第53話:黒歴史と子供時代の思い出! シルヴィア、夫のルーツを徹底解剖(?)してしまう件
勘違いラブコメ、第53話をお届けします!
前回の第52話では、地方の大都市の市場を舞台に、フルプレートアーマー姿のシルヴィアとライルが初めての「買い出しデート」を経験し、お互いの距離をぐっと縮めましたよね。そして迎えた第53話は、いよいよ室内に舞台を移した「子供時代の部屋の片付け・思い出共有回」です! 封印したはずの黒歴史アルバムをめぐり、ライルが羞恥心で悶絶し、シルヴィアが圧倒的な母性と愛おしさを爆発させる、ニヤニヤ必至のキュン展開をお楽しみください!
それでは、第53話のスタートです!
大都市の市場での買い出しを無事に終え、ヴェルナー伯爵家に戻ってきた二人。
リビングで買ったばかりの食材を片付けたあと、シルヴィアはピカピカの神銀ミスリルの手甲をパンと叩き、急に真剣な表情でライルに向き直った。
「我が君。先ほどの市場調査は完璧に完了いたしましたが……妻としての務めはそれだけではありません」
「……ん? まだ何かあるのか?」
「はい! 夫であるあなたのルーツ、すなわちあなたが生まれ育った『子供時代の自室』を整頓し、あなたのこれまでの軌跡を私の心に深く刻み込むことこそ、真の妻へのステップですわ!」
(俺の子供部屋を整頓だと……!?)
ライルの脳裏に、かつて自室の奥深くに隠した「絶対に他人に見せてはいけない恥ずかしい私物や、思春期の痛々しい落書きノート」の存在が鮮明によぎった。それは精神的な死を意味する。
「ま、待て! 俺の部屋は別にそのままで――」
「ふっ、遠慮は無用ですわ! さあ、いざ尋方に――子供部屋突入です!」
ライルが止める間もなく、シルヴィアは凄まじい機動力で二階のライルの自室へと突入していった。
「あぁぁぁーーっ! 待て、勝手に入るなーーっ!!」
慌ててライルがその後を追いかけ、ガチャリと自室のドアを開けた時には、すでにシルヴィアは部屋の真ん中に仁王立ちし、鋭い鷹のような目で室内を検分していた。
「ふむ……! 余計な装飾品がなく、質実剛健にして洗練された空間……さすがは我が君のパーソナルスペースですわね。ですが、本棚や収納の奥には、まだ見ぬ『夫の秘密』が眠っているはず……!」
「秘密なんてない! 何もないから今すぐ部屋から出てくれ頼むから!!」
冷や汗をダラダラと流しながら必死に押し返そうとするライルだったが、シルヴィアはすでに本棚の一角に目を付けていた。そこに並んでいたのは、ライルが子供の頃に使っていた古い教科書や、昔のノートの束だった。
「おや……? これは、我が君が幼少期に記された『知の結晶(お勉強のノート)』ではありませんか!」
「待て、それを開けるな――っ!!」
シルヴィアがヒョイと手に取ったのは、ライルが十歳の頃に書いた「将来の夢や日々の雑感を記した落書き帳」だった。
ページをめくると、そこには当時の稚拙な字で『将来は立派な貴族になって、のんびり日向ぼっこをしたい』という、あまりにも平和で等身大すぎる子供の夢が綴られていた。
それを読んだシルヴィアの瞳が、なぜかじーーんと潤み始めた。
「なっ……なんと……!!」
「うっ……うるさい! 十歳のガキが書いた落書きだろ、笑うなら笑えよ!」
ライルが顔を真っ赤にしてそっぽを向くと、シルヴィアは感動に打ち震える声でこう言った。
「笑うなどとんでもありませんわ……! 幼き日の我が君は、すでにその小さな胸に『領地と民を温かく包み込み、平和な未来を築く』という壮大なる帝国のビジョンを抱かれていたのですね……! なんという慈悲深い理想郷への誓い……このシルヴィア、感動で涙が出そうですわ!」
「なんでそうやって何でもかんでも壮大な帝国建国のビジョンに変換するんだよ!! ただの日記だろ!!」
ライルが頭を抱えてツッコミを入れていると、シルヴィアはさらに本棚の奥、ダンボール箱の底から、一冊の古いアルバムを引きずり出した。
「ふふふ……お次は、こちらの『成長記録の宝箱(写真アルバム)』ですね」
「あ……っ、それだけは……それだけは絶対に開けるなあああぁぁぁっ!!」
ライルがこれまでにないほどの俊敏な動きで飛びつこうとしたが、シルヴィアはひらりと華麗な身のこなしでそれをかわし、パカッとアルバムを開いた。
そこには、ライルの赤ちゃん時代のものから、ちょっと生意気だった小学生時代、そして少し反抗期が入っていた中学生時代の恥ずかしい写真が、これでもかとばかりに詰まっていた。
「わぁ……!」
シルヴィアは思わず声を漏らし、その場にしゃがみ込んでアルバムを凝視した。
そこには、川で泥だらけになって遊んでいる小さなライルや、ちょっと変なポーズで誇らしげに笑っている子供時代のライルの姿が鮮明に写し出されていた。
「なんと……我が君の幼少期は、このように愛らしく、そして気品に満ち溢れていたとは……! この、少し頬がふっくらされていた時期の尊さといったら、全銀河の宝を集めても及びませんわ……!」
「もうやめてくれ……! 俺のHPはとうにゼロだ……今すぐこの床板を引き裂いて生き埋めにしてくれ……」
ライルはベッドの上に崩れ落ち、枕に顔をうずめて全身をジタバタと悶えさせた。恥ずかしさで耳まで真っ赤どころか、もはや湯気が立ちそうなレベルである。
しかし、そんなライルの絶望をよそに、シルヴィアはアルバムのページをめくる手を止めなかった。そして、幼いライルの写真を見つめる彼女の眼差しは、いつしか戦場で見せる厳格なものから、底抜けに優しく、そして愛おしさに満ちた「一人の少女の顔」へと変わっていた。
「……我が君」
静かにシルヴィアが呟いた。その声のトーンの変化に気づき、ライルはそっと枕から顔を上げた。
シルヴィアはアルバムをそっと閉じ、立ち上がると、うつ伏せになっているライルのベッドの縁に、ゆっくりと腰掛けた。
彼女のフルプレートアーマーがカチャリと小さな音を立てるが、その中の空気は驚くほど柔らかかった。
「私には、厳格な家系で育ち、幼い頃から剣を握り、笑うことよりも戦うことを強いられてきた過去しかありません。子供の頃のアルバムなど、私の家には一枚も残されていないのです」
その言葉に、ライルはハッとして体を起こした。
シルヴィアは少しだけ目を伏せ、しかしすぐに柔らかく、切なさを伴う美しい笑みを浮かべた。
「だから……こうしてあなたの子供時代や、あなたが歩んできた軌跡の断片を見ていると、なんだかとても胸が温かくなるのです。あなたがどんな景色を見て、どんな風に笑って、どんな風に大人になっていったのか……そのすべてが、私にとっては愛おしくてたまらないのですわ」
真っ直ぐで、飾らない、彼女の心の底からの本音。
いつもは「暗黒帝国がどうこう」と突拍子もない勘違いを叫んでいる彼女が、今この瞬間だけは、ただの一人の素直な女の子として自分に向き合っている。
その言葉の破壊力に、ライルは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
顔の熱が、さらに一気に跳ね上がる。恥ずかしさではなく、胸の奥がキュッと締め付けられるような、甘酸っぱい熱だった。
「っ……な、なんだよ急に……。人の黒歴史アルバムを勝手に見といて、そんなずるいセリフ言うなよ……」
ライルが顔を背けながら、ボソボソと照れくさそうにつぶやく。
そんなライルの真っ赤な横顔を見たシルヴィアは、ふっと嬉しそうに目を細め、そっと自分の鎧の胸元に手を当てた。
「ふふっ。我が君の恥ずかしい過去も、すべてこのシルヴィアが責任を持って愛し、そして未来へと引き継いでみせますわ!」
「だから引き継ぐな! 普通にそっと忘れてくれ!!」
恥ずかしさのあまりライルが声を裏返して叫ぶと、リビングの方から父さんと母さんの呑気な声が聞こえてきた。
「おや、二階から楽しそうな話し声が聞こえるねぇ。若いって本当に素晴らしいねぇ」
「そうねぇ、この調子だと結婚式の準備もあっという間に進みそうねぇ」
「「勝手に話を進めないでくださいっ(進めるな)!!」」
ライルとシルヴィアの息の合った(?)ツッコミが、ヴェルナー家の子供部屋に仲良く響き渡るのだった。
こうして、子供時代の思い出の共有と少しの赤面を経て、二人の間の距離は、さらに一歩、甘く確かなものへと近づいていくのであった――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第53話、「黒歴史と子供時代の思い出! シルヴィア、夫のルーツを徹底解剖(?)してしまう件」いかがでしたでしょうか!
ライルの子供時代の自室を舞台に、封印したはずの恥ずかしい落書きやアルバムを発掘されて悶絶するライルと、幼少期の写真を見て深い愛おしさを募らせるシルヴィアの姿をお届けしました! ギャグのテンポを挟みつつも、シルヴィアのふとした本音と、それに対するライルのドキドキする心の機微を楽しんでいただけたなら幸いです。
少しずつ甘酸っぱさが加速していく本作、次なる第54話では、いよいよ両親の冷やかしを交えつつ、夜の縁側でシルヴィアが本当の乙女心を語る「実家編クライマックス・夜の語り合い回」へ突入します……!?
それでは、また次回の第54話でお会いしましょう!




