第55話:王国最強の騎士団長、黄金の要塞都市への帰還を盛大に祝いたがる
勘違い過保護ラブコメ、第55話をお届けします!
実家での数日間にわたる大騒動(ライルの父の遺書、母のお煎餅、黒歴史ノート朗読、そして満天の星空の下での純愛告白)を何とか乗り切り、ついにライルとシルヴィアが自分たちの拠点である「黄金の要塞都市」へと帰還します!
帰って早々、住民たちのウェルカムバックが斜め上の方向へ大爆発!? そして、静かになった自宅で訪れる、少しだけ甘酸っぱい二人きりのティータイムをお楽しみください!
それでは、第55話の幕開けです!
「……ふぅ。やっと、やっとあの魔王軍の迎賓館みたいな実家から抜け出して、この辺境の街に戻ってきたぞ……!」
ヴェルナー伯爵家での激動の日々を終え、馬車に揺られて数日。ライル・フォン・ヴェルナーは、見慣れた辺境の街の巨大な城壁を見上げながら、心底から安息の深呼吸を吐き出していた。
実家では父が命がけの同盟を結ばされ、母がお煎餅を振る舞い、挙句の果てには思春期の頃の黒歴史ノートを大朗読されるという、人生のHPを総削りされるようなイベントの連続だった。もうあんなスリリングな実家には当分帰りたくない。やっぱり、自分にはこの、一見すると普通の(※中身は要塞都市と化した)辺境の街こそが落ち着くのだ――ライルは本気でそう信じていた。
――だが、その希望は、街の門をくぐった瞬間に粉々に粉砕されることとなる。
「――お帰りなさいませ、我が君っ!!!!」
パーンッ!! パーンッ!! と、青空に向かって黄金のテープと色鮮やかな特製クラッカーが一斉に弾け飛んだ。
「なっ……!?」
ライルがビクッと肩を跳ね上げると、目の前に広がっていたのは、いつもののどかな辺境の街の風景ではなかった。
街の入り口から大通りにかけて、見事なまでに真っ赤なレッドカーペットが敷き詰められ、その両脇には「祝・暗黒帝国第一州都・皇帝陛下ご帰還!!」と書かれたドデカい黄金の横断幕が風に揺れている。
さらに、街の住民たち、そして昨日まで一般市民のフリをして街のパトロールをしていた元暗殺者たちが、全員一糸乱れぬ直立不動の姿勢で待ち構えていた。
「おお……! 我が君が、数日間のご不在という名の極秘国外視察を終え、ついに我が帝国の中枢へお戻りになられたぞ――っ!」
リーダー格の元暗殺者が感涙にむせびながら叫ぶと、周囲の住民たちも一斉に「万歳――っ!! 皇帝陛下万歳――っ!!」と歓声を上げ、次々に地面に額をつけてひれ伏し始めた。
「ちょっと待てぇぇぇっ!!」
ライルは馬車の御者台から飛び降りる勢いで前に出ると、両手をブンブンと振り回して絶叫した。
「ただいま帰って早々、なんで魔王軍の凱旋パレードみたいな大歓迎を受けてるんだよ!! 俺たちはただ実家に里帰りして、普通に親孝行(?)をして帰ってきただけだぞ! なんで勝手に暗黒帝国の第一州都になってるんだ!」
ライルが必死に抗議するが、住民たちはそれを「皇帝陛下の謙虚なご謙遜、あぁ、なんて慈悲深いお言葉……!」と勝手に脳内変換し、さらに盛大に拍手喝采を送り続ける。
その先頭で、いつもの神銀ミスリル製フルプレートアーマーの上に、なぜか「凱旋記念の特製サッシュ(たすき)」を誇らしげに斜めがけしたシルヴィアが、眩いばかりのドヤ顔で胸を張っていた。
「お見事です、我が君! ご不在の間、配下たちが完璧にこの要塞都市の防衛と経済を維持いたしましたが、やはり我が君がこの地にお戻りになられたことで、帝国の覇気は完全に最高潮に達しましたわ!」
「お前のその気合の入ったたすきはどこから調達してきたんだよ!! ていうか、いつの間に俺は帝国を我が物にする覇王になったんだ!」
ライルが頭をかきむしりながら絶叫している横で、住民たちは「さあ、宮殿(ご自宅)へお戻りください!」と、黄金に輝く人力車を用意して待ち構えている。
「人力車には絶対に乗らんからな!! 自分の足で歩いて帰るわ!!」
不憫な次男の絶叫と、住民たちの熱狂的な歓声に包まれながら、ライルはトボトボと自分の家へ向けて歩き出すのだった。
* * *
それから数時間後。
盛大な歓迎パレード(実質的な強制連行)をどうにか振り切り、ようやく静寂を取り戻した自宅のリビング。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……。なんで家に帰るだけなのに、命懸けの凱旋行進をくぐり抜けなきゃいけないんだ……」
ライルはぐったりとソファに崩れ込み、ぐったりと息を吐き出していた。
だが、そのリビングの空気は、先ほどまでの外の喧騒が嘘のように、驚くほど静かで、そしてどこか温かかった。
先日での「満天の夜空の下での素直な告白」を経て、二人の間にある空気感は、以前の「過保護な暴走と絶叫ツッコミ」だけの日々とは、ほんの少しだけ、しかし確実に変化していた。
ガチャリ、と音がして、リビングのドアが開いた。
そこに現れたのは、フルプレートアーマーの兜を脱ぎ、サラサラの銀髪をふわりと揺らしたシルヴィアだった。彼女は両手で、湯気の立つ温かいお茶の入ったマグカップを丁寧に持ち、トレイに乗せて歩いてきた。
「……我が君。実家の旅、そして先ほどの盛大な凱旋パレードの対応、本当にお疲れ様でした」
シルヴィアはトレイをそっとテーブルの上に置き、ライルの向かい側の席に腰掛けた。
その紫紺の瞳は、いつも戦場で向けるような冷徹なものではなく、どこか気恥ずかしそうに、しかし底抜けに優しくライルを見つめている。
「あ、ああ……ありがとうな、シルヴィア」
ライルは照れくさそうに視線をそらしながら、差し出されたマグカップの両手をそっと包み込むようにして受け取った。
カップから立ち上る香ばしい湯気が、二人の間の少しだけ気恥ずかしい空間を柔らかく包み込んでいく。
リビングには、窓の外から聞こえる風の音と、お茶をすする小さな音だけが響いていた。
(……なんだこれ。いつもなら、このあとすぐに変な勘違いをして大地を消し飛ばしたり、謎の軍事演習を始めたりするはずなのに……なんで今、こんなに落ち着いて、普通の恋人同士みたいなティータイムを楽しんでるんだ……?)
ライルが心の中でぼんやりとそんなことを考えていると、向かい側に座っていたシルヴィアが、ふっと柔らかく微笑んだ。
「……あの、ライル」
「ん? どうしたんだよ、急に名前なんか呼んで」
普段は「我が君」としか呼ばれないため、ふいに名前を呼ばれたライルはビクッと肩を跳ね上げた。
シルヴィアは少しだけ頬を赤らめ、しかしまっすぐにライルの目を見つめて言った。
「その……実家に帰る前も、そして帰ってきてからも……あなたとこうして一緒に過ごす時間が、私にとって何よりもかけがえのないものなのだと、最近すごく実感するのです」
「っ……!」
不意打ちの直球すぎる言葉に、ライルは口に含んだお茶を少しだけ咽せそうになり、慌ててマグカップをテーブルに置いた。
顔の温度が一気に跳ね上がり、耳のあたりまでカッと熱くなるのが自分でも分かった。
「なっ……急にそんな恥ずかしいこと言うなよ……! お前、そういうところは本当に容赦ないんだからな……!」
ライルが顔を真っ赤に染めながらそっぽを向くと、シルヴィアは嬉しそうにふっと目を細め、少しだけイタズラっぽく微笑んだ。
「ふふっ。いつもは我が君の鋭いツッコミに圧倒されてばかりの私ですが、たまにはこうして、あなたの心を揺さぶってみるのも悪くありませんね」
「くっ……調子に乗りやがって……!」
口ではそう言いながらも、ライルの表情に怒気は一切なく、むしろその胸の奥は、心地よい甘酸っぱさと温かい幸福感で満たされていた。
外では住民たちが勝手に「暗黒帝国」の首都化を進め、相変わらずカオスな日常が待ち受けているかもしれない。だが、この小さなリビングの空間だけは、二人のための穏やかで確かな時間が流れていた。
――最強の騎士団長と、不憫な苦労人次男の甘酸っぱい日常は、今日も今日とて、少しずつ、しかし確実に愛の形を深めていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第55話、「帰ってきた暗黒帝国! 黄金の要塞都市と、胃薬を手にした男たちの件(※実際は甘いおうち時間)」いかがでしたでしょうか!
実家編を終えて、あの「黄金の要塞都市」へと帰還したライルたち。待ち構えていた住民たちの過剰すぎる「凱旋パレード(魔王軍の帰還仕様)」によるお馴染みの爆笑オープニングから一転、後半は第54話の告白の余韻を大切にした、二人きりの甘酸っぱいティータイム(おうち時間)をお届けしました!
ツッコミつつも顔を真っ赤にして照れるライルと、少しずつ素直に愛情を表現するシルヴィアの空気感を楽しんでいただけたなら幸いです。
次なる第56話ではどんなドタバタとキュンが待ち受けているのか……!?
それでは、また次回の第56話でお会いしましょう!




