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第51話:普通の主婦を目指すシルヴィア!? ズレた健気さと、少しだけ甘い日常の予感の件

勘違いラブコメ、実家編から少しずつ「普通の甘酸っぱい日常・ラブコメ」へとシフトしていく第51話をお届けします!

前回の第50話では、ライルが決死の夜逃げを試みるも、シルヴィアのガチすぎる絶対防衛要塞(夜間警備網)によって完璧に阻止されるという絶望の逃亡劇が描かれました。そして迎えた第51話、完全に気力を失ったライルに対し、シルヴィアが「我が君のために、完璧な普通の主婦(庶民の暮らし)を学びますわ!」とまさかの方向で猛特訓を開始します! 狂気の勘違いから少しずつ「キュン」へと変わり始める、二人の甘い日常の第一歩をお楽しみください!

それでは、第51話のスタートです!

ヴェルナー伯爵家の朝。

ライル・フォン・ヴェルナーは、自室のベッドの上でぼんやりと天井を見つめていた。昨夜の脱出劇の疲労が、肉体的にも精神的にも重くのしかかっている。

「もういいさ……逃げられないなら、いっそこのまま受け入れるしかない……。俺の引きこもりライフは終わったんだ……」

自暴自棄になりながらも、どこか諦めのような境地に達していたライルは、重い体を引きずって階段を降りた。リビングから漂ってきたのは、なぜかこれまでの殺伐とした軍事機密の匂いでも、不穏なごま塩お煎餅の香りでもなく、どこか香ばしい、美味しそうな朝食の匂いだった。

「……ん? この匂いは……?」

不思議に思いながらリビングの扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「ふっ……! はっ……! これが、母上から教わった『一般的な庶民の朝食作り』のプロセスですわね……!」

そこには、いつもの神銀ミスリルのフルプレートアーマーを完璧に纏ったまま、その上からなぜかフリフリの白いエプロンを着用したシルヴィアの姿があった。

彼女は巨大な包丁を神業のようなスピードで振るい、まな板の上の食材(※特選魔獣肉)を細かく刻んでいた。

「あ、あれ……?」

ライルが呆然と立ち尽くしていると、リビングの端っこで優雅に紅茶を飲んでいた母・ソフィーが、ふふっと微笑みながら声をかけてきた。

「あら、ライル、おはよう。起きてきたのね。今ね、シルヴィアさんが『妻として普通の朝ごはんを作って、ライル様を驚かせたいんです!』って言って、朝早くから一生懸命お料理の勉強をしてくれているのよ。とっても健気でステキじゃない?」

「け、健気……?」

ライルが目を点にしていると、シルヴィアは背後から殺気(闘気)すら感じさせるほどの鋭い気配を放ちながら、こちらを振り返った。彼女の真剣な瞳は、かつての戦場に立つ鬼神のそれではなく、ただひたすらに「夫のために美味しい朝食を振る舞いたい新妻」のそれだった。

「おはようございます、我が君! 昨日、あなたが『普通の、つつましい庶民の暮らしがしたい』と仰せになられたのを耳にし、このシルヴィア、深く感銘を受けました。帝国式のエリート教育しか受けてこなかった私ですが、今日から一人の『普通の主婦』として、あなたを胃袋から支えてみせますわ!」

「いや、その格好は全然普通じゃないし、エプロンの下にフルプレートアーマーを着込んでいる時点で戦闘準備万端だろ……!」

ライルがツッコミを入れるが、シルヴィアは「ふっ、防犯対策は万全です!」と胸を張る。

しかし、彼女のその表情には、どこか不器用ながらも「ライルに喜んでほしい」という純粋な熱量が込められており、昨夜までの圧倒的な恐怖感とは少し違う、妙にこそばゆい空気がリビングに流れていた。

「……で、何を作ってるんだよ」

恐る恐るライルが尋ねると、シルヴィアは誇らしげに湯気の立つスープ鍋を指し示した。

「本日は、庶民の朝の定番である『温かいお味噌汁』を再現いたしました! ただし、我が君の強靭な肉体を維持するため、ベースには厳選されたドラゴンの骨髄エキスを煮込み、具材には近所の森で狩ってきた特製のキノコ(※致死性の毒を持つが魔力で無効化済み)をふんだんに盛り込んでおります!」

「それはもう味噌汁じゃなくて究極の錬金薬ポーションだろ!! 普通の味噌汁を作ってくれって頼んだだろ!!」

ライルが頭を抱えて叫ぶと、シルヴィアは少しだけショックを受けたように耳をピクリと動かした。

「……おや、お気に召しませんでしたか? それとも、味付けが私好みに偏りすぎていたでしょうか……」

シュンと露骨に落ち込むシルヴィアの姿を見た瞬間、ライルの胸の内で、妙な罪悪感がチクリと疼いた。

いつもは圧倒的な武力と圧倒的な勘違いで周囲をねじ伏せる王国最強の騎士団長。そんな彼女が、自分の「普通の生活がしたい」というボヤキを真面目に受け止め、不慣れなエプロン姿で必死に「普通のお嫁さん」を演じようとしてくれている。そのギャップと、不器用ながらも自分に向けられる真っ直ぐな好意を目の当たりにしてしまうと、さっきまで怯えていたはずのライルの心臓が、なぜか少しだけトクトクと早く跳ねた。

(……待て待て待て。俺は騙されるなよ? こいつの脳内ではまだ俺は『暗黒帝国の皇帝』なんだぞ。でも……なんだ、その、その落ち込み方は……反則だろ……)

ライルは顔を赤らめそうになるのを必死に抑えながら、咳払いを一つした。

「い、いや……その……なんだ。気持ちは嬉しいからさ。その、お前の気持ちは受け取るよ。ただ、もう少しこう……具材を普通の野菜にして、味噌を普通に溶いてくれたら、俺は泣いて喜ぶと思う」

ライルが照れくさそうにそう言うと、シルヴィアの瞳は再びダイヤモンドのような眩い光を放って輝いた。

「なっ……!! わ、我が君が私の手料理を……! そこまで温かいお言葉をかけてくださるなんて……!!」

彼女は感動のあまり、フルプレートアーマーの金属音をガチャリと響かせながら、両手で自分の頬を抑えてプルプルと震えた。

(すごい……! 冷徹にして全知全能の皇帝陛下が、私の手作りの朝食を優しく受け入れてくださった……! これぞまさに、愛の共同統治の第一歩ですわ……ッ!!)

脳内で勝手に大歓喜しているシルヴィアを見て、ライルは「あぁ、やっぱりこいつの脳内変換はいつもの調子だったわ……」と脱力しつつも、どこか肩の力が抜けていくのを感じていた。

「ほら、冷めないうちにいただきましょう、ライル」

ママのソフィーがクスリと笑いながらお皿を並べ、シルヴィアも「さあ、おあがりください我が君!」と誇らしげに特製スープを差し出す。

カオスな状況は相変わらずだが、昨夜までの「一刻も早くこの家から逃げ出さなければ殺される(精神的に)」という切羽詰まった恐怖は、不思議と薄れていた。

ライルはスプーンを手に取り、恐る恐るその「特製スープ」を口に運ぶ。

――味は相変わらずものすごく濃かったが、なぜかほんの少しだけ、温かさを感じられた気がした。

こうして、狂気の勘違いと過剰な防衛網に包まれた実家生活は、少しずつ、しかし確実に「甘酸っぱい日常ラブコメ」のグラデーションへと足を踏み入れていくのだった――。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

第51話、「普通の主婦を目指すシルヴィア!? ズレた健気さと、少しだけ甘い日常の予感の件」いかがでしたでしょうか!

前回の絶望的な逃亡劇から一転、シルヴィアが「普通の主婦・庶民の暮らし」を学ぼうと、エプロン姿(ただしフルプレートアーマー着用)で手料理作りに奮闘する姿をお届けしました! 相変わらず斜め上の料理を作りつつも、ライルのために一生懸命な彼女の姿に、少しだけ心が揺らぐライルの甘酸っぱい心境の変化を感じていただけたなら幸いです。

少しずつラブコメの空気が混ざり始めた本作、次なる第52話ではどんなキュン展開(あるいはさらなる勘違い)が待ち受けているのか……!?

それでは、また次回の第52話でお会いしましょう!

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