第40話:元暗殺者の一般社会適応テスト!? 笑顔の練習が暗殺の笑みになって大惨事を引き起こす件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第40話をお届けします!
前回の第39話では、アルベルトが健全なパロトロールをしようとしただけなのに、元暗殺者たちの過剰解釈によって「死の軍事演習の鬼教官」に祭り上げられてしまうという大爆笑の展開をお届けしました。そして今回は、そんな彼らを「普通の一般社会に適応させなければ、いつか街の住民が全員恐怖で逃げ出してしまう!」と危機感を抱いたルキウスとアルベルトが、スパルタ式の接客・笑顔トレーニングを決行するエピソードです!
それでは、第40話のスタートです!
黄金の要塞都市と化した街の一角。
青空の下に設置された臨時の「一般社会適応テスト会場(※ただの広場)」にて、王国中央財務局の特命監査官・ルキウス・フォン・グランツは、腕を組んで険しい顔つきで目の前の一団を睨みつけていた。
その目の前に整列しているのは、黒マントを身にまとった元暗殺ギルド「黒い夜の翼」の部下たち――総勢名だたる殺し屋崩れのエリート(?)たちである。
「……皆さん、よく聞きなさい」
ルキウスは冷徹かつ厳格なトーンで、ピシッと指を突き立てた。
「昨今のあなた方の行動は目に余ります。庭木の剪定を暗殺任務に仕立て上げたり、朝の散歩を軍事演習に変換したり……。このままでは、我が街の治安が過剰防衛によって崩壊しかねません。そこで我々は、あなた方に『普通の一般市民としての基礎訓練』――すなわち、笑顔の接客と爽やかな挨拶を徹底的に叩き込むことにしました!」
ルキウスのその言葉に、元暗殺者たちはピクリと反応し、真剣な眼差しで敬礼した。
「はっ! 暗黒帝国の平和な市民としての基礎教養、ありがたく叩き込まれます!」
「だから暗黒帝国じゃねぇよ! 普通の一般人になれって言ってるんだよ!」
少し離れた特設ステージの陰から、その様子をこっそり覗き見ていたライルが、思わず声を大にしてツッコミを入れた。しかし、ルキウスはそれに気づかないふりをして訓練を続行する。
「よろしい。では最初のカリキュラム、基本中の基本である『対人挨拶およびウェルカム・スマイル』の特訓を開始します! まずは手本を見せましょう。アルベルト副団長、お願いします」
「うむ」
アルベルトは静かに一歩前に出ると、完璧に整えられた姿勢で、道行く架空の客(に見立てた木に向かって)に優しく微笑みかけ、爽やかなトーンで声を張り上げた。
「おはようございます。本日も良い天気ですね。何かお困りのことがあれば、遠慮なくお申し付けください」
――完璧だった。さすがは王国騎士団の副団長、上品さと親しみやすさが絶妙にブレンドされた、まさに「街の人気者」にふさわしい理想的な笑顔と挨拶である。
元暗殺者たちは、その見事な模範演技を見て「おお……!」と感嘆の声を漏らし、メモを取るかのように激しく頷いた。
「なるほど……あれが一般市民の挨拶……! 対象に警戒心を抱かせず、懐にスッと入り込むための高度な心理誘導テクニックですね!」
「違うわ! ただの純粋な親切心だよ!」と、ライルが心の中で激しく叫ぶ。
「よし、では今度は君たちの番です」
ルキウスはビシッと指示を出した。
「一人ずつ前に出て、私に向かって『おはようございます!』と満面の笑みで挨拶をしなさい。――始め!」
リーダー格の男がゴクリと唾を飲み込み、一歩前に進み出た。
彼は「一般市民の笑顔……一般市民の爽やかな挨拶……」と心の中で懸命に呪文を唱え、顔の筋肉を無理やり引きつらせながら、ルキウスに向かってゆっくりと口角を持ち上げた。
――それが、すべての悲劇の始まりだった。
男は「おはようございます」と言おうとした。
しかし、長年の暗殺者生活で染みついた「ターゲットの急所を正確に捉え、一撃で仕留める瞬間の殺気」と「一切の感情を排した冷酷な戦闘思考」が、彼の顔の筋肉と脳内回路を勝手に支配してしまったのだ。
男の顔に浮かんだのは、満面の笑み――ではなく、
「真夜中の暗闇で背後から無音で忍び寄り、冷酷無比な毒針を首筋に突き立てる直前の、人間味ゼロの凍てつくような殺意の笑み」だった。
さらに、彼の目は獲物を捉えた猛禽類のようにギラギラと見開き、喉の奥から「……フッ……ククク……」という低い地縛霊のような笑い声が漏れ出している。
「おっ……おい……?」
ルキウスは、目の前で繰り広げられたあまりのホラー映像に、ガタガタと後ずさった。
男はさらに気合を入れ、「爽やかに挨拶をしなければ!」と思ったのか、突如として腰に手をやり、一瞬でルキウスの懐へと死角から滑り込むような恐ろしい高速ステップ(=暗殺用接近機動)を炸裂させながら、こう叫んだ。
「オハヨウゴザイマァァァス!! 今日も元気に社会的抹殺を執行しますゥゥ――ッ!!」
「ひっ……!! 殺人鬼だぁぁ――っ!!」
ルキウスはエリートとしてのプライドをかなぐり捨て、その場で尻餅をついてひっくり返った。
その凄まじい気迫とホラーすぎる笑顔のコンボは、訓練会場の周辺にまで波及した。
ちょうどその時、母親と一緒にパン屋の帰り道を歩いていた街の小さな子供が、その男の顔をチラリと見てしまったのだ。
「ひゃあぁぁぁぁ――っん!! こわいよぉ、おにぎりマンががおーってするよぉ――っ!!」
子供は心臓が止まりそうになるほどの恐怖を感じ、その場で大号泣しながら母親の背中にしがみついた。母親も顔面蒼白になり、「たすけて――! 街に狂気の刺客が乱入してきたわ――っ!」とパニックを起こして逃げ出していく。
広場の一帯は、一瞬で地獄絵図のような大惨事に包まれた。
「あ……れ……?」
男は自分の繰り出した「爽やかな挨拶」が、なぜか周囲を恐怖のどん底に突き落とし、子供を泣かせたことに対して、ポカンと間抜けな顔で立ち尽くした。
「私の笑顔の角度が……甘かったというのか……? もっとこう、首筋の動脈を確実に断ち切るようなイメージで口角を……」
「これ以上余計なイメージを膨らませるなーーっ!!」
特設ステージの陰から、我慢できなくなったライルが飛び出してきて、男の頭を全力でハリセン(の代わりの丸太)で叩いた。
「お前らな!! なんで普通の挨拶の練習をしようとして、全盛期の死神みたいな殺意の笑みを浮かべるんだよ!! 子供がトラウマになって夜も眠れねぇだろ!! 一般社会適応テストじゃなくて、今すぐ精神鑑定を受けに行け――っ!!」
ライルが息せき切って絶叫しているその足元で、ルキウスは真っ白な灰のように魂を抜け殻にし、ガタガタと震えながら地面に突っ伏していた。
「……だめだ……」
ルキウスの口から、か細い声が漏れる。
「私の知る法律も、教育論も、心理学のすべてが通用しない……。彼らのベースが……あまりにも純度100%の殺し屋すぎて……一般社会に適応できる要素が、宇宙のどこを探しても微塵も存在しない……っ!」
絶望の淵に沈むエリート監査官の肩に、そっと手が置かれた。
振り返ると、そこには、いつの間にか懐から取り出した特製胃薬のボトルをペリッと開けているアルベルトの姿があった。
「……ルキウス君。まあ、そう肩を落とすな」
アルベルトは優しく、そしてこの世のすべての理不尽を悟ったような深い溜息とともに、胃薬の小袋をルキウスの手にそっと握らせた。
「我が『秘密の胃痛同盟』へようこそ。……彼らに一般的な社会常識を教え込もうなどという高尚な試み自体が、最初から間違っていたのだよ。私たちにできるのは、ただ静かに胃薬を飲み干し、この狂気の日常に耐え抜くことだけだ」
「アルベルト副団長……私のエリート人生は、一体どこで間違えてしまったのでしょうか……」
二人は夕暮れにはまだ早い青空の下で、固い握手を交わしながら、静かに涙を流すのだった。
その様子を少し離れた場所から眺めながら、シルヴィアはうっとりとした表情で頬を染めていた。
ライルが元暗殺者たちを怒鳴りつけ、ルキウスとアルベルトが胃薬を分け合っている姿を、彼女の特大すぎる全肯定フィルターはこう変換していた。
「あぁ……! 我が君は、自らの手で危険な殺し屋たちを厳しく、そして愛をもってスパルタ教育し、街の真の秩序を守り抜こうとされている……! なんという慈愛と厳格さを兼ね備えた素晴らしい指導力ですわ! 私、胸が熱くなって涙が止まりません……!」
「誰も慈愛で教育してねぇよ! 俺はただホラー映像を止めようと必死だっただけだぁぁっ!!」
ライル絶叫のツッコミが、今日も黄金の要塞都市の青空へパーンと高く、そして盛大に響き渡るのだった。
元暗殺者たちの一般社会への道のりは、あまりにも遠く、そして険しすぎるのであった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第40話、「元暗殺者の一般社会適応テスト!? 笑顔の練習が暗殺の笑みになって大惨事を引き起こす件」いかがでしたでしょうか!
元暗殺者たちが「普通の挨拶や笑顔の接客」を学ぼうとした結果、どうあがいても「全盛期の死神のような殺意の笑み」になってしまい、街の子供を泣かせる大惨事を引き起こしてしまうという大爆笑の日常回をお届けしました! ルキウスの精神崩壊とアルベルトの胃薬コンボも絶好調でしたね。
一般社会への適応を諦めかけた彼らの運命やいかに……!?
「笑顔の練習が暗殺の笑いになってて腹筋崩壊した」「ルキウスの絶望っぷりが毎回美しくて草」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第41話でお会いしましょう!




