸いです。
次なる第65話では、ライルにどんなさらなる試練(と胃痛)が待ち受けているのか……!?
それでは、また次回の第65話でお会いしましょう!




