第33話:本家の長男、怒りの直撃!? 兄・ヴィンセントが黄金の要塞都市で絶望し、逃げ帰る件
勘違い過保護ラブコメ、本編の第33話をお届けします!
前回の盛大すぎる「黄金の要塞都市化&戴冠式フィナーレ」をくぐり抜け、ようやく一息つける……はずもなく! なんと、実家である大都市の名門ヴェルナー家から、あの「苦労人で知られる真面目な長男・ヴィンセント」が血相を変えて直撃しにやってきます!
弟の奇行(という名の周囲の勝手な大誤解と要塞化)に耐えかねた兄の運命やいかに!?
それでは、本編第33話のスタートです!
黄金に輝く防衛壁に囲まれた、要塞都市・辺境の街。
その中心部にあるライルの自宅の居間で、ライルは冷や汗を流しながら、テーブルの上に置かれた一通の手紙を凝視していた。
「……おいおい、マジかよ……」
手紙の差出人は、他でもない実家の大都市にいる長男、兄のヴィンセントだった。
そこには、震える文字でこう書かれていた。
『――弟ライルへ。今すぐ庭の金貨の山を片付け、要塞化した街を元に戻し、勝手に行おうとしている戴冠式(および謎の結婚式)を即座に中止しろ! お前が裏社会の帝王として帝国を築いているという噂が本家にまで届いて、父上の血圧が限界突破している! 今すぐそちらに向かうから覚悟しておけ! 兄・ヴィンセントより。追伸:業務用胃薬を大量に持っていきます』
「来る……! 我が家の誇る堅物エリート長男、兄貴が直接ここに乗り込んできちまう……!」
ライルは頭を抱え、床を転げ回りそうになった。
ただでさえ、シルヴィアのウェディング暴走や、住民たちによる勝手な要塞化で精神力はゼロに等しいというのに、そこへ実家の真面目な兄が「お前何やってんだ!」とガチギレ状態で直撃してくるなど、胃に穴が空くどころか胃袋が消滅してしまう。
「どうしよう……! 兄貴に事情を説明したって、あの黄金の要塞都市を見た瞬間に脳貧血を起こして倒れるか、俺を本家に連れ戻して幽閉するかのどっちかだぞ……!」
ライルが絶望の淵でブルブルと震えていると、ちょうどその時、玄関のドアが「ドンドン!」と荒々しく叩かれた。
「――ライルッ!! そこにいるのは分かっている! すぐに扉を開けろ!!」
聞き覚えのある、しかし普段よりも明らかに血走った、切羽詰まった兄の声だった。
「ひっ……! もう来やがった……!」
ライルがビクビクしながらおそるおそる玄関の扉を開けると、そこには――。
仕立ての良い高級スーツの襟を乱し、髪をボサボサに逆立てた、いつもは冷静沈着な兄・ヴィンセントが立っていた。彼の両手には、スーツケースならぬ「業務用特大サイズの胃薬のボトル」がガッチリと握りしめられている。
「ら、ライル……っお前、一体全体どういうつもりだっ……!」
ヴィンセントはゼーゼーと荒い息を吐きながら、ライルの胸ぐらを掴もうと……いや、掴む気力すらないのか、その場でよろめいた。
「街道を歩いていたら、街の壁が黄金に輝いていて、門番の住民が『皇帝陛下万歳!』とか言って敬礼してきやがったぞ! しかも街の中心にはお前の顔の金ピカモニュメントが建っているし、庭には昨日の名残か何だか知らないが気絶したブローカーの山が転がっている……! お前、辺境で一体何を支配しているんだ!!」
ヴィンセントは一気にまくし立てると、持ってきた胃薬のボトルから数粒を取り出し、水なしでボリボリと噛み砕いた。その顔面は恐怖と疲労で完全に青ざめている。
「ち、違うんだよ兄貴! あれは俺がやりたくてやったわけじゃなくてだな……!」
ライルが必死の形相で言い訳を始めようとした、その時だった。
「――おや、お客様ですか?」
背後から、ふんわりと優雅な足音が響いてきた。
振り返ると、そこには――頭に純白のウェディングベールをふわりとかぶり、かつての戦いで鳴らした優雅な笑みを浮かべた王国最強の騎士団長・シルヴィアが立っていた。
「……っ!? な、なんだこの美しくも殺気立った武装した女性は……!」
ヴィンセントは反射的に一歩後ずさり、警戒心をマックスに引き上げた。
すると、シルヴィアはヴィンセントの顔をじっと見つめ、そしてパッと花が咲くような満面の笑みを浮かべた。
「もしや……あなたが我が君のお兄様ですね! はじめまして、私、我が君の婚約者にして王国騎士団長のシルヴィアと申します!」
「こ、婚約者……!? 騎士団長……っ!?」
ヴィンセントの脳内で、パツンと何か重要な理性の糸が切れた。
「弟が裏社会の帝王を気取っているだけでも心臓に悪いというのに、王国の最強騎士団長まで巻き込んで婚姻関係を結んでいるだと……!? ライル、お前は一体どれだけ王国の中枢と裏社会を同時に牛耳る気だ!! 国事犯として処刑されたいのか!?」
「だから違うって言ってるだろ!! 俺は被害者だ!!」
ライルが絶叫するのをよそに、シルヴィアはうっとりとした表情でヴィンセントの手を取り、こう告げた。
「お義兄様、遠路はるばる我が新居へお越しいただきありがとうございます。結婚式の準備はすでに万端整っておりますので、どうかごゆっくり式の参列をお楽しみくださいませ!」
「兄をお義兄様って呼ぶな! 結婚式するって言ってないだろ!」
ヴィンセントは頭を抱え、あまりのスケールの大きすぎる狂気に、ついに足元から崩れ落ちそうになった。
「もうだめだ……我がヴェルナー家は終わった……。父上に何と報告すればいいんだ……お前の兄として、私の胃袋もこれ以上は……!」
ヴィンセントが絶望の涙を流しながら胃薬のボトルにしがみついた、その時――。
ガシャリ、と重厚な鎧の音が響き渡り、王国騎士団副団長・アルベルトが静かにその場に姿を現した。
アルベルトは、青ざめて倒れそうになっているヴィンセントと、その手にある業務用胃薬のボトルをじっと見つめ、そして、深く、それはもう慈悲深い笑みを浮かべて頷いた。
「……おや。あなたが、あのライル殿のお兄様ですか」
「な、なんだ君は……騎士団の……」
アルベルトは自分の胸ポケットから、いつでも取り出せるようにスタンバイしていた特製胃薬の小袋を取り出し、ヴィンセントの震える手にそっと差し出そうとした。
――だが、次の瞬間、ヴィンセントの背筋に凄まじい悪寒が走った。
(待て……っ!)
ヴィンセントはエリート官僚としての直感、そしてヴェルナー家の長男としての危機管理能力をフル回転させた。
この黄金の要塞都市。頭にウェディングベールをつけた狂気の騎士団長。そして、胃薬を片手にすべてを諦めたような目をしている騎士団副団長。
この空間に長居すれば、自分もこの狂気に染まり、気がついたときには「胃痛同盟の三男坊」として一生この辺境の地から抜け出せなくなる――そんな恐ろしい未来が鮮明に脳裏をよぎったのだ。
「……っ! いや、やめておこう!」
ヴィンセントはガバッと顔を上げ、差し出された胃薬を凄まじい勢いで拒絶した。
「兄貴?」
ライルが怪訝な顔を向ける。
「私の仕事はここではない! 本家の当主である父上への報告、そして一族の防衛体制の構築……! 今すぐ大都市へ引き返し、我がヴェルナー家だけでもこの狂気から逃げ延びなければならんのだ……!!」
「えっ、帰るのか!?」
「当たり前だっ!! こんな狂った街に一日でも長居したら、私の精神が完全に崩壊してしまうわっ!! さらばだライル! お前はもう私の弟ではない、暗黒帝国の皇帝陛下だ!! 二度と私に関わるな――っ!!」
ヴィンセントは絶叫しながら、持ってきた業務用胃薬のボトルを玄関先にポキリと落とし(あるいは投げ捨て)、一目散に反転した。
そして、後ろを振り返ることもなく、全速力で黄金の門の外へと駆け抜けていった。
「あっ、おい、兄貴――!」
ライルが手を伸ばす間もなく、ヴィンセントの姿はあっという間に街道の彼方へと消え去っていった。
残されたのは、玄関先に転がる業務用胃薬のボトルと、ポカンと口を開けるライル、そしてなぜか遠い目をするアルベルトだけだった。
「……行ってしまいましたね」
アルベルトが静かに呟いた。
「あぁ……兄貴、マジで逃げ帰りやがった……! 俺を置いて一人だけ助かりやがったぞ……!」
ライルが膝から崩れ落ちて地面を叩く中、シルヴィアはふっと優雅に微笑み、うっとりとした溜息を漏らした。
「お兄様もお優しい方でしたね……。急な訪問に恥ずかしくなられたのか、私たちの未来を邪魔せぬよう、そっと身を引いてくださるなんて……。本当に素晴らしいご家族ですね、我が君!」
「どこが優しいだ!! 完全に見捨てただろ今の!!」
ライルの悲痛な絶叫は、黄金の要塞都市の空へ虚しく吸い込まれていくのだった。
こうして、兄の怒りの直撃事件は、最高にスピーディーな「全速力敗走」という形で幕を閉じ、ライルの日常(?)は再び元のカオスへと戻っていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
本編第33話、「本家の長男、怒りの直撃!? 兄・ヴィンセントが黄金の要塞都市で絶望し、逃げ帰る件」いかがでしたでしょうか!
黄金の要塞都市の噂を聞きつけ、業務用胃薬を抱えてブチギレ直撃しにきた兄・ヴィンセントですが、シルヴィアの圧倒的プレッシャーと街の狂気に耐えかね、「ここに関わったら頭がおかしくなる!」と悟って秒速で実家へ全速力で逃げ帰るという大爆笑の展開をお届けしました! ライルのツッコミのキレも絶好調でしたね。
「兄貴の危機察知能力が高すぎて草」「秒速で逃げ帰るの面白すぎるでしょ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や作品への評価(★)、感想などをよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります!
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう!




