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第63話:迷子の捜索クエスト!? 敵国の「極秘潜入スパイ(ただの幼児)」を包囲せよ

勘違い過保護ラブコメ、第63話をお届けします!

天才勇者レオポルトが庭に居候を始め、相変わらずカオスが加速する黄金の要塞都市。少しでも平穏を取り戻したいライルが選んだのは、冒険者ギルドで最も危険のないはずの依頼――「市場での迷子の捜索」だった!

しかし、その平和極まりない依頼の相手こそが、最強兄妹の手にかかれば「世界を揺るがす最恐の潜入スパイ」へと変貌してしまう最悪の罠だった――!?

笑いと絶叫が止まらない迷子捜索クエストの幕が今、上がります!

それでは、第63話のスタートです!

辺境の街、冒険者ギルド。

「……よし。これなら絶対に、どう転んでも危険な要素なんてゼロだ」

ライル・フォン・ヴェルナーは、ギルドの掲示板の前で一枚の羊皮紙を指でトントンと叩きながら、心底から安堵の息を吐き出した。

前回のダンジョン行脚で天才勇者・レオポルトに「神域のステップ」と勝手に神格化され、精神をごっそり削り取られたライルは、「今度こそ誰にも迷惑をかけず、一番地味で安全な仕事をやるんだ」と固い決意を胸に、新しい依頼を選んでいたのだ。

選んだ依頼は『中央市場ではぐれた、三歳の迷子の男児の保護・捜索(報酬:銅貨数枚)』。

文字通り、冒険者の仕事というよりは、街の警備隊がやるような超・平和な依頼である。これなら魔物も出なければ、山が吹き飛ぶことも、街が要塞化することも絶対にあり得ない。

「ふふ、これならいくらあの兄妹でも、ただの迷子に過剰反応しようはずがない。完璧なチョイスだ」

ライルが満足げに依頼書を剥ぎ取り、受付へ向かおうとしたその時だった。

「――お見事です、我が君!」

「なんと……! 中央市場という人の往来が最も激しい商業エリアをあえて選択されるとは……!」

背後から、ぴたりと息の合った二つの声が響いた。

振り返れば、いつもの神銀ミスリル製フルプレートアーマーを纏ったシルヴィアと、白銀のマントを翻した天才勇者・レオポルトが、キラキラと目を輝かせながら控えていた。

「なんでお前らまでついてくるんだよ!! これはただの迷子の捜索だぞ! 戦闘すら起きないお使いだ!」

ライルが青ざめながらツッコミを入れると、レオポルトは真剣な顔でビシッと腕を組んだ。

「何を仰いますか、ライル殿! 迷子の捜索と見せかけ、その実、敵国が送り込んだ『変装した超エリートの潜入スパイ』をあぶり出すための最高機密の防諜作戦ではありませんか!」

「どこをどう読んだら三歳の迷子がエリートスパイに見えるんだよ!! ただのお母さんとはぐれて泣きそうな幼児だわ!」

「ご謙遜を! あの知略に優れたライル殿が、ただの子供探しなどなさるはずがありません。この私が、万全の包囲網でサポートさせていただきます!」

(話が通じねぇ……!)

ライルが頭を抱えている暇もなく、三人はそのままギルドを出発し、依頼の現場である「中央市場」へと向かうことになったのだった。

 * * *

中央市場の一角。

色とりどりの野菜や果物が並び、多くの買い物客で賑わうその場所で、一人の小さな男児がトボトボと歩きながら、不安そうに目を潤ませていた。

年齢は三歳くらいだろうか。ぽっちゃりとした頬に、大きなどんぐり眼。手に持った木製の小さなおもちゃをギュッと握りしめ、小さく「うぇ……お母しゃん……」と鼻をすすっている。

まさに、どこからどう見ても、ただの普通の迷子の幼児である。

「あっ、あそこにいるぞ……! ほら、あの子だ」

ライルがホッとした表情を浮かべ、優しく声をかけようと一歩踏み出した――その瞬間だった。

ズズズズズ……ッ!!

ライルの背後から、周囲の空気を完全に凍りつわせるほどの、尋常ではない凄まじい殺気と緊張感が立ち上った。

「――ターゲット、視認しました」

シルヴィアの全身のプレートアーマーがガシャリと重厚な金属音を鳴らし、彼女は一瞬で臨戦態勢の低い姿勢に入った。隣でレオポルトも、魔剣の柄にそっと手をかけながら、冷徹なまでの分析眼でその幼児を凝視している。

「待て! 何をしてるんだお前ら! 相手はただの赤ん坊だぞ!」

ライルが慌てて制止に入ると、レオポルトは冷や汗を流しながら、恐怖すら覚えるといったトーンで呟いた。

「甘いぞ、ライル殿……! あの幼児の佇まいを見てください……あの一切の無駄がない立ち姿、そして周囲の大人たちが誰も自分の存在に気づいていないかのような完璧な気配の消去……!」

「ただトボトボ歩いてるだけだろ!! 気配もクソもないわ!」

「さらに、あの手にある木製の玩具……!」レオポルトはさらに声を張り上げた。

「あれはただの玩具ではありません! 内部に魔導起爆装置、あるいは王国の中枢を麻痺させる特殊な呪術回路が組み込まれているに違いない……! あなどれない、あれは間違いなく『国家転覆を狙う、肉体を幼児化させた魔導暗殺者』です……ッ!!」

「肉体を幼児化させた魔導暗殺者ってなんだよ!! スパルタの暗殺組織でもそんな非効率な訓練しねぇよ!!」

ライルはあまりの斜め上すぎるファンタジー設定に、本気でその場でひっくり返りそうになった。

その時、事情を知らないその迷子の男児が、ふと顔を上げてこちらに気づいた。

目の前には、全身ギラギラのフルプレートアーマーを纏った恐ろしい鬼神シルヴィア、白銀のマントを翻して恐ろしい形相で睨みつけてくる不審なレオポルト、そして頭を抱えて絶叫している一般人ライルが立っている。

あまりの威圧感と物々しさに、男児の脳内の恐怖メーターが完全に振り切れた。

「ひ……ひぃぃぃぃ――――――んっ!!!!」

男児は青ざめ、その場で尻餅をつくと、今まで聞いたこともないような大ボリュームでギャン泣きを始めた。

「わあぁぁぁぁん!! こわいよぉ! お母しゃぁぁぁん!!」

「――っ!! 泣き叫ぶことで周囲の民心を動かし、私たちを心理的に追い詰める高度な精神攻撃ソニック・ブラストです……! 油断なさらないでください、我が君!」

「くっ……! なんという恐ろしい戦闘センス……! 幼児の姿を借りていながら、一瞬で周囲の空間を恐怖のるつぼに変えた……!」

「ただ怖がって泣いてるだけだろーーっ!! お前らが怖すぎるからだろ!!」

ライルは血の気が引く思いで叫ぶと、慌ててその男児のほうへと駆け寄り、必死に地面に膝をついた。

「ほら、泣かないで……! ごめんな、あの変な銀ピカのお姉さんとお兄さんは、ちょっと脳のネジが数本吹き飛んでるだけの変質者だから……怖くないからな……!」

「我が君が変質者扱いに……!?」とシルヴィアがショックを受けたような声を漏らすが、ライルは無視して男児の頭を優しくナデナデと撫でた。

「お母さん、どこではぐれちゃったんだ? このお兄さんが一緒に探してあげるから、な? ほら、泣き止んで……」

ライルが日頃の苦労で培った圧倒的な保護者スキルを全開にして優しくあやすと、不思議なことに、男児はピタッと泣き止み、ライルの服の裾をギュッと掴みながら「うん……おうち、かえりたい……」と小さな声で呟いた。

そのあまりの無邪気で可愛い姿に、ライルはホッと心の底から胸を撫で下ろした。

「よしよし、いい子だ。じゃあ、案内してあげるからな」

その光景を背後から目撃したシルヴィアとレオポルトは、別の意味で衝撃を受け、その場で完全に固まっていた。

(なんと……!)

シルヴィアの紫紺の瞳が、これまでにないほどの熱量で潤んだ。

(我が君は、あの一切油断のならない危険な「幼児型スパイ」を、わずか数秒の慈悲深い眼差しと神聖な優しさだけで完全に懐柔し、手懐けてみせられた……! 暴力ではなく、圧倒的な「聖母のような慈愛」をもって敵の戦意を喪失させる……これぞ真の帝王の統治術……ッ!!)

(す、凄まじい……!)

レオポルトも感動のあまり両手を合わせて震えていた。

(あの恐ろしい暗殺者を一瞬で無力化し、自らの忠実な下僕(?)へと変えてしまった……! 私の知るいかなる英雄も、これほどまでにエレガントで完璧な調略を見せたことはない……!)

(いや、だからただの迷子だって言ってんだろ!!! なんだその「暗黒帝国の新しい仲間が増えました」みたいな温かい目で見守るの態度は!!)

ライルは心の中で三千回目の絶叫を響かせながら、男児の手を引いて市場の案内所へと歩き出すのだった。

 * * *

数分後。

中央市場の総合案内所の前。

「あぁっ! うちの子!! どこに行ってたの、心配したんだから……!」

青ざめた顔で駆けつけてきた若い母親が、男児をギュッと強く抱きしめて大粒の涙を流した。男児も「お母しゃん……!」としがみつき、無事に母子は感動の再会を果たしたのだった。

「お騒がせしてすみませんでした、この子が勝手に歩き出しちゃって……本当にありがとうございました!」

母親が何度も頭を下げてお礼を言うと、ライルは「いえいえ、無事で何よりです。気をつけてあげてくださいね」と爽やかに微笑み返した。

その背後で、シルヴィアとレオポルトが「ふっ、見事な救出劇でしたね」「我が君の慈悲深さに全世界が泣いた……!」と勝手にハンカチで目頭を押さえているのを見ないようにしながら、ライルは大きく深い溜息を吐くのだった。

こうして、街の平和を守る(?)ための迷子の捜索クエストは、奇跡的なまでの大誤解と、男児の無事な保護という形で平和(?)に幕を閉じたのである。

もちろん、ライルの胃薬の在庫がゼロになることは、この先も一生ないのであった――。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

第63話、「迷子の捜索クエスト!? 敵国の『極秘潜入スパイ(ただの幼児)』を包囲せよ」いかがでしたでしょうか!

最も平和なはずの「迷子の捜索」依頼を舞台に、ただの三歳の幼児をシルヴィアとレオポルトが「肉体を幼児化させた魔導暗殺者・極秘潜入スパイ」と大真面目に勘違いし、恐怖で大号泣させてしまうという大爆笑のエピソードをお届けしました! ライルが必死に保護者としてあやす姿や、兄妹の斜め上すぎる戦術的分析のギャップを楽しんでいただけたなら幸いです。

少しずつ糖度も笑いも加速していく本作、次なる第64話ではどんなドタバタが待ち受けているのか……!?

それでは、また次回の第64話でお会いしましょう!

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