第54話:満天の夜空の下で。騎士団長が零した、初めての素直な乙女心の件
勘違いラブコメ、ついに実家編のフィナーレを迎える第54話をお届けします!
前回の第53話では、子供時代の恥ずかしいアルバムや落書きをめぐり、ライルが悶絶しつつもシルヴィアとの距離がグッと縮まる様子を描きました。そして迎えた第54話は、実家編のクライマックス! 両親の容赦ない冷やかしから逃れた先で待っていた、満天の夜空の下での「しっとり甘い告白タイム」です。笑いと感動、そして最高潮のキュンをお届けします!
それでは、実家編最終話のスタートです!
ヴェルナー伯爵家のダイニングルーム。
夕食の席に並んだのは、昨日のような謎の危険魔獣料理ではなく、母・ソフィーが作ったごく普通の、しかし温かい家庭料理の数々だった。
「いやぁ、こうして家族みんなで食卓を囲むのも賑やかでいいねぇ。それに、ライルとシルヴィアさんの仲もすっかり縮まったようで、お父さんは嬉しいよ」
父・エルンストがワイングラスを傾けながら、ニヤニヤと隠しきれない笑みを浮かべてそう言った。
その言葉に、食事をしていたライルとシルヴィアの動きがピタリと止まった。
「なっ……! 父さん、何を急に……!」
ライルが慌てて顔を真っ赤にして否定しようとすると、母のソフィーもクスリと上品に笑いながらそれに乗っかった。
「本当だよ、ライル。さっきも子供部屋で二人っきりで昔のアルバムを見てキャッキャしてたって聞いたしねぇ。こりゃあ、王都に戻る頃には正式な婚姻届の準備を急いだほうがいいかもしれないねぇ」
「「お、お母様(母さん)それは誤解です――っ!!」」
ライルとシルヴィアの息の合った絶叫が、ダイニングに響き渡った。
シルヴィアは顔を茹でダコのように真っ赤にし、全身のフルプレートアーマーをガチャガチャと鳴らしながら、慌てて手をブンブンと横に振った。
「ち、違いますわお義母様! 私たちはあくまで帝国の戦略的一体化と親善交流を――その、確かに我が君の幼少期の御姿は大変愛らしく、私の胸を激しく打つものではありましたが、決して個人的な感情でキャッキャしていたわけでは……っ!」
「弁解すればするほど怪しくなってるんだよ! 余計なこと言わないでくれ!!」
ライルが頭を抱えてツッコミを入れるが、両親のニヤニヤした生暖かい視線は一向に収まる気配がない。
「はいはい、照れ隠しはそれくらいにして、若い二人なのだから、食後は庭の空でも吸いに行ってきなさいな」
ソフィーのその絶妙なアシスト(あるいは確信犯的な冷やかし)により、これ以上の耐性が持たないと悟ったライルは、「もう限界だ……ちょっと頭を冷やしに行ってくる……!」と、逃げるように席を立ち、勝手口から夜の庭へと飛び出した。
――夜風が、心地よかった。
ヴェルナー家の庭の縁側に腰掛け、ライルはふぅと大きく息を吐き出した。
賑やかなリビングの窓から漏れる光を背に受けながら、夜空を見上げると、満天の星々が美しく瞬いていた。あんなに騒がしかった実家での日々も、今となっては、なんだか少しだけ落ち着くような、不思議な気恥ずかしさが胸に残る。
「……おや、我が君。こんなところで夜風に当たっておられるのですか?」
静かな足音とともに、暗がりから影が滑り込むように現れた。
見上げると、そこには兜を外し、長い銀髪を夜風に揺らしたシルヴィアの姿があった。いつもの厳格な騎士団長の顔ではなく、どこか柔らかく、月明かりに照らされた彼女の横顔は息を呑むほど美しかった。
「シルヴィアか……。中があまりにも暑苦しかったからさ、ちょっと冷やしにきた」
ライルが苦笑しながら隣のスペースを空けると、シルヴィアは少しだけ恐縮したように、しかし嬉しそうにその隣にちょこんと腰掛けた。フルプレートアーマーの金属音が、夜の静寂に小さく響く。
「……両親殿の冷やかし、申し訳ありませんでした。私があまりにも動揺してしまったばかりに、余計なご迷惑を……」
「いや……別に、お前が両親の言葉にそこまで焦る必要もないだろ。……まあ、俺も少し頭が真っ白になったけどさ」
ライルが照れくさそうに頭をポリポリとかくと、シルヴィアはふっと目を伏せ、小さく首を横に振った。
「……ですが、あながち嘘というわけでも、ありませんわ」
「――え?」
ライルが思わず声を漏らすと、シルヴィアはゆっくりと顔を上げ、潤んだ真剣な瞳でライルをまっすぐに見つめた。その頬は、夜の闇の中でもハッキリとわかるほど赤く染まっていた。
「私はこれまで、ローゼンブルク家の令嬢として、そして王国最強の騎士団長として、自分の感情や個人の願いを押し殺して生きるのが当然だと思っていました。私に許された道は、剣を振るい、国を守り、強者として孤高に生きることだけだと……」
シルヴィアは自分の胸元にそっと手を当て、震える声で言葉を紡いだ。
「ですが、このヴェルナー家に来て、あなたの育った環境に触れました。あなたが私に向けてくれる呆れ混じりの優しい言葉も、私が作った無茶苦茶な料理を嫌がりながらも食べてくれたことも、そして、あなたの子供時代のアルバムに映る無邪気な笑顔も……すべてが、私の凍りついていた心を少しずつ溶かしていったのです」
夜風が、二人の間の髪を優しく揺らした。
シルヴィアはまっすぐにライルの目を見据え、一言一言を噛み締めるように、はっきりと告げた。
「――私、本当は、『暗黒帝国』の野望のためでも、最高司令官としての義務でもありません。ただ一人の女性として、あなたに恋い焦がれ、あなたのお隣にずっと寄り添いたい……それが、私の偽らざる、人生で初めての個人的な願いですわ、ライル」
初めて「我が君」ではなく、「ライル」と名前を呼ばれた。
そのあまりにも直球で、あまりにもピュアな乙女の告白に、ライルの心臓は今までにないほどの爆発的な音を立てて跳ね上がった。
顔の熱が限界突破し、脳の思考回路が完全にショートする。
「っ……な……お前……急にそんな真っ直ぐなこと言うなよ……反則だろ、そんなの……」
ライルが真っ赤になりながら両手で顔を覆い、たじろぐと、シルヴィアは少しだけイタズラっぽく、そして愛おしそうにふっと微笑んだ。
「ふふっ。いつもは我が君を翻弄しているつもりでしたが、少しは驚かせることができましたか?」
「驚くなんてもんじゃない……心臓が持たないわ……」
トホホと呟くライルの肩に、シルヴィアはそっと自分の頭を預けた。
フルプレートアーマーの硬さの向こう側に、彼女の確かな体温と、トクトクと高鳴る早鐘のような心音がしっかりと伝わってくる。
満天の星空の下、静まり返ったヴェルナー家の縁側。
勘違いと暴走から始まった波乱万丈の実家編は、こうして、世界で一番甘酸っぱくて純愛な「本当の恋人同士の時間」へと姿を変え、最高に美しく幕を閉じるのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第54話、「満天の星空の下で。騎士団長が零した、初めての素直な乙女心の件」いかがでしたでしょうか!
ついに実家編の最終話となった今回、両親の容赦ない冷やかしを経て、夜の縁側でシルヴィアが「暗黒帝国」という建前を捨てて初めて素直な恋心を告白するという、最高に胸キュンな純愛クライマックスをお届けしました! ギャグからスタートした実家編が、ここまで甘酸っぱいラブコメに着地できたこと、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、また次回の第55話(王都編開幕)でお会いしましょう!




