第31話:血の金貨のチャリティーパニック!? 街が一晩で黄金の要塞都市に変貌した件
前書き
勘違い過保護ラブコメ、第31話をお届けします!
前回の「夜の闇市」で庭がブラックマーケット化した大惨事を経て、ついにライルは決意します。「もうこんな危険な財宝は全部配ってしまおう!」と。しかし、その善意のチャリティー行動が、辺境の街を巻き込む前代未聞の「要塞化パニック」を引き起こすことに……!?
ライルの絶叫と、街全体の壮大な勘違い暴走をお楽しみください!
それでは、第31話のスタートです!
「もういい! こんな呪われた金塊の山、置いておいたら俺の寿命が縮むだけだ!」
朝日に照らされた自宅の庭で、ライルは頭を抱えながら、山のように積まれた金貨の入った木箱を睨みつけていた。
昨日は泥棒がピラミッドにされ、夜中には怪しげな闇のブローカーたちが勝手にバザールを開いていくという、ホラー映画よりもタチの悪いイベントの連続に、ライルの精神力はすでに限界を突破していた。
「そうだ、処分しよう。幸い、この街には真面目に暮らしている一般の住民たちや、いつも資金繰りに苦労している孤児院がある。ここに眠る莫大な財宝を、ちょっとした『チャリティー(寄付金)』として配って回れば、庭も片付くし一石二鳥じゃないか!」
ライルは名案を思いついたかのようにパッと表情を輝かせた。
もちろん、彼の中にあったのは「いらない厄介払いをしたい」という純粋な一般人の感覚だけであり、そこに裏社会の統治も何の陰謀も存在しない。
そうと決まれば行動は早かった。ライルは頑丈な麻袋に金貨や宝石をザクザクと詰め込むと、「おーい、近所の皆さん、ちょっといいですかー!」と声を張り上げながら、街へと飛び出していった。
最初に訪れたのは、街のはずれにある小さな孤児院だった。
いつも子供たちの食事の心配をしている優しい院長先生を見つけると、ライルは満面の笑みで重い麻袋をドンと手渡した。
「あ、院長先生。これ、うちの庭でちょっと余ってる……というか邪魔になってる金貨なんだけどさ。孤児院の運営費の足しにしてくれよ。遠慮しなくていいから!」
ライルはそれだけ言い残すと、スッキリした顔で次の目的地(近所の商店主の家)へと走っていった。
商店主にも「これ、日頃のお礼だ! よかったら使ってくれ!」と、宝石の詰まった小箱を無理やり手渡し、さらに通りすがりの住民たちにも「おすそわけだ、持っていってくれ!」と気前よく金貨を配って回った。
――数時間後。
ライルはすべての麻袋を配り終え、「ふぅ、これでようやく我が家の庭も平和になるぞ……」と、満足げに自宅へと帰還した。
だが、ライルは知らなかった。
彼が「善意のチャリティー」のつもりで配ったその金貨こそが、辺境の街の住人たちにとっての――【裏の王による「忠誠度と生存をかけた粛清テスト(血の金貨)」】であるということに。
その日の昼下がり。
孤児院の院長は、ずっしりと重い金貨の詰まった麻袋を抱え、冷や汗をダラダラと流しながら職員たちを集めて緊急会議を開いていた。
「みなさん……ご覧ください。これこそが、裏社会の最高権力者にして我が街の支配者、ヴェルナー家のライル様から下された『血の金貨』です……!」
「ひっ……!? なぜ我が孤児院にそんな恐ろしいものが……っ!」
職員たちが震え上がる。
「考えてもみなさい。昨日は泥棒がピラミッドにされ、今朝は庭が闇市になっていたというあの御方が、理由もなく一般市民に莫大な財宝を配るはずがない……! これは我々の『忠誠心』と『危機管理能力』を試すためのテストだわ!」
「なんと……! もしこの金貨の使い道を少しでも間違えたり、あるいは受け取りを拒否したりすれば……我が孤児院の一族どころか街全体が消し飛ぶのでは……っ!?」
「その通りです。ライル様のご慈悲に報いるため、そして我々の忠誠を示すため、この金貨のすべてを捧げ、今すぐ孤児院の建物を『純金製の内壁を持つ難攻不落の要塞』にリフォームします!」
同じ頃、近所の商店主や住民たちも、それぞれの自宅で全く同じ恐怖の結論に達していた。
「裏の王からの血の金貨が配られたぞ……! ただで使っては不敬にあたる……! この金を使って、一晩で街の防衛力を最高潮に高めなければ、我々は粛清される!」
そして――その夜。
辺境の街は、完全に狂気のるつぼへと突入した。
住民たちは一睡もせず、たいまつの明かりを煌々と灯しながら、配られた金貨や宝石を全額ブッ込んで街の改築工事を猛烈な勢いでスタートさせたのだ。
「もっと高い壁を築け! 敵の侵入を防ぐ黄金の門を作るんだ!」
「広場の中央には、我が君の偉大なる姿を模した『巨大金ピカモニュメント』を建立しろ!」
「夜を徹しろ! 夜明けまでにこの街を要塞都市に変えるのだ――っ!」
ゴゴゴゴゴ……と、街中から不気味な地響きと金属音、そして労働歌(のような悲鳴)が夜通し響き渡り続けた。
そして迎えた、翌朝。
「……はぁ。今日も今日とて、すっきりと目覚めのいい朝だな!」
ライルは伸びをしながら自宅の玄関のドアを開け、新鮮な空気を吸おうと外へ踏み出した。
だが、その視界に飛び込んできた光景を見た瞬間、ライルの足が床に縫い付けられたようにピタリと止まった。
(…………は?)
言葉が出なかった。
昨日までただの鄙びた田舎町だったはずの景色が、完全に塗り替えられていた。
目の前には、チカチカと目に痛いほど黄金に輝く巨大な防衛壁がそびえ立ち、街のあちこちにはライルの顔に似せた(なぜかやたらと強面な)黄金のモニュメントが乱立している。さらに、大通りは赤く敷き詰められた絨毯と、厳重な武装をした住民(※全員怯え切った顔)が敬礼して待機する「完全に要塞化した暗黒帝国の首都」そのものになっていた。
「なんだこれえええええっ!?!?」
朝の静寂を粉々に粉砕するライルの悲鳴が、黄金の要塞都市の空にこだました。
「俺は! ただ不用品をチャリティー感覚で配っただけだぞ!? なんで一晩で街が魔王の最終防衛拠点みたいになってんだよ!! 誰が黄金のモニュメントを作れって言ったんだよ!!」
ライルが頭をかきむしりながら絶叫していると、背後からカツ、カツ、と優雅な足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには王国最強の騎士団長・シルヴィアが、眩しすぎる黄金の街並みをうっとりとした表情で見上げて立っていた。
「おや、我が君。朝からご機嫌いかがですか?」
「ご機嫌斜めどころか半狂乱だよシルヴィア! 見ろこれ! 街が! 街が勝手に要塞化してるぞ! 俺が昨日配った小遣いが、なんでこんなテロ組織の本拠地みたいなリフォームに使われてんだよ!」
ライルが半泣きになりながら訴えると、シルヴィアはふっと優雅に微笑み、神聖なものを讃えるかのような声でこう言った。
「ふふ……さすがは我が君。ただ財宝を配るだけでなく、一晩にして民心を完全に掌握し、街全体を鉄壁の要塞都市へと生まれ変わらせる――これぞまさに、天下統一を目指す覇王の『大規模経済政策(富の再分配と軍事強化)』ではありませんか!」
「どこが覇王だ! 俺はただの一般人なんだよ!!」
「住民の皆様も、我が君のあまりの遠大なカリスマ性に感動の涙を流しながら、寝る間も惜しんで街を防衛拠点へと造り替えたと聞いております。あぁ、この街はもう、誰も侵入できない聖域となりましたね」
「聖域って言うな! 治安が良すぎて逆に誰も近寄れねぇよこんな物々しい街!!」
ライルが頭を抱えて崩れ落ちていると、そこへ、いつもの青白い顔をしたエリート騎士がフラフラと歩いてやってきた。
王国騎士団副団長・アルベルトである。
アルベルトは、黄金に輝く要塞都市と化した街並みを見上げ、そして――言葉を失った。
彼は震える手でお馴染みの胸ポケットから特製の胃薬を取り出すと、水なしで一気に三粒飲み込み、ようやくかすれた声を絞り出した。
「……ライル殿」
「なんだよアルベルト……お前も何かツッコんでくれよ……」
アルベルトは感服したような、あるいは恐怖に震えているような複雑な眼差しでライルを見据え、深々と頭を下げた。
「……恐れ入りました。まさか、泥棒をピラミッドにし、闇のブローカーを心酔させただけでは飽き足らず、今度は住民たちに『血の金貨』を配ることで、一晩にして街全体のインフラと軍事要塞を無償で構築させるとは……。これほどまでのマクロ経済操作と恐怖政治の手腕、私の知る王国のどの政治家をも凌駕しています」
「だから恐怖政治じゃねぇよ!! 俺は善意のチャリティーをしただけだ!」
「謙遜なさるな。あなたの優しさと冷徹な統率力が融合したこの要塞都市を見れば、王国中枢の財務官僚たちも全員失神することでしょう。……ちなみに、我が騎士団の予算も、あなたのこの手腕を見習ってほしいものです」
「見習うな! 騎士団まで要塞化しようとすんじゃねぇ!」
ライルが絶叫する中、黄金の要塞と化した街のあちこちから、住民たちが「我が君の栄光に永遠の忠誠を――!!」と震えながら敬礼する声が響き渡るのだった。
こうして、ライルの「善意の処分」は、街全体を巻き込む大事件――「暗黒帝国の要塞化」へと完全に定着してしまい、彼の胃酸の分泌量はさらに限界のその先へと突入していくのだった。
後書き
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第31話、「血の金貨のチャリティーパニック!? 街が一晩で黄金の要塞都市に変貌した件」いかがでしたでしょうか。
庭の財宝を処分するために孤児院や近所の住民に気前よく配ったライルですが、住民たちがそれを「忠誠度を試す血の金貨」と勘違いし、一晩で街を黄金の要塞都市へとリフォームしてしまうという大パニック回をお届けしました! シルヴィアの覇王フィルターも絶好調で、アルベルトの胃薬の消費スピードもいよいよ音速の領域に入ってきましたね。
しかし、街が要塞化してしまったということは……次に来るのは一体――!?
次回、第32話(財宝編クライマックス)はついに、
【街の住民たちが勝手に「ライル様の戴冠式(お祭り)」を企画・開催し始める系】!
要塞化した街の住人たちが「ついにこの街が正式に暗黒帝国の首都に昇格した!」と勝手に盛り上がり、街をあげた盛大な「戴冠式(お祭り)」をスタートさせてしまい……!?
それでは、また次回の第32話でお会いしましょう!




