第41話:ライルの家庭菜園が究極の兵糧生産に!? 元暗殺者たちの過剰毒物チェックが炸裂する件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第41話をお届けします!
前回の第40話では、元暗殺者たちの「一般社会適応テスト」が全盛期の死神のようなホラー笑顔になってしまい、街の子供を泣かせる大惨事に発展しました。外を歩くのも命がけになってしまったライルが、「こうなったら庭で静かに家庭菜園だ!」とスローライフの原点に回帰しようとするのですが……そこはやはり、一筋縄ではいかない狂気の街だったのでした!
それでは、本編第41話のスタートです!
黄金の要塞都市と化した街の片隅。
ライル・フォン・ヴェルナーは、自分の家の小さな庭先で、スコップを片手に深いため息をついていた。
「……散歩をすれば要人警護に囲まれ、挨拶の練習を見ればホラー映像が展開される。もう外の空気をまともに吸うのは無理だ。こうなったら、俺は自宅の庭で土をいじり、自分で野菜を育てて静かにスローライフを送るぞ……!」
世間の喧騒から完全に身を隠し、土と緑に囲まれた素朴な自給自足の生活を送ることこそが、今のライルに残された唯一の精神安定剤だった。
彼は気合を入れ直すと、市場で購入した高級な土を庭に敷き詰め、プランターや畝を作り、トマトの苗とキャベツの種を丁寧に植え込んでいった。
「よし……すくすく育ってくれよ。お前たちが俺の唯一の心の支えだ……」
額の汗を拭いながら、ライルは満面の笑みを浮かべた。
だが、その微笑ましい光景を、自宅の塀の陰や、近くの屋根の上から、血走った目で凝視している一団がいた。
――そう、元暗殺ギルド「黒い夜の翼」の男たちである。
男たちは、ライルが庭で苗を植えている背中を神妙な面持ちで見つめ、小さく頷き合った。
(おい……見たか……?)
(あぁ……間違いない。陛下が、ついに自らの手で『最高機密の兵糧生産計画』に着手されたぞ……!)
(しかも、ただの農業ではない。あの土の配合、植え込みの精密な間隔……! あれは完全なる『化学兵器および毒物混入防止演習』を兼ねた、最前線のサバイバル農業演習に違いありません……!)
元暗殺者たちの脳内で、勝手にミリタリーかつ国家機密レベルの防衛シナリオが爆誕した。
彼らにとって、ライルの家庭菜園は「我が君が自給自足によって暗黒帝国の食糧安全保障を固めるための神聖な極秘任務」として脳内変換されてしまったのである。
その日から、ライルの庭には「夜な夜な謎のげっ歯類や害虫が一切近づかない、どころか鳥すら恐怖して逃げ出す謎の絶対安全結界」が張られることになった。
――夜中の二時。
ライルがぐっすり眠っている頃、庭の土の中では凄まじいことが起きていた。
「よし、夜間巡回および土壌の成分分析を開始する!」
「放射線レベル、異常なし! 重金属の混入痕跡、ゼロ!」
「隣家の猫が侵入を試みたが、気配だけで威圧して撃退した!」
黒マントの男たちが、深夜の暗闇の中で特殊部隊並みの暗視ゴーグルを装着し、ライルが植えたトマトの苗のまわりを這いつくばりながら、土壌のpH値測定や毒物・生化学兵器の残留チェックを勝手に毎晩行っていたのだ。
さらに、彼らは万が一の毒物混入を防ぐため、周囲の空気清浄から肥料の成分調整まで、自分たちの持てるすべての暗殺・化学スキルを総動員して、過剰すぎる品質管理を徹底的に叩き込んだ。
その結果――。
わずか数週間後。
ライルが朝起きて庭に出てみると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「……は……? え……?」
ライルは自分の目を疑い、思わず二度見した。
そこに育っていたのは、普通の家庭菜園で採れるようなちまちましたプチトマトではなく、一個一個がまるでルビーや宝石のように眩い黄金の光を放ち、ツヤツヤと異常なまでに完璧な球体を形作った、究極の超高級巨大プチトマトだった。
キャベツにいたっては、幾重にも重なる葉がまるで鉄壁の装甲のように美しく巻かれ、見ているだけで生命力がみなぎってくるような神々しいオーラを放っている。
「なんだこれ……!? 俺はただ普通の市場の苗を買って、普通の水をやっただけだぞ……!? なんだこの、宇宙の神秘みたいなトマトは……っ!」
ライルが頭を抱えて震えていると、背後から音もなくアルベルトとルキウスが歩いてきた。二人はその神聖なトマトの輝きを見て目を細めた。
「……これは驚異的ですね」
ルキウスはメガネを押し上げ、青ざめた顔で呟いた。
「土壌の成分データが完全に最適化され、毒素や不純物が分子レベルで完全排除されている……。これはもはや、ただの野菜ではありません。国家の最高機密である『不老不死の生命維持物質』と言っても過言ではない代物です……!」
「おっしゃる通りです、ルキウス君」
アルベルトは静かに腕を組み、いつものように懐から胃薬のボトルを取り出した。
「さすがはライル殿だ。ただの家庭菜園と見せかけて、暗黒帝国の兵糧生産能力を極限まで高めるための究極の農業改革を単身で成し遂げられるとは……私には真似できない」
「褒めるな! 誰も不老不死の野菜を作ろうなんて思ってないわ!!」
ライルが絶叫していると、ちょうどその時、その噂を聞きつけた街の商人たちや一般住民が、ライルの自宅の庭の前に大挙して押し寄せてきた。
「おぉ……! 見てくれ、あの眩い輝きを……!」
「陛下がご自身の庭でお育てになられた、伝説の『神聖トマト』だ……!」
「あのトマトを一口でも口にすれば、あらゆる病が治り、永遠の若さが手に入ると噂されているぞ……!」
住民たちは庭の柵の外から手を合わせ、まるで神殿を拝むかのような熱狂的な眼差しでそのトマトを見つめ始めた。
商会長の一人は、震える手で分厚い小切手帳を取り出し、涙を流しながら叫んだ。
「陛下……!! この私に、その神聖トマトの買い付けの権利を……! いや、全財産を差し出します! 我が商会の全財産と引き換えに、一粒だけでもお分けくだされ――っ!!」
「売らねぇよ!! ただの俺の朝食用のプチトマトだ!! 勝手にファンタジーの秘宝みたいに神格化するな――っ!!」
ライルが全力でキレ散らかしているその最中、元暗殺者たちのリーダー格の男が、サッと音もなくライルの横に現れ、真剣な顔で一礼した。
「陛下。お見事でした。昨夜の土壌最終チェックにおいて、外部からの毒物混入の危険性が完全にゼロであるとの判定が出ました。……これより、我が影の警護部隊による『最高級・無毒化不老不死野菜の公式毒見』を直ちに執行します!」
「待て待て待て待て!! なんで俺が育てた普通のプチトマトを食べる前に、お前らが命がけの毒見をしなきゃいけないんだよ!! しかも名前が勝手にどんどん物騒になってるぞ!!」
ライルの悲痛な抗議など聞こえていないかのように、元暗殺者の一人が神妙な面持ちでその巨大プチトマトをそっと摘み取り、両手で大切に掲げた。
「では、我が命にかけて……いただきます!」
彼はまるで聖餐式の儀式でも行うかのように、そのトマトを一口でパクリと食べた。
――シーン。
周囲の全員が、固唾を飲んでその男の顔を見守る。
数秒後、男の目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「なっ……なんと……甘い……っ!! 口いっぱいに広がる芳醇な果汁と、生命の息吹を感じさせる圧倒的な旨味……! これぞ我が君の愛と、過剰なまでの化学兵器防止演習の結晶……! 毒物反応、一切なし、全細胞が歓喜に震えております――っ!!」
「ただの甘いプチトマトだよ!!! 感動するな!!」
男の絶叫を合図に、周囲の住民たちは「おぉぉぉ――っ!! 陛下万歳――っ!! 神聖トマト万歳――っ!!」と歓喜の声を上げ、街全体がなぜか「収穫祭モード」の狂騒へと突入していった。
その様子を陰から見ていたシルヴィアは頬を赤らめながらうっとりと呟いた。
「ライル殿が育てた神聖な生命の果実……! これぞ、私たちの次の結婚式(第二回戦)の最上級のウェディングケーキ、ならびに参列者への引き出物にふさわしい最高のお品ですわ! さすがは我が君、結婚式の準備まで完璧に行き届いているなんて……私、感動で胸がいっぱいです!」
「誰が結婚式の引き出物にするかぁぁぁっ!! そのトマトは全部俺が一人で美味しく生野菜として平らげてやるわ――っ!!」
ライルが絶叫しながらプランターからトマトをむしり取り、その場でやけ食いし始めたその姿は、周囲の住民たちには「慈愛に満ちた帝王による、民への圧倒的な富の分かち合い(聖なる晩餐)」として映り、黄金の要塞都市の空には、今日も今日とて盛大な歓声とライルの胃痛の悲鳴がパーンと響き渡るのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第41話、「ライルの家庭菜園が究極の兵糧生産に!? 元暗殺者たちの過剰毒物チェックが炸裂する件」いかがでしたでしょうか!
外を歩くのを諦め、「庭で静かに家庭菜園を送ろう」としたライルでしたが、元暗殺者たちの狂気的な兵糧生産&毒物混入防止演習(という名の夜間監視)によって、ごく普通のプチトマトが「不老不死の神聖野菜」として街中で崇め奉られてしまうという大爆笑のエピソードをお届けしました! シルヴィアの結婚式引き出物発言も絶好調でしたね。
ライルの平穏なスローライフは、土の中ですら実現しないのか……!?
「プチトマトが勝手に神聖化されてて腹筋崩壊した」「元暗殺者の品質管理が過剰すぎて逆に有能なの面白すぎる」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第42話でお会いしましょう!




