第38話:ライルの普通の散歩が国家要人警護演習に!? 元暗殺者たちの過剰ステルス護衛が炸裂する件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第38話をお届けします!
前回の第37話では、元暗殺者たちがご近所のおばあさんの庭木剪定を「国家機密の潜入工作」として完璧に処理し、街中で謎の都市伝説が爆誕するという大爆笑の日常回をお届けしました。そして今回は、ライルが「ちょっと外の空気を吸いたいだけなのに、元暗殺者たちのせいで世界最高峰の要人警護演習になってしまう」という、これまた逃げ場ゼロのシュールな散歩回です!
それでは、本編第38話のスタートです!
黄金の要塞都市と化した街の朝。
ライル・フォン・ヴェルナーは、自分の部屋の窓から差し込む眩しい太陽の光を浴びながら、深いため息をついた。
「……はぁ。庭木の件といい、最近はどうも気が休まらないな。少し頭を冷やすために、街の空気でも吸いに行くか……」
誰にも言わず、護衛を連れるわけでもなく、ただの気晴らしとして「普通の散歩」をしようと思い立ったのだ。彼は特に着飾ることもなく、普段着のまま自室を出て、玄関の扉をそっと開けた。
――だが、それがすべての誤算の始まりだった。
ライルが家から一歩、表通りに踏み出した瞬間。
背後の屋根の上、そして通りの向こうの電柱の陰から、ピキィンと空気が張り詰めるような鋭い気配が走った。
(ターゲット確認! 陛下が、ついに極秘のお忍び外出行使――通称『コード:サンデー・ウォーク』を開始されたぞ……!)
(護衛なしの単独行動だと……!? なおのこと、我々影の警護部隊が絶対死守の布陣を敷かねばならん!)
(周囲の一般通行人を完全にシャットアウトしろ! 皇帝陛下の視界に不審なノイズを入れるな!)
元暗殺ギルド「黒い夜の翼」の男たち――総勢八名が、いつの間にかライルの周囲を取り囲むように、それぞれ屋根の上、電柱のてっぺん、さらには下水のグレーチングの隙間(?)にまで完璧なステルス体制で潜り込んでいた。
ライルは、まだ何も起きていないにもかかわらず、なぜか背中にゾクリとした冷たいものを感じて周囲を見回した。
「……ん? なんか変な視線を感じるような……気のせいか?」
首をかしげながら、ライルはトボトボと歩き始めた。
しかし、その一歩を踏み出した瞬間から、彼の周囲の空間は「一般人が足を踏み入れてはならない神聖なる領域(=要人移動モード)」へと強制的に書き換えられていた。
ライルの前方十メートルを進むと、電柱の上の男が手信号で合図を送る。
「前方の路地裏、犬の散歩中の一般市民を発見! 陛下の進路を妨げぬよう、音もなく迂回誘導しろ!」
「了解!」
別の男が驚異的な超高速移動で市民の前に滑り込み、無言でピシッと敬礼して道を曲げさせる。市民は「ひっ……! 漆黒の忍者が現れて道を譲れと……! 陛下がお通りになるんだな……!」と青ざめて逃げ出した。
ライルの後方五メートルには、別の男が屋根から屋根へと音もなく飛び移りながら、完全に死角をカバーしている。
「後方の安全よし。スナイパーの侵入経路なし」
「側面の不審な物音は……よし、野良猫か。排除するまでもないが、一応威圧しておけ」
(……なんなんだ、この妙に緊張感のある空気は……!)
ライルは冷や汗を流しながら歩き続けた。誰も話しかけてこないし、誰も邪魔をしてこないのだが、なぜか周囲の通行人が全員、ライルから半径十メートル以内に近づかないようにすり足で壁際に張り付いている。まるで街全体がライルを避けるような、異様なまでの「完璧すぎるソーシャルディスタンス」が保たれていた。
「……はぁ、歩きにくいことこの上ないな。もういい、今日は朝食がてら、あの角のパン屋でコロッケパンでも買って帰るか……」
ライルは目的地をパン屋に定め、足を早めた。
数分後、年季の入った小さなパン屋の前に到着したライル。その看板を見上げてホッと息をつく。
「よかった、ここはいつも通り普通の――」
ガラガラッ、と引き戸を開けて店内に足を踏み入れようとした、その瞬間だった。
「ひ、ひぃぃぃぃっ――!?」
店の中にいたパン屋の店主が、ライルの顔を見るなり、ひっくり返りそうになりながらカウンターの奥へと腰を抜かした。彼はガタガタと全身を震わせ、顔面から完全に血の気を引かせている。
「ど、どうされました店主さん? そんなに怯えなくても、俺はただコロッケパンが――」
ライルが慌てて声をかけようとしたが、店主は必死に手を合わせ、震える声で叫んだ。
「も、申し訳ありません陛下……!! 国家機密の重要物資である『揚げたてコロッケ』の調達に、まさか最高権力者であらせられる陛下自らがおみ足をお運びになられるとは……! 我が店の警備態勢が不十分だったせいで、お手間を取らせてしまいました……っ!」
「ちがうわっ!! 国家機密の物資じゃねぇよ、ただの惣菜パンだ!! あと誰が最高権力者だ!」
ライルが全力でツッコミを入れたその時、店の天井裏からバッと音もなく黒マントの男が舞い降りた。
彼は膝をつき、真剣な眼差しでライルを見上げる。
「陛下! お言葉ですが、油断は禁物です! このコロッケに毒が盛られていないという保証はどこにもありません……!」
「お前いつの間に店の中に潜り込んでたんだよ!!」
「これより、我が影の任務として『コロッケの完全毒見』を即座に執行します!」
男はそう言うと、店主が恐怖で震えながら差し出した揚げたてホカホカのコロッケパンを素早く掴み取り、その場で一口ガブリと食べた。
「もぐもぐ……むっ! 味よし! 衣のサクサク感よし! 内部のジャガイモの甘みも完璧……毒物の反応、一切なし!!」
男はビシッと親指を立てて満面の笑みを浮かべた。
「安全が証明されました! 陛下、どうぞお召し上がりください!」
「人の買ったコロッケパンを勝手に毒見すんじゃねぇ!! しかもめっちゃ美味そうに食ってんじゃねぇよ!!」
店内で絶叫するライルの声を聞きつけ、店の外にいたアルベルトが、遠くの電柱の陰からひょっこりと姿を現した。彼は手元にあった特製の胃薬の小袋をペリッと開けて口に含み、遠い目をしたまま静かに首を振るのだった。
「……まったく、相変わらず盛大な散歩だな、ライル殿は」
アルベルトは誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「あれほどのステルス警護網を敷き、元暗殺者たちを完全に手玉に取りながら朝の買い出しをこなすとは……やはり、あの男の統率力とカリスマは、もはや王国騎士団の副団長である私の想像を遥かに超えている。……いや、待てよ。あれは本当に散歩なのか? もしかして、街の経済流通と治安のバランスを肌で確かめるための、極めて高度な『皇帝の巡幸』ではないのか……?」
アルベルトの脳内で、勝手に恐ろしいほどの深読みフィルターが起動する。
「なるほど……私も見習わねばならん。よし、私も副団長として、あの散歩ルートの周辺をさらに第二重、第三重の包囲網で固めるべきか……?」
(――おい、やめろ! お前までそっち側の人間になるな!!)
心の中で叫んだライルの声は、誰にも届くことはなかった。
結局、その日の散歩は、元暗殺者たちによる完璧すぎる要塞警護(という名の拉致同盟)に囲まれながら、血の滲むような思いでコロッケパンを買ってすごすごと自宅へ引き返すという、文字通りの「完全敗北」に終わったのだった。
黄金の要塞都市の青空の下、ライルが頭を抱えて地面に突っ伏す姿は、今日も今日とて最高にシュールな平和の象徴として、住民たちに深い感動を与え続けるのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第38話、「ライルの普通の散歩が国家要人警護演習に!? 元暗殺者たちの過剰ステルス護衛が炸裂する件」いかがでしたでしょうか!
「ちょっと気晴らしに散歩をしよう」と思っただけのライルでしたが、元暗殺者たちのピュアすぎる忠誠心によって街全体が完全な要人移動モードと化し、パン屋でのコロッケパン購入が国家機密の物資調達&毒見任務にすり替わるという大爆笑のエピソードをお届けしました! アルベルトの勝手な深読みも絶好調でしたね。
ライルが普通に外を歩ける日はやってくるのか……!?
「コロッケパンの毒見で美味そうに食ってて草」「散歩すらままならないライルが不憫すぎて最高」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第39話でお会いしましょう!




