第56話:すべての元凶はあの日の乾パン!? 騎士団長に爆誕した「神聖救世主伝説」の件
勘違い過保護ラブコメ、第56話をお届けします!
今回は、すべての物語の始まりにして最大の元凶である「あの日の路地裏の出会い」がついにガッツリ明かされる過去編です!
シルヴィアの脳内美化フィルターが全開で炸裂する「神聖救世主伝説」と、それを聞いたライルが「ただの雑な厄介払いだったんだけど!!」と盛大に絶叫する、笑いとツッコミの二重構造をお楽しみください!
それでは、第56話の幕開けです!
辺境の街(黄金の要塞都市と化した街)にあるライルの自宅。
窓から差し込む穏やかな陽光の中で、ライル・フォン・ヴェルナーは、なぜか目の前で正座しているシルヴィアからじっと見つめられていた。
「どうしたんだよ、そんな真剣な顔をして……。さっきからじっと俺の顔ばかり見てさ」
ライルが少し居心地の悪そうに首を傾げると、シルヴィアはふっと遠い目をし、まるで聖典の一節でも語るかのような厳粛なトーンで口を開いた。
「いいえ、ライル殿。ふと、あの日のことを思い出していたのです……私たちが初めて巡り会い、私の魂が永遠の救済を得た、あの運命の日のことを」
その言葉を聞いた瞬間、ライルの背筋に、ピリリと冷たい悪寒が走った。
「……あの日って、まさか」
「はい。王都の雨の路地裏……あの時ですわ」
――時は数年前に遡る。
場所は、権力闘争と暗殺者の影がうごめく王都の片隅。夜の冷たい雨が打ち付ける薄暗い路地裏で、少女時代のシルヴィアは文字通り絶望の底に沈んでいた。
身にまとっていた貴族としての華美なドレスは敵の刃で切り裂かれ、全身いたるところから血が流れている。追っ手である冷酷な暗殺者たちの足音が、すぐ背後まで迫っていた。
(……ここまでか……。私を支えてくれた者たちのためにも、ここで倒れるわけにはいかないのに……!)
視界がグラリと揺れ、シルヴィアはその場で力なく崩れ落ちた。冷たい水たまりに顔をつけ、意識が遠のいていく。あぁ、闇がすべてを飲み込んでいく――。
「もう終わりだ」と、彼女の人生の幕が閉じかけた、その時だった。
ザッ、ザッ……と、冷たい雨音を切り裂いて、一人の少年の足音が近づいてきた。
シルヴィアがかすかに濡れたまつ毛を持ち上げ、ぼやける視界の先を凝視すると、そこに立っていたのは――一切の怯えも焦りも感じさせない、あまりにも気高く、凛とした少年の姿だった。
当時のライルである。
(なっ……この状況で、なぜあの少年は怯えない……? 恐ろしいほどの泰然自若……! まさに、闇を切り裂く聖人の降臨ではありませんか……!)
シルヴィアの脳内フィルターは、すでにこのコンマ数秒の出会いで最高出力の補正を開始していた。
ボロボロの少女を見下ろしたライルは、面倒くさそうに深いため息をつき、ポケットに手を突っ込んだ。そして、そこから取り出した「銀の包みに入った神秘の糧食」と「聖別の液体が入った小瓶」を、シルヴィアの足元へとポトリと投げ捨てた。
ライルが冷たく、しかし慈愛に満ちた瞳で言い放った。
「――これ食って、早く失せろ」
ドンッ!! と、シルヴィアの脳内で雷鳴が轟いた。
『これ食って、早く失せろ』――その言葉は、シルヴィアの耳にはこう響いていた。
『我が愛しい迷える子羊よ。これ以上、冷たい雨に打たれて傷ついてはならない。この神聖な糧食で命をつなぎ、一刻も早く安全な場所へ去って、生き延びるのだ……!』
「――あぁ……!」
少女時代のシルヴィアは、その圧倒的な慈悲と高潔なる眼差しに魂を撃ち抜かれ、そのままガクリと気絶したのだった。
――回想終了。
現在の自室。
「いや、ただの乾燥したパンだし!!」
ライルは頭を抱え、ベッドの上から床に転げ落ちそうな勢いで絶叫した。
「乾燥したパンって何ですか、我が君! あれは私の命を救った奇跡の神秘糧食であり、過酷な荒野を生き抜くための聖なる糧です!」
「ただのパサパサの乾パンだよ!! 賞味期限すれすれのやつをポケットから取り出してやっただけだわ!」
「ご謙遜を! しかも、あの時あなたが私に授けてくださった『聖別の液体』……そこらの薬屋で買った安物の傷薬などと言い張っていらっしゃいますが、塗った瞬間に私の肉体の傷が光の粒子となって癒やされていったあの奇跡を、私は一生忘れません!」
「気力と自己治癒力で勝手に治っただけだろ!! 安物の傷薬で光の粒子が出るか!! お前の脳内ビジュアルはどうなってんだよ!!」
ライルは自分のこめかみをガシガシと掻きむしり、あまりの事実のねじ曲げられ方に眩暈を覚えた。
自分が過去にやったことといえば、ただ「路地裏で血を流している面倒くさそうな女がいたから、早く消えてほしくてポケットの余り物を投げつけて逃げた」という、100%の雑な厄介払いである。美談のびの字もない。むしろただの冷酷な不法投棄に近い。
なのに、なぜそれが「暗黒帝国の神聖救世主伝説」にまで昇華されてしまったのか。ライルには理解の範疇を超えていた。
「しかし……あの日の出会いがあったからこそ、今の私があります」
シルヴィアはふっと遠い目をし、当時を思い出すように胸元をそっと押さえた。
彼女の表情は、ギャグを抜きにして、本気でライルへの深い感謝と圧倒的な忠誠心に満ちあふれていた。
「あの時、私を救ってくださった『世界で一番か細く、ガラス細工のように繊細な救世主様』が、きっとどこかでひっそりと、か弱く暮らしているに違いない……。そう確信した私は、その日から誓いました」
「誓ったって何をだよ……」ライルが青ざめながら呟く。
「『私がこの世のすべての敵からあの人を守り抜く最強の盾になる。そのためには、中途半端な力ではダメだ、王国で一番強くなければならない……!』と。そこから、私の修羅の道が始まったのです」
「お前のその勘違いが原因で、王国最強の鬼神が誕生したってのか……!?」
ライルは自分の過去の行動が引き起こした「歴史のバグ」の大きさに、思わず本気で気絶しかかけた。
あの時、もし乾パンを投げずにそのままスルーしていれば、王国最強の騎士団長が誕生することもなければ、自分の平穏がここまで徹底的に粉砕されることもなかったのでは……?
そう気づいてしまった瞬間、ライルの脳裏を言い知れない後悔と絶望の波が押し寄せた。
「我が君?」
シルヴィアが首をかしげ、心配そうにのぞき込んでくる。
「……いや、なんでもない……。俺が過去に犯した最大の過ち(自業自得)について、深く反省していたところだ……」
ライルが床に突っ伏して青白い顔で呟くと、シルヴィアは「おや、ご自身の優しさをそんな風に謙遜なさるなんて……やはり我が君は慈悲深いですわ!」と、勝手に感動の涙を浮かべ始めた。
すべての元凶は、あの日の乾パン。
そして、その盛大な勘違いを原動力に、王国最強の騎士団長まで登り詰めてしまった少女の執念は、今日も今日とてライルの不憫なツッコミスキルを限界突破させ続けるのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第56話、「すべての元凶はあの日の乾パン!? 騎士団長に爆誕した『神聖救世主伝説』の件」いかがでしたでしょうか!
ついに明かされた、第1話の裏側にある「路地裏の出会いの真実(※ライル視点:ただの雑な厄介払い、シルヴィア視点:全宇宙の神による神聖な救済)」をお届けしました! ライルが自分の過去の行動を心の底から後悔する姿や、シルヴィアのガチすぎる勘違いの原点を楽しんでいただけたなら幸いです。
すべての元凶を知ってしまったライルの運命やいかに……!?
「雑な厄介払いが最強の騎士団長を生み出してて腹筋崩壊した」「ライルが本気で後悔してるの面白すぎる」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第57話でお会いしましょう!




