第60話:王国最強の騎士団長、消えた山の隠蔽工作に頭を悩ます(?)の件
勘違い過保護ラブコメ、第60話をお届けします!
シルヴィアの「神聖御親征(※実態はゴブリン討伐による山の大爆破)」から数日。平穏な日常を取り戻したはずのライルたちのもとに、さらなる恐怖の足音が近づいていた――!
それは、地図から山が消えたことによる「行政の崩壊」と、限界を超えた胃痛コンビによる絶叫の隠蔽工作会議であった……!?
果たして、失われた山はどこへ消えたのか?
それでは、第60話の幕開けです!
ライルの自宅のリビングルーム。
前回の真面目な公務モードを経て、少しだけ落ち着いた空気が流れていたはずの部屋に、いまや凄まじい絶望のオーラが満ち満ちていた。
「「ライル殿ぉぉぉーーーーっ!!! 助けてください――っ!!!」」
盛大な悲鳴と共にリビングの扉が勢いよく開き、駆け込んできたのは、王国騎士団副団長にして「秘密の胃痛同盟」創始者であるアルベルトと、中央財務局から派遣された特命監査官にして胃痛同盟の同志であるルキウスの二人だった。
どちらも顔面は真っ青、目の下にくっきりと深いクマを作り、手には大量の公文書とボロボロになった領地地図を握りしめている。
ライルはソファからガバッと立ち上がり、慌てて二人に声をかけた。
「おいおい、どうしたんだよ二人とも! そんなゾンビみたいな顔をして……また何か厄介な事件でも起きたのか!?」
「事件どころの騒ぎではありません、ライル殿……!」
ルキウスは震える手で一枚の古い地図と、最新の測量図をテーブルの上に広げた。そこには、信じられない現実が記されていた。
「これを見てください……! 先日、シルヴィア様が『ゴブリン掃討作戦』を遂行された、あの北方の森のエリアです……!」
「おう、見覚えはあるけど……それがどうしたんだよ」
「山が……!! 山が丸ごと一箇所、地図から消滅しているのですっ!!!!」
ルキウスの絶叫に、ライルは「あ……」と間抜けな声を漏らした。
そういえば数日前、シルヴィアが「刃は抜かない!」と言い張って素手の衝撃波でゴブリンの巣ごと山を吹き飛ばし、巨大なクレーター(更地)に変えてしまったことを、ライルはこの瞬間まで完全に忘れていたのだ。
「し、しかも、単に山が吹き飛んだだけならまだしも、そこに流れていた川の流路が変わり、隣接する街道のデータもすべて狂い、王都から送られてきた地籍図と完全な矛盾が生じています……! このままでは測量局の監査が入った瞬間、我が街の行政は致命的な違反で機能停止に追い込まれます……!」
アルベルトはすでに限界を迎えているらしく、ふらふらとよろめきながらポケットから取り出した「特製・超強力胃薬」をボトルごとガバッと飲み込んだ。
「うっ……胃に大穴が……。私はいったいつの間に、地図そのものを書き換えるほどの超大規模テラフォーミング計画の責任者にさせられてしまったんだ……もうおしまいだ……王都に言い訳する言葉が思いつかない……」
二人のあまりの絶望っぷりに、ライルは冷や汗を流しながら頭を抱えた。
(そりゃそうだよな……! 山が一つ丸ごと消えて更地になってるんだから、役所の人間からしたら大パニックだわ……!)
すると、キッチンのほうからお茶のトレイを持ったシルヴィアが、コツコツと上品な足音を響かせながら優雅に歩いてきた。
「おや、アルベルトにルキウスではありませんか。朝早くから、我が君の邸宅にどのようなご用件でしょうか?」
その姿を見るやいなや、アルベルトとルキウスはビクッと体を震わせ、揃って平身低頭した。
「し、シルヴィア殿(団長)……! あの、先日のゴブリン討伐の際、北方の森の地形がですね、その、あまりにも劇的に変わりすぎてしまいまして……行政書類上の辻褄が一切合わなくなっているのですが……!」
アルベルトが恐る恐る訴えると、シルヴィアはふっと優雅な笑みを浮かべ、胸を張ってこう言い放った。
「何を悩んでいるのですか。あの山が消えたのは、我が君の領土を広げ、中央への進撃ルートをスムーズにするための『不可避な国土平坦化計画(軍事作戦)』の一環ですわ」
「計画だったんですか――!? 私たちには一言も聞いていませんが――!?」
「当たり前です。最高機密の作戦行動を、いち行政官に事前通達するなどあり得ません。ですが、結果としてあの周辺の視界は非常に良くなり、敵軍の奇襲を受けるリスクはゼロになりました。感謝こそされ、咎められるいわれはありません」
シルヴィアのあまりにも堂々とした「軍事的正論」に、アルベルトとルキウスはガクッと膝をついた。
「て、敵の奇襲の心配をする前に、我が街の財政と測量局の監査官が発狂します……!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着けって!」
ライルは慌てて二人の間に割って入り、頭をポリポリと掻きながらため息をついた。
「実際のところ、この消えた山とクレーターの言い訳をどうにかしないと、本当に役所がヤバいことになりそうだな……。何かいい隠蔽工作のアイデアはないのかよ?」
ライルがそう問いかけると、アルベルトは青い顔のまま、必死に頭を回転させ始めた。
「い、言い訳ですか……? そうですね、公式には、『数百年ぶりに発生した大規模な地殻変動、および局地的な土砂崩れによる自然災害』として処理するのが最も無難かと……」
「おっ、いいじゃないかそれ。自然災害なら誰も文句は言えまい」
ライルが頷くと、ルキウスも青い顔でペンを走らせ始めた。
「た、確かに……! 『歴史的規模の大地震により、当該の山岳地帯が地中に沈降した』という設定にすれば、測量局の書類もギリギリ辻褄が合わせられるかもしれません……!」
「ふむ。『自然の猛威による地形の消失』ですか」
シルヴィアも腕を組んで頷いた。
「それならば、我が騎士団としても『被災した住民の救助および、二次災害を防ぐための不発弾(※実際にはありません)処理』という名目で出動実績を作ることができますね。完璧な連携です」
「誰も軍事作戦の延長線上に持っていくな!」
ライルが鋭くツッコミを入れたが、もはや一刻を争う事態である。行政の崩壊を防ぐため、ここに「不憫な苦労人主人公」「限界を迎えた胃痛コンビ」「勘違いが激しすぎる最強騎士団長」による、前代未聞の【消えた山・隠蔽工作対策会議】が急遽開催されることになったのだった。
* * *
それから数時間。
リビングのテーブルには、大量の修正液、赤インク、そして書き損じの書類の山が築き上げられていた。
「ここをこう書き換えて、『山岳の陥没に伴う新たな平地の創出』と……よし、これで災害復興の名目で予算が下りるぞ!」
「副団長、よくぞそこを繋ぎ止めましたね……! これで監査官の目を欺けます!(私、監査官なんですけど…、何やってんだ)」
死闘の末、どうにか「山が消えた事件」を大自然の脅威(大地震と地殻変動)として行政書類上にねじ込むことに成功したアルベルトとルキウスは、床にぐったりと倒れ込みながらも、どこか達成感に満ちた(しかし魂の抜けた)笑みを浮かべていた。
「ふう……どうにかこうにか、最悪の破滅だけは免れたな……」
ライルも額の汗を拭いながら、どっと疲労感に襲われてソファに深く沈み込んだ。
そんなボロボロになった男たちを見下ろしながら、シルヴィアはふっと誇らしげに胸を張り、ライルの肩にそっと手を置いた。
「お疲れ様です、我が君。予期せぬ自然災害(※私の気功波です)に見舞われた我が領地でしたが、我が君の卓越した指揮と、部下たちの懸命な隠蔽工作により、事なきを得ましたね」
「お前のせいで起きた災害だろ……とはもう突っ込まないでおくわ……」
ライルは遠い目をしながら、ぐったりとしているアルベルトたちにマグカップの温かいお茶を差し出した。
「お前ら、本当にお疲れ……。今度なんか面倒なことが起きそうになったら、事前に俺に連絡しろよ。山ごと吹き飛ぶ前に止めるからさ」
「は、はい……ライル殿……。生き延びて、本当に……よかった……」
ボロボロの特製胃薬のボトルを握りしめながら、アルベルトとルキウスはフラフラと立ち上がり、無事に(?)隠蔽工作を完了させた書類の束を抱えて帰路についていくのだった。
山が一つ消え、行政の歴史が無理やり書き換えられた一騒動。
しかし、今日も今日とて不憫な苦労人たちの努力と、最強騎士団長の圧倒的なパワー(?)によって、辺境の街の平和(?)は何とか保たれているのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第60話、「王国最強の騎士団長、消えた山の隠蔽工作に頭を悩ます(?)の件」いかがでしたでしょうか!
前々回にシルヴィアがゴブリン討伐ついでに山を一つ吹き飛ばしてしまった事件のツケとして、アルベルトとルキウスの胃痛コンビが絶望しながら隠蔽工作に奔走するドタバタ行政回をお届けしました! 地図から山が消えたことで発狂しかける監査官ルキウスと、特製胃薬を連打する副団長アルベルトの不憫さ、そしてそれを「国土平坦化計画の軍事作戦」と言い張るシルヴィアのマイペースさを楽しんでいただけたなら幸いです。
そして最後には、みんなで必死に書類を書き換えて自然災害扱いにしちゃうシュールな結束力も描かせていただきました!
大騒動を乗り越えた次なる第61話では、どんな波乱が待ち受けているのか……!?
それでは、また次回の第61話でお会いしましょう!




