第42話:ライルの普通の服の買い替えが神聖衣発注に!? 黄金のギラギラ衣装が爆誕する件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第42話をお届けします!
前回の第41話では、ライルが静かにスローライフを送ろうと始めた家庭菜園のプチトマトが、元暗殺者たちの過剰な毒物チェックと品質管理によって「不老不死の神聖野菜」として街中で崇め奉られてしまう大爆笑のエピソードをお届けしました。そして今回は、ボロボロになった普段着を買い替えるだけのはずが、仕立て屋の店主の暴走によって「世界を統べる神聖衣」を強制発注させられてしまう不条理な衣替え回です!
それでは、本編第42話のスタートです!
黄金の要塞都市と化した街の、さらに裏路地にひっそりと佇む小さな仕立て屋。
その古びた木の扉を、ライル・フォン・ヴェルナーは恐る恐る押し開いた。
「……すみません、普段着のシャツが擦り切れてボロボロになってきたんで、新しく一枚買いたいんですが……」
前回の家庭菜園における「神聖トマト騒動」で精神的にすり減り、少しでも目立たないようにと地味な茶色のジャケットの襟を立てながら、ライルは控えめに声をかけた。
店内のカウンターの奥から、白髪混じりの頭をした老齢の仕立て屋の店主が、おそるおそる顔を上げた。
店主は、カウンターの前に立っているのが誰であるかに気づいた瞬間――、
ガタガタッ! と激しく椅子を倒し、全身の血の気を一気に引かせてその場でひざまずいた。
「ひ、ひっ……ひゃああぁぁぁっ――!? こ、皇帝陛下であらせられるぞ――っ!!」
「だから皇帝じゃないって何回言わせるんだよ! 落ち着いてくれ、ただの客だ!」
ライルが慌てて手をブンブンと振って否定するが、店主は恐怖と、それ以上に圧倒的な畏敬の念で目をぐるぐると回しながら、ガタガタと歯を鳴らしていた。
(た、大変だ……! 次の戴冠式――すなわち伝説の『第二回戦・結婚式』が近づく中、陛下自らがこのような小さな店に、ご自身の普段着……いや、式典でお召しになられる極秘の衣裳を発注しにおみ足をお運びになられた……!)
店主の脳内で、勝手に壮大すぎる誤解の歯車が噛み合った。
彼は震える手で眼鏡を押し上げると、涙を流しながら叫んだ。
「も、申し訳ありません陛下……! いつも我が街の平和をお守りいただきありがとうございます! それで、本日はどのような衣裳の採寸を……!?」
「あ、ああ。いや、そんな大げさなものじゃなくていいんだ。ただの、一番安くて地味な、普通の綿のシャツとズボンを一枚ずつくれればそれでいいからさ」
ライルが控えめにそう注文した瞬間、店主の脳裏にはまったく別の意味でその言葉が変換されて響き渡った。
(――「一番安くて地味な、普通のシャツとズボン」……だと……!?)
(なんと謙虚な……! 世界を統べる暗黒帝国の最高権力者であらせられるというのに、私利私欲を一切持たず、質実剛健を貫かれるそのお姿……! だが、だからこそ! 次の神聖なる式典の場で、そんなボロ布のような服をお召しになられては、我が街の威信に関わる……!)
(我が仕立て屋の全人生、全財産、そして先祖代々伝わる『伝説の秘宝』のすべてを懸けて、陛下が纏うにふさわしい『世界を統べる神聖衣』を仕立て上げねばならん――ッ!!)
店主の職人魂が、恐怖を越えて狂気的なまでの情熱で爆発した。
「かしこまりました、陛下……!! そのご要望、この老骨の命に代えても完璧に具現化してみせましょう……!」
「いや、だから普通の綿シャツでいいんだってば! そんな気合入れないでくれよ!」
ライルの必死の制止を完全に無視し、店主は奥の部屋へと猛ダッシュで消えていった。
それから数十分後。
仕立て屋の奥から、何やらただならぬまばゆい閃光と、金属が擦れ合うような重厚な音が響いてきた。
「お待たせいたしました……!!」
店主が両手で抱えて持ってきたのは、もはやシャツやズボンといった概念を完全に超越した代物だった。
それは、王国に数個しか現存しない伝説の「黄金の竜の糸」で幾重にも縫い合わされ、要所要所には魔力を帯びた巨大な宝石が埋め込まれ、さらには動くたびに周囲の空間を歪ませるほどの神々しい光を放つ、「まるで動く要塞のようなギラギラの黄金装甲衣裳」だった。
「なっ……なんだこれ……!?」
ライルはあまりの眩しさに目を押さえ、後ずさりした。
「これこそが、王国が誇る最高峰の技術と私の魂の結晶――『神聖衣:ゴールデン・エンペル(皇帝仕様)』でございます……!」
店主は感極まった表情で涙を流しながら、それをライルの体に押し付けた。
「さあ陛下、お召しになってください!」
「着られるかっ!! こんなのただの歩く発光ダイオードの要塞だろ!! なんで普段着を買いに来たのに戦闘力一万超えみたいな鎧を着なきゃいけないんだよ!」
ライルが全力で拒絶したが、店主は「めっそうもございません! 試着だけでも……!」と懇願し、周囲の空気圧に押される形で、ライルは半ば強制的にその黄金の衣裳を無理やり羽織らされてしまった。
――パァァァァァンッ!!!!!
ライルが腕を通した瞬間、仕立て屋全体が太陽のようにまばゆい黄金の光に包まれた。
部屋の外で待機していた元暗殺ギルド「黒い夜の翼」の男たちが、そのまばゆい光を遠くの屋根の上から目撃し、一斉に息を呑んだ。
「なっ……なんだあの光は……!?」
「間違いない……! 陛下が、ついに次の式典に向けた『神聖衣』の装着を完了されたぞ……!」
「なんて神々しい……! あの圧倒的な光の波動、もはやただの衣服ではなく、世界を滅ぼしかねない究極の魔導宝具だ……!」
男たちは感動のあまりその場で片膝をつき、天を仰いで両手を合わせた。
そして、仕立て屋の扉がゆっくりと開き、その中から――、
全身がギラギラと黄金に発光し、歩くたびにジャラメキと重低音を響かせる、もはや人間とは思えない神々しい姿のライルがよろよろと表に出てきた。
「はぁっ……はぁっ……なんだこの服、重すぎるし、着てるだけで視界が真っ白になるぞ……! なんで服を着るだけで発光するんだよ!」
ライルがフラフラになりながら道路の真ん中で絶叫していると、その眩い光に惹きつけられるように、陰から見ていたシルヴィアがうっとりとした足取りで歩いてきた。
彼女は、目の前で眩しく輝くライルの姿を見るやいなや、両手を胸の前で組み、頬を真っ赤に染めてその場に崩れ落ちそうになった。
「あぁ……! なんという美しさ、なんという圧倒的な威厳……!」
シルヴィアの瞳がハートマークになりそうなほどの熱量を帯びる。
「純白のウェディングドレスを着る私に対し、我が君はその身に太陽を纏った黄金の神聖衣を……! これぞ、天地の神々すら祝福する、宇宙一のドレスコードですわ……! 私、感動で気絶しそうです……!」
「誰が宇宙一のドレスコードだ! 俺はただ普通の綿のシャツが欲しかっただけなんだよ!! これじゃあ夜道でも宇宙から丸見えの灯台じゃねぇか!」
ライルが涙を流しながら黄金の腕を振り回して抗議する横で、元暗殺者たちのリーダーが真剣な表情で胸に手を当てて称えた。
「さすがは陛下……! 普段の地味な私服のふりをしながら、いざという時には我が帝国の圧倒的な武力と財力を世界に見せつける、この完璧すぎるカモフラージュ戦術……! 私どものような末端の殺し屋には到底真似できない、深遠なる帝王学を見せていただきました!」
「誰もカモフラージュしてねぇよ! ただの誤発注だよ!!」
遠くの電柱の陰からその光景を眺めていたアルベルトは、横に立っているルキウスに無言で視線を送り、ルキウスは青白い顔のまま、音もなく特製胃薬のボトルを差し出した。二人は言葉を交わすことなく、同時に胃薬を流し込みながら、静かに遠い目を空へ向けたのだった。
黄金の要塞都市の青空の下、発光する要塞のような衣装を着せられたまま頭を抱えて絶叫するライルの姿は、今日も今日とて住民たちに「我が帝国の輝かしい未来」を確信させ、盛大なる歓声の波に包まれるのだった――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第42話、「ライルの普通の服の買い替えが神聖衣発注に!? 黄金のギラギラ衣装が爆誕する件」いかがでしたでしょうか!
ボロボロになった普段着を買い替えるため、街の小さな仕立て屋を訪れたライルでしたが、店主の壮大な勘違いによって「世界を統べる黄金の神聖衣(発光する要塞仕様)」を強制発注させられてしまうという大爆笑のエピソードをお届けしました! 周囲の過剰な称賛と、ライルの絶望のギャップが最高潮でしたね。
ライルが普通の服を着られる平和な日はやってくるのか……!?
「普通のシャツを頼んだのに発光する要塞ができてて腹筋崩壊した」「元暗殺者の深読みがもはや特技レベルで草」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第43話でお会いしましょう!




