第37話:元暗殺者たちの過剰防衛!? 庭木の剪定が国家機密の潜入工作に仕立て上げられる件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第37話をお届けします!
前回の第36話では、深夜の密談で「結婚式の合法的な回避」を試みるも完全に詰んでいることが発覚し、胃痛同盟の絆(と胃薬の消費量)だけが深まりました。そして今回は、恐怖のあまり街の治安維持に目覚めた「元暗殺者たち」が、ご近所のちょっとしたお悩みを全力で解決(=国家機密の暗殺任務化)してしまう、最高にシュールな日常回です!
それでは、本編第37話のスタートです!
黄金の要塞都市と化した辺境の街。
その一角にある静かな住宅街で、その事件――いや、あまりにも平和すぎる(しかしやってることがヤバい)日常のワンシーンは幕を開けた。
事の発端は、午前中のことだった。
街の路地裏で、ごく普通のおばあさんが、通りすがりの黒マントの男たち(――昨日の今日で命乞いをして生き残った、元暗殺ギルド『黒い夜の翼』の部下たち)に、ふと愚痴をこぼしたことだった。
「やれやれ、お隣さんの庭木の枝がうちの敷地にまでグイッとはみ出してきちゃってさぁ。葉っぱも落ちるし、何だか日当たりも悪くなっちゃって困ってるんだよねぇ。どうしたものかねぇ」
おばあさんは、本当にただの世間話のつもりでそう呟いた。
だが、その言葉を聞いた瞬間、元暗殺者たちの背筋に「ピキィン!」と凄まじい緊張感が走った。
(な……んだって……!?)
(隣家の庭木の枝が、無断で市民のプライベートな敷地に不法侵入し、日照権を脅かしているだと……!?)
(しかも、我が君(ライル様)の慈悲深き平穏な街の秩序を、あろうことか『一本の木』が乱そうとしている……!)
元暗殺者たちの脳内で、勝手に警報が鳴り響いた。
彼らにとって、シルヴィアから言い渡された「次の結婚式の邪魔をしたら消す」という言葉は絶対の戒律であり、そのためには「街の小さな不満や秩序の乱れ=我が君に対する重大な反逆の兆候」とみなされかねない恐怖の対象だったのだ。
「……なるほど。おばあさん、安心しなさい」
リーダー格の男は、まるで国家機密の密談でも交わすかのような超シリアスなトーンでおばあさんの肩に手を置いた。
「その不届きな『不法侵入の木』の件、我が影の組織が責任を持って、今夜中に完全に『処理』してやろう」
「えっ? いや、そんな大げさなことじゃなくて、ちょっとノコギリで切ってくれれば――」
「フッ、案ずるな。痕跡すら残さん……!」
男たちはシュッと姿を消し、残されたおばあさんは「最近の若い人たちは、庭木の手入れにもすごい熱意があるんだねぇ……」と、のんびりお茶をすすりながら首をかしげるのだった。
そして――夜の帳が下りた深夜二時。
月明かりすら雲に隠れた漆黒の闇の中、おばあさんの家の隣家から、何やらただならぬ気配が漂っていた。
「ターゲット確認。隣家の敷地に侵入している問題の枝は、全長約二メートル。我が方の潜入ルートに障害物なし」
「周囲の警戒網よし。近隣住民の睡眠阻害率ゼロを確認」
「これより、最高機密コード『リアル・ガーデニング(庭木暗殺作戦)』を開始する……!」
漆黒の忍者服に身を包んだ元暗殺者たち――総勢五名が、まるで城塞に潜入するかのような完璧すぎる超低姿勢のステルス陣形を組み、対象の木を取り囲んでいた。
彼らの手には、暗殺用の極細ワイヤーと、なぜか超高精度な特殊レーザーカッターが握られている。
「おい、音を立てるな。この街の平穏を司るライル様のためだ。一瞬のミスも許されない。……行くぞ!」
シュパッ!!
暗闇の中で、レーザー光線が閃いた。
それはもはや庭木の剪定というレベルを遥かに超越しており、分子レベルで不要な枝を切り落とすかのような、人類の科学と暗殺スキルの結晶とも言うべき神業の連続だった。
風の音すらない。木の葉一枚すら地面に音を立てて落ちることを許さない。
わずか三秒後。
「……任務完了。対象の『不法侵入枝』は、完全に消去された」
「よし、撤収! 痕跡を残すな!」
男たちは一糸乱れぬ連携で夜の闇へと溶け込むように消えていった。
そして翌日の朝。
おばあさんは、いつものように自分の庭に出て、思わず目を丸くした。
「おや……!?」
昨日まで隣家の枝がはみ出してモサモサしていたスペースが、まるで最初から存在しなかったかのように、完璧すぎるほどの直角と美しさを保ってスッキリと刈り込みがなされていたのだ。切り口すら見当たらないほど滑らかで、あまりの完璧な仕上がりに、おばあさんは両手を叩いて大喜びした。
「まあ! あんなに悩んでいた枝が、一晩ですっかり綺麗になっちゃったよ! あの若いお兄さんたち、一体どうやったんだろうねぇ、まるで魔法みたいだねぇ!」
おばあさんの嬉しそうな声を聞きつけた近所の住民たちも、その驚異的な剪定跡を見て集まってきた。
「ちょっと見てくれよこれ……! ノコギリで切ったような雑な跡が一切ないぞ……!」
「おい、昨日の夜中……お前、何か音がしなかったか?」
「あぁ……! 確か、真夜中に空から風を切るような、もの凄いスピードで何者かが駆け抜けていく気配がしたんだ……あれはきっと、伝説の忍者が我が街の平和を守るために舞い降りた影の粛清……!」
住民たちの間で、勝手にとんでもない都市伝説が爆誕した。
「さすがは我が街だ……! 皇帝ライル様の統治のもとでは、木の一本に至るまで、国家の厳正な管理と影の粛清の対象になっているんだわ……!」
「おそろしい街だ……! だが、これで我が家の庭木も安全だな!」
住民たちが勝手に恐怖と感動に震え上がり、謎の忠誠心をさらに深めているその頃――。
街の真ん中にあるライルの自宅では、朝のティータイムを楽しもうとしていたライルが、昨夜の噂を聞きつけて飛び込んできたアルベルトとルキウスからその報告を受け、盛大にひっくり返っていた。
「――は……はぁぁぁぁっ!? なんだって……!?」
ライルは飲んでいたお茶を盛んに吹き出し、自分の耳を疑った。
「ちょっと待て、おい! 昨日のおばあさんの『隣の家の枝がはみ出してて困る』っていう愚痴を、あの元暗殺者たちが勝手に『我が君の平穏な秩序を乱す不法侵入の木』と勘違いして、深夜に特殊部隊の暗殺任務ばりの潜入工作で完璧に剪定したってのか!?」
アルベルトは冷静に紅茶を一口飲み、静かに頷いた。
「えぇ。しかも、住民たちの間では『陛下による影の粛清』という国家機密の都市伝説として定着し、街の治安と忠誠度がさらに爆上がりしていますよ」
「喜ぶな! 治安が良すぎるどころか狂ってんだろそれ!!」
ライルは頭を抱え、自分の机をガタガタと揺すった。
「ただの庭木の剪定だぞ!? なんでそこに特殊部隊の暗殺任務みたいな命がけの緊張感を持ち込むんだよあいつら! 暗殺者のプライドはどこに落としてきたんだ! 次は雑草でも引っこ抜くのに軍隊の包囲網でも組む気か!? やめさせろ、今すぐあの元暗殺者どもを呼べ――っ!!」
ライルの悲痛な絶叫が、黄金の要塞都市の朝の空にパーンと響き渡る。
元暗殺者たちのピュアすぎる(そして方向性が致命的に間違っている)過剰防衛の日々は、今日も今日とて、ライルの胃袋に新たな穴を空け続けるのだった。
後書き
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第37話、「元暗殺者たちの過剰防衛!? 庭木の剪定が国家機密の潜入工作に仕立て上げられる件」いかがでしたでしょうか!
命乞いをして生き残った元暗殺者たちが、おばあさんの「庭木の枝がはみ出て困る」という何気ない愚痴を大真面目に国家機密レベルの暗殺任務と勘違いし、深夜に完璧すぎるステルス剪定を成し遂げてしまうという大爆笑の日常回をお届けしました! 周住民の勝手な勘違い都市伝説化も絶好調でしたね。
ライルの平穏への道のりは、今日も遠くて険しい……!
「庭木の剪定に特殊部隊使うの天才的すぎて草」「おばあさんは悪くないのに街全体が勝手に恐れおののいてて最高」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回の第38話でお会いしましょう!




