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第5話:王国最強の騎士団長は、お茶会を地獄へと変えてしまう

勘違い過保護ラブコメ、第5話をお届けします。

今回はついに「社交界(お茶会)」が舞台! 貴族の優雅なティーパーティーのはずが、王国最強の騎士団長が参戦したことで、世界で一番デスマーチな空間に変貌してしまいます。果てしてライルは無事にお茶を飲めるのか!?

それでは、第5話の幕開けです!

「……なんで俺が、こんなお洒落なドレスコードの会場にいるんだ……」

辺境の街の迎賓館。

その広々としたテラス庭園で、ライル・フォン・ヴェルナーは頭を抱えながら、手元のカップに入った紅茶をカチャカチャと音を立てて揺らしていた。

理由は単純、街の領主から「一般冒険者枠として、ちょっと顔を出してくれ」と半ば強制的に招待されたからだ。たまには優雅に紅茶でも飲んで、貴族らしい穏やかな時間を過ごすのも悪くない――そう思ったのがすべての間違いだった。

「――ふぅ。周囲の視線、完全に釘付けだな」

ライルが冷や汗を流しながら周囲を見ると、テラスに集まっている地元の貴族や名士たちは、誰一人としてライルに近づこうとしない。いや、近づけないのだ。

なぜなら、ライルのすぐ背後には、神銀ミスリル製のフルプレートアーマーを完璧に装着し、国家予算級の大剣を地面に突き立てたまま仁王立ちしている王国最強の騎士団長・シルヴィアが控えているからである。

「シルヴィア、頼むから鎧を脱いでくれ。ここは公式の茶話会だぞ。お茶を飲む場所で戦争に行く格好をする奴がいるか」

「何を仰いますかライル殿! 貴族の社交界と見せかけ、その実、甘いお菓子に毒を仕込んだり、優雅な笑みの裏で暗殺を企てたりする者どもが巣食う『最凶の謀略地獄』です。私のこの重装甲こそが、貴方様の命を守る唯一の城壁となります!」

「誰もそんな物騒な企みをしてないよ!! みんな普通にケーキを食べて歓談してるだろ!」

ライルが声を潜めて抗議するが、シルヴィアはびくともしない。彼女のバイザーの奥の瞳は、テラスにいる他の貴族たちを「いつ牙を剥くか分からない毒蛇」でも見るような冷徹な眼光で睨みつけていた。その殺気のせいで、半径五メートル以内の空気は完全に凍りついている。

そんな異様な雰囲気に包まれたテラスの端で、一人の男がワイングラスを片手に震えながらこちらに近づいてきた。

地元の有力貴族の息子である、エドワードという若者だった。彼は普段からプライドが高く、見知らぬ一般冒険者風情のライルが最強の騎士団長を侍らせているのが面白くなくて仕方がなかったのだ。

「ふ、ふん……。あそこの見慣れない平民崩れの男は一体誰だ? なぜあのような恐ろしい武神シルヴィアを連れている……?」

エドワードは周囲の静止を振り切り、冷や汗をダラダラと流しながらも、意を決してライルの目の前まで歩み寄ってきた。

「おい、そこの君。ここは我が父が主催する高貴なティーパーティーだ。そのような不審な重装備の者を連れ込み、あまつさえ席を占拠するなど、どのようなつもりかね?」

エドワードが精一杯の威圧感を込めて声をかけると、ライルは「あ、やばい、変なのが絡んできた……!」と内心で頭を抱えた。ライルとしては「いや、俺も好きで連れてるわけじゃなくてですね」と平謝りするつもりだったが――。

その瞬間、世界の色が変わった。

ゴゴゴゴゴゴ……!!

「……今、貴様は何と言った?」

シルヴィアの低く這うような声が、テラス全体の音をすべてかき消した。

彼女の全身から噴き出した莫大な闘気は、テーブルの上のティーカップをガタガタと震わせ、色とりどりの花壇の薔薇を根こそぎ散らした。

「ひっ……!?」

エドワードは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受け、その場で文字通り数歩後ろへとひっくり返りそうになった。

「我が最愛の救世主であり、この世界の理そのものであるライル殿に向かって……その汚い足音を立て、さらに不遜な言葉を投げかけるとは。……貴様、一体どの家のどこのボンボンだ。今すぐその一族の歴史ごと、この大地から消し去ってやろうか」

「で、団長……? 冗談ですよね……? 私はただ、その、社交界の礼儀を――」

「礼儀だと? 我が君に礼儀を説くなど、百万年早い。消え失せろ、不審者め」

ガシャリ、とシルヴィアが国家予算級の大剣に手をかけた瞬間、エドワードの脳内で「このままでは死ぬ」という純粋な本能が警報を鳴らし響かせた。

「ひぃぃぃぃーーっ!! すみませんでしたぁぁぁ!!!」

エドワードは貴族としてのプライドも威厳もすべてかなぐり捨て、床に這いつくばるようにして逃げ出し、そのまま迎賓館の奥へと消えていった。一瞬で戦闘が終了した。

「…………」

ライルは、冷めた紅茶の入ったカップをゆっくりと置き、自分のこめかみを指で押さえた。

「なぁ、シルヴィア……」

「はい、ライル殿! 虫けらのように無礼な男でしたが、私の威圧により一秒で排除いたしました。ご安心ください、お茶の続きをどうぞ!」

「お茶どころの騒ぎじゃないわ!! 主催者の息子を脅して追い出したら、このパーティーそのものが大惨事になるだろ!! ていうか、誰も俺たちに近づけなくなっただろ!! 見ろ、全員柱の陰からガタガタ震えながらこっち見てるぞ!!」

見渡せば、テラスにいた他の貴族たちや令嬢たちは、全員が壁際や柱の影に隠れ、青白い顔でこちらを怯えた目で見つめていた。誰一人として、ティーパーティーを楽しむ余裕など残っていない。

「ふっ、流石はライル殿の威光ですな。誰もが貴方様の圧倒的な気品と高貴さに気圧され、みだりに近づくことすら恐れている……。まさに、王国の中心にふさわしい孤高の君主のお姿です!」

「違うわ!! お前が発する殺気が原因だよ!! 俺はただ普通の紅茶を飲みたかっただけなのに、なんで俺の周囲だけ独裁政権みたいな治安になってるんだよ!!」

ライルが頭を抱えて絶叫する中、遠くの窓から、領主(エドワードの父親)が冷や汗を流しながら「あ、あの不憫な次男様には、今後一切のお茶会のご案内を出すな……国が滅びる……」と白目をむいて部下に言い渡しているのが聞こえる気がした。

夕暮れの迎賓館のテラス。

優雅なティーパーティーの夢は跡形もなく消え去り、ライルの胃痛だけがいつまでも激しく脈打ち続けるのであった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第5話、「王国最強の騎士団長は、お茶会を地獄へと変えてしまう」いかがでしたでしょうか。

タイトルや舞台を変えても、シルヴィアの過保護と恐怖の殺気は一切ブレないという安定のデスマーチ回となりました!

ライルの平穏なスローライフは遠くへ去っていく一方ですが、果たして彼の胃袋の運命やいかに。

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