第6話:王国最強の騎士団長、普通の護衛依頼で古代遺跡を吹き飛ばす
勘違い過保護ラブコメ、第6話をお届けします。
今回はついに「護衛依頼&ダンジョン(遺跡)発掘」という冒険者らしいイベントに挑戦!……なのですが、シルヴィアの手にかかれば、古代遺跡の探索すらも一瞬で超高火力な更地作戦に変貌してしまいます。果たしてライルは無事に目的地にたどり着けるのか!?
それでは、第6話の幕開けです!
「……よし。これなら絶対に、完璧に、心の底から安全だ」
辺境の街の冒険者ギルド。
ライル・フォン・ヴェルナーは、カウンターの端っこで一枚の依頼書を指でなぞりながら、しみじみとそう呟いた。
前回のティーパーティーでは、領主の息子を脅して追い返すという大惨事を引き起こしてしまったため、さすがに今回は「地味で、平和で、誰も傷つけない仕事」をしようと心に誓っていたのだ。
選んだ依頼は『隣町へ向かう商人の馬車への同乗警護』。
難易度はGランク。荷台に揺られて数時間、街道をのんびり進むだけで日銭が稼げるという、冒険者のなかでも最もリスクの低い、文字通りのんびり安全なお仕事である。これなら、戦闘すら起きるはずがない。
「おや、若いのに物分かりがいいねぇ。よろしく頼むよ、冒険者くん」
声をかけてきたのは、ふくよかな体型をした初老の商人・バートンだった。彼は荷物を満載にした馬車の御者台に座り、ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべている。
ライルは「こちらこそよろしくお願いします。お互い、何事もなく平穏に行きましょうね」と、心からの握手を交わした。
――だが、その「平穏」という二文字が、この世界においてどれほど贅沢で、そして儚いものであるかを、ライルはこの時まだ知る由もなかった。
「――お待たせいたしましたライル殿!! 本日も貴方様の命を守るため、全霊を捧げに参りました!」
ガシャァァァン!! と、ギルドの床が抜けるかと思うほどの重厚な金属音が響き渡った。
見れば、いつもの神銀製フルプレートアーマーを完璧に装着し、背中に国家予算級の大剣を背負ったシルヴィアが、隙のない足取りで滑り込んできていた。
「なんで分かったんだよ!! この依頼を受けたのはついさっきだぞ!!」
「我が君の行動を把握することは、我的には朝のルーティンです。それに、ギルドの職員の方々に『本日のライル殿の移動経路を教えてくれないと、この街の地面を縦横無尽にひっくり返しますよ』と愛嬌を込めてお願いしたところ、快く教えてくださいました」
「それ完全に脅迫だろ!! 職員さんを怯えさせるな!!」
ライルが頭を抱えていると、馬車の御者台にいた商人・バートンが、目の前にそびえ立つフルアーマーの鬼神(に見える姿)を目撃し、文字通り心臓が止まりかけたような絶叫をあげた。
ぴぎゃっ!? と情けない声を漏らし、バートンは御者台から転げ落ちるようにして地面に尻もちをついた。
「ひ、ひぃぃ……! 魔王軍の四天王か……!? それとも王国最強の死神騎士団長が、なぜこんな平民の商売馬車に……!?」
「違いますバートンさん! この人は俺の知り合いの……いや、あの、その……」
ライルが冷や汗を流しながら弁解しようとすると、シルヴィアはバートンを一瞥し、神妙な面持ちでうなずいた。
ふむ、とシルヴィアは重い鎧を鳴らして腕を組む。
「なるほど……表向きはただの行商人の馬車に見せかけ、その実、辺境の深部に眠る『古代王国の封印された地下遺跡』へ至るための極秘ルートを隠し持つ、命がけの巡礼の旅というわけですね」
「どこをどう読んだら古代遺跡の巡礼に見えるんだよ!! 隣町へ小麦粉を運びついでにスチュームを届けるだけのただの商業ルートだよ!!」
「ご謙遜を。あの知略に優れたライル殿が、ただの荷物運びなどなさるはずがありません。このシルヴィア、全霊をもって道中の魔物や古代の呪いをすべて断ち切ってみせます!」
(話が通じないどころか、勝手にファンタジーのメインクエストを始めやがった……!)
ライルが頭を抱えている横で、バートンはすっかり白目をむいて気絶しかけていた。「わ、私はもうおしまいだ……こんな物騒な連中を乗せたら、馬車ごとあの世行きだ……」と震える商人に、ライルは「大丈夫です安全運転させますから!」と必死に宥めるしかなかった。
* * *
街を出発し、馬車はなだらかな街道を進んでいた。
道の両側には緑豊かな森が広がり、ポカポカとした陽気が心地よい、まさに絶好のドライブ日和だった。
「ほら見ろシルヴィア。街道の脇にはスズランの花が咲いていて、鳥も鳴いている。どこに古代遺跡があるんだよ。ただの平和な田舎道だろ」
ライルは荷台の隅に腰掛けながら、呆れたようにため息をついた。
しかし、シルヴィアは馬車のすぐ脇をフルアーマーのまま徒歩で並走し、周囲の森の木々を鋭い眼光で睨みつけ続けている。
「……ライル殿、油断は禁物です。この穏やかな森の地下には、かつて世界を滅ぼしたとされる『魔神の迷宮』が眠っている気配が微粒子レベルで感じられます。いつ何時、地面が割れて古代の自動人形が襲いかかってくるか分かりません」
「そんな物騒な設定が最初から仕込まれている街道があるか! ここは王国が毎月整備している安全な公道だぞ!」
しかし、その会話の最中だった。
馬車が、森の脇の小さな「古い洞窟(山肌にぽっかりと開いた、ただの直径2メートルほどの素掘りの横穴)」の横を通り過ぎようとした、その時である。
ガサガサッ――!
洞窟の奥から、低くうなるような野生の鳴き声が響いた。
ひょっこりと顔を出したのは、体長一メートルほどの、緑色の毛並みをした野生の猪(イノシシ系モンスターの『ワイルド・ボア』)だった。お腹を空かせて草を食べに出てきただけの、ただの野生動物である。
――だが、世界最強の騎士団長の目に、それはどう映っていたのか。
「――っ!! 出ましたね、魔神の迷宮の番人め!!」
シルヴィアの緊迫した叫び声が、街道の空気を切り裂いた。
「待てシルヴィア、違う、ただの野生の猪だ! 刺激するな――」
「我が最愛の救世主の命を狙う、地底からの使者よ! その汚らしい牙で我が君を傷つけることなど、天地がひっくり返ろうとも絶対に許しません!! 死ねぇい!!!」
ガシャアアアアン!! と、世界が揺れた。
シルヴィアが放った渾身の剣撃は、ワイルド・ボアの姿を捉えた……どころの騒ぎではなかった。彼女が振るった大剣の圧倒的な剣圧は、標的の猪を分子レベルで消し飛ばしただけでは収まらなかったのである。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
凄まじい衝撃波が街道の地表をえぐり取り、山肌に開いていたその「小さな洞窟」を起点として、山そのものの半分を綺麗に吹き飛ばした。
かつてそこに何があったのかすら分からない、深さ数百メートルの巨大な更地が瞬く間に誕生し、周囲の森の木々は一葉たりとも残らず宇宙の塵と消えた。
「…………」
ライルは、自分の乗っていた馬車の荷台で、完全に固まっていた。
風がビューと吹き抜け、もうもうと舞い上がっていた砂煙がゆっくりと晴れていく。目の前には、さっきまで穏やかな森があったはずの場所に、ポッカリと巨大な大穴が口を開けていた。
「ふぅ……」
シルヴィアは、大剣を地面に突き立て、荒い息を整えながら振り返った。
そのバイザーの奥の瞳は、大仕事をやり遂げた誇らしさと、愛しい人を守り抜いた安堵感で満ちあふれている。
「いかがでしたでしょうかライル殿! 隠された魔神の迷宮の入り口ごと、番人を一刀両断いたしました!」
「迷宮じゃねぇよ!! ただの山肌の横穴だろ!! ていうか、山が半分消滅したぞおい!! 紀元前の大災害かよ!!」
ライルが絶叫していると、その吹き飛んだ山肌の崩落跡から、何やらキラキラと眩しい光を放つ「大量の金属製の箱や、山積みの宝石、見たこともない古代の金貨の山」がゴロゴロと転がり出てきた。
――そう、そこは本当に、偶然にも数百年前に封印されたまま忘れ去られていた、本物の「古代王国の隠し財宝庫(未踏の遺跡)」だったのだ。シルヴィアの放った過剰防衛の極みのような一撃が、皮肉にも数百年ぶりの発掘作業を完璧に完了させてしまったのである。
「おや……? 瓦礫の下から、何やら古代のアーティファクトの山が発掘されましたね。流石はライル殿、ただの移動のついでに、一瞬で伝説の秘宝を見つけ出されるとは……その神がかった慧眼、恐れ入ります!」
「俺は何もしてない! 俺はただ隣町に行きたかっただけなんだよ!! なんで俺の護衛依頼が、一瞬で国家予算レベルのトレジャーハントになってるんだよ!!」
ライルが頭を抱えて地面にひっくり返っている頃、御者台から転げ落ちて気絶していた商人・バートンが、かすかに目を覚ました。
彼は目の前に広がる「山が消滅した跡地」と「そこに山積みになった古代の金銀財宝」を交互に見つめ、信じられないものを見るような目をすると、そのまま再びガクッと白目をむいて完全に意識を手放した。
遠くの街の方向から、「おい、またあの銀のバケモノが山を一個消し飛ばしたぞ……」「今度は何だ、古代遺跡の宝箱が空から降ってきたぞ……!?」という恐怖と混乱のざわざわ声が風に乗って聞こえてくる。
夕日を背に、山が消えたクレーターの真ん中で、不憫な次男の絶叫は誰にも届くことなく、はるか上空へと吸い込まれていくのだった。
後書き
最後までお読みいただきありがとうございます!
第6話、「普通の商人護衛が古代遺跡を破壊する回」いかがでしたでしょうか。
「安全な仕事を選んだはずが、シルヴィアの手にかかれば山ごと消し飛んで伝説の秘宝が発掘される」という、大迷惑な大スペクタクル回をお届けしました!
ライルの平穏なスローライフはどこへ向かうのか。次回も、予測不能な勘違いとドタバタが巻き起こります!
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